では最終回、どうぞ。
あれから三日。
ようやくエルスが目を覚ました。グレイからの魔力継承から、ねっぱなしだったのだ。
「うーーーーやっと起きた。」
のんきにのびをした後、大丈夫、俺正気。といった。
「そう、じゃあどれくらい正気なのか証明できる?」
今まで心配してたとは思えない冷ややかさを演じている口調でエルムが言った。
「視界まっくらじゃないし、体もだるくないしお前の顔もちゃんと見えてるぞ」
「どんな顔かわかる?」
「怒ってる」
「ーーーーったり前でしょ!ったく、何を好き好んで人の魔族の力もらっちゃったりするのよ、あなたは!」
まあ半分酔った勢いだなあ、なんていうと物が飛んできそうだ。
そんな正直なことを言うのはよそう。
「んーでもまあ、人間多かれ少なかれ、爆弾を抱えて生きてるようなもんだぞ?ただ、それが性格上のものとか、体がどっか悪いとか、色々ちがってるだけで」
これでも、楽天的にもほどがある、って顔してるけど。
「完全悪ってのもないし、完全に良いってのもないわけだ。ところで、エルム。」
いつも通りのエルスの言葉に、どういう顔をしていいのかわからないので、とりあえず拗ねている顔をした。
「何よ」
「それに、だいたい俺は狼男なんだからもともと魔族の部類にはいりますよ」
しれっ、と言ったが事実である。
「だから何よっ」
「心配しなくてだいじょびだー」
ぶいー。
って、案の定枕がとんできた。
「ばか!!」
「もー、エルムは怒りっぽいなあ。よし、にーちゃんがお菓子でもかってあげよう」
沈黙に、郷愁がにじみ出る。
「…なに、それ」
「いいことばっかでもないけど、悪い事ばっかでもないってことだ。ってことで、とりあえずそろそろ着替えたいから部屋でてー」
「………もー…」
「いや、見たいんなら見ててもいいけど」
「誰が見たいなんて言ったのよ!すぐ出てくわよ、もー」
誰かさんの記憶の中のかわいい子供時代とはえらいちがいだなあ。
真っ暗だった記憶の中のほんのひとかけら。
泣いているエルムの小さな手を、一回りくらいしかかわらない小さな手が握っている。
皆には内緒だからな。
兄ちゃんがおかしかってやるから、泣き止むんだぞ。
わかったな?
しばらく、しゃっくりあげる声。
………うん。わかった。
もちろん、そんな記憶は一握りだ。
ただ、それでもその記憶がグレイをぎりぎりまで人間たらしめたのも、事実だった。そしてその記憶を継承した俺も、これから何があるのかまでは保証ができないが、できうる限り人間であろうとしつづけるだろう。
優しいのは強いことだ。ある意味、強がりだけど。
…って、あれ、そういえばマゼンダはどこにいったんだろう。
さて、一方。
マゼンダはというと、ブライダル家の居間でお茶とクッキーをぱくついていた。
「で、知らんうちに奴らは成仏してたと。」
「とりあえずグレイが最後どうなるかだけ見たかったみたいね。みんなアレな死に方したわりには、死んだ後納得してたみたいだし」
「俺なら絶対納得せん死に方だがな…」
「まあ、納得する死に方ってのもないと思うけどー」
「それはそうだが」
まだ異論はありそうな旦那を押さえて、サラが言う。
「納得しない今よりもう次の人生にゴー、って感じだよね」
こくこく、とマゼンダがうなずいた。
「まさしくそれよね。生まれ変わったって自分じゃないけど、自分はもう終わってる訳だから、未練のこしても一緒だから」
「でも、グレイさん、ついでにロッドについてる霊まではらってくれたなんて、やっぱり本当はいい人だったんだねえ」
ほう、とお茶を飲みつつ一息。
いや、殺されてたたろうとしてた霊はらったって逆にひどい気はするのだが。
まあ人間てたいがい自己中心的なものなのね。とマゼンダは人知れず納得した。
「龍神様もたいしたことなくて良かったわね。」
「そうだよー、龍神様の力使ったのが逆に土地の魔力使い減らして丁度よくなったなんて…よくも悪くも力はほどほどですね。ね、龍神様」
お酒飲んでほどほどによっぱらってご機嫌で寝てる龍神様であった。
「まったく、なんという気楽な神だ」
ロッドはぼやきつつ、龍神様サイズに合わせたミニブランケットをかけてやった。
「あら優しい」
言葉は感心してるようだが、からかうニュアンスがにじみですぎて不評だった。
「それより、エルスは大丈夫なのかほっといて」
「心配しなくても大丈夫よ。エルムが何かあったら私がなんとかするって言ってたもの。」
マゼンダは若干不満そうだが。
「それより、エルム寝てる途中にグレイにお願いされちゃったのよ、死んだ彼女にお花あげてきてー、て」
「あ、それで外行く格好なんだね?」
見るといつもより若干地味で動きやすい服装をしている。
「ちょっと遠いのよね、彼女の故郷って。ここからだと三日くらいかかるかしら。あの二人はどうせ大丈夫だろうけど、一応みててくれる?」
「三日くらいで何を言ってるんだ。お前も案外心配性だな」
ロッドのあきれた顔に、マゼンダは冷笑した。
「言っとくけど、変わる時って一瞬なんですからね。嫌というほど知ってるわ。」
「まあいいからいってらっしゃい。おみやげよろしくね」
「変えない努力はしといてやるから、いってこい」
あっさりと流されてちょっと肩を落とさないこともなかったが、まあいい。
「じゃ、行ってくるわ。」
風がそよぐ。木が揺れる。
少ししかいない村だったが、すぐ戻ると言葉がでた。
ここにいた事実は、それが最大で、それがすべてなのだろう。
雨も曇りも空はそら。
だが、晴天の気持ちよさというものを体現する空の色は格別だった。
青というより、水の色。
このほしのいろ。
みんな、この色の下に。
「…て、エルスが目さめたと思ったらマゼンダ待たなきゃいけないとか何よそれ!?どいつもこいつもーーー!!」
「まあまあ、エルム。マゼンダだって多少いい加減なところはあるさ」
エルムは、きっとエルスをにらんだ。
「あなたにうつされたんじゃないの?」
「じゃあ、ますますエルムがしっかりしなきゃ駄目じゃないか」
真面目に返されてエルムは頭をかかえた。
「俺だっていい加減なりにしっかりするからだいじょぶだ」
「はいはいはいはい、わかったわよー」
んーとにもー、とかいいながらも、まんざらでもない。
いつの間にか、いい加減とかいいながらも周りを信頼できているように思う。
時々後退もするけれど、確実に前進していると―――。
そう思わないと、やっていけないのであった。
(終)
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