殺戮の言霊二話
「いらない人間なんかいないって嘘だよな」
雑音の中から浮き上がってきた言葉が耳をうつ。
正直、文月はそんな言葉は聞きたくなかった。
聞いてしまうと、自分がいらない人間だと思ってしまうから。
「例えば動物虐待とか、動物にしてみれば確実にいらん人間だろ。人や物にもよるよな、いらんとかいるとかって。っつか、人間だっているものいらんもの選別してんだから人間だけ全部いるとかおかしいだろ」
ごもっともすぎる。だから、逆に言葉が痛い。
月影草二の言葉は、いちいち刺さる。
「でも、望まれて産まれてない人間が全部いらないかっていうと、そうでもないような気がするよ」
「俺もその台詞言われた気がするなー…。まあ子供だろうがなんだろうが結局個人だってことだよな。いくら自分の子供でも理解できないときもあるだろうしよ」
「特に子供はね、って気がするよ。俺だって子供の頃は結構虫とか平気でさー」
「蝉の羽化とか平気でさわっちまったことあるぜ?あれやると、蝉は飛べなくなるんだよな。」
それは、私かもしれない。
言葉は一番誰もがつかえる簡単な凶器だ。
今、私は君に殺意を覚えた。
よもすれば、次の瞬間には白昼夢だったかのような、うつろな時が横たわる。
人といても一人でいても、私は一人だ。
混ざる感覚なんてない。
放課後。雨が降っていた。
朝の予報で言っていたから、ちゃんと傘は持っている。
でも…。
「あーーー雨か。しょーがねーな。」
「はい」
「ん?」
「折りたたみと、大っきいかさ二本持ってきちゃったから」
月影はにぱーっと笑って折りたたみの傘を受け取った。
「サンキュー、文月は優しいな」
本当に嬉しそうなこの顔をみて、やっぱり、文月は彼とは相容れないな、と思った。
彼はあまりにも普通の少年すぎて、影が無く、容赦のない光で夜を灼く。
彼の言う事は、あまり真面目に聞かないようにしよう。
人は傷の少ないものを好む。
それは、人であっても同じなことを文月はよく知っていた。
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