にざかな酒店

キラーワーズ第一話、二話

双子ネタばれする話の方を再録しようと思ったのにデータが見当たらなかったので、ちょっと続きをかきたい気もするキラーワーズのシリーズの一話をとりあえず再録します。
これ、実は6話あたりでしようと思ってた仕掛けがあったんですよね…なんかうやむやになってたけど!
…あれ、そういえばブラッディストの一話はデータどうなんだろう。また探してみます。

一話ずつ掲載と思ってたのですが、二話のグロさをすっかり忘れていて、のほほんねこのーとなんてタイトルでいきなりあれみたら…あれだろう、と思って一話と二話同時掲載にしますね。
実は言ってる六話の仕掛けもちょっとひどいんですが、猫メインの方はみなかったことにしてくださいましー。
キラーワーズ第一話。

それはふとした時の気まぐれの様な会話だった。今までしてた話が途切れたから、彼はその話をふってきただけなんだと。あたしはそう思っていた。
「なあ、麗香。キラーワーズって知ってるか?」
「知らない。なんなの、それ」
「都市伝説の一つだと思うけどな。呪力を持つ言葉で、人を死に至らす事が出来る能力者…」
「へえ、ねえねえそれ、外国人のかっこいい男だったりしないの?金髪でさ、悪をばったばったとなぎたおし…」
彼、今果耕司(いまはてこうじ)はぽかっとあたしの頭をたたいた。もうやだ、こいつすぐぶつんだから。
「ばっか。ちげーよ。キラーワーズは純粋な日本人女性だ。文月小夜香っていう…」
「女なの?つまんないわね。で、なんでそんな伝説ができたわけ?死んだ人っているの?」
耕司はしばし、あたしの目をみてからうーんとうなって、
「最近自殺者多いからじゃね?」
と適当と思わせる台詞を吐いた。
「生は地獄だ。死に幻想を求める奴が多いから、そんな伝説が生まれるんだろうさ」
皮肉ぶる口ぶりと染めた金髪の似合わない、ミスマッチな男。あたしは耕司のことをその程度にしか理解していなかった事を、後になって思い知ることになっ た。
だって、次の日に耕司は死んでしまったから。
あたしは泣かなかった。
ただあの日交わした会話、キラーワーズのことだけが頭をうずまいていた。もし本当だとしたら?死ねと言うだけで人を死に至らしめる事が出来るのならば、あ たしがもしそんな能力を持っていたら。
だとしたらあたしはむかつく人間を端から殺し、あたしを知っている人間もすべて殺してしまうかもしれない。あたしほどあたしを憎んでいる人間はいないのだ から。もし、そんな能力を持っていたら、だけど。
被害者と加害者ならば、加害者がいい。しかし被害者の周りにせめられるのは嫌だ。そして自分の味方だと思っていた人間にせめられるのも。
それだったら、最初から味方などいなければいい。
一人で居れば良いのだ。
でも行きて行く限り本当に一人になんてなれやしない。
だから、消すのだ。

それが、キラーワーズ。

この町では日々人が死んで行く。それは誰かの気まぐれのように。
誰かが消して行くように。
きっと、実在するのだ。耕司はキラーワーズを知ったから、死んでしまった。交通事故だと言っていたけど、こんなタイムリーな交通事故なんてあるだろうか。 怪談をしたその日の翌日にはもう死んでいるなんて。
ありえない。
百歩譲って、能力はなかったとしても、何らかの理由で人を死に至らしめてしまった原因を作ったのがその女だったとしたら。きっと噂は死んでも広められたく ないに違いない。もし偶然が重なって二人、三人と死んでしまったら、完全にタカが狂ってしまうだろう。あのときも偶然聞いていて。あとをつけてきたあと耕 司を道路に突き飛ばして、逃げた。とか…?
無理はあるかもしれないが、絶対に何かの意思が働いたに違いない。
だってあいつが死ぬ理由なんて、あたしには思いつかないもの。
それに、文月小夜香なんて、いかにも実在しそうな名前じゃないの。
あいつが死んだのは、あたしには何の責任もない。

その日の夜、あたしのもとに一人の女がやってきた。
黒いワンピース、黒いタイツ、黒い手袋黒い靴。そして蝋人形の様な顔立ち。
当然のように、見覚えの無い子だった。
「日比野麗香…さんですね。わたくし、今果耕司さんのお知り合いで、文月小夜香と申します。」
「………え?」
「あなたにはお分かりでしょう。文月小夜香です。」
「あ、あんたが…あんたが耕司を殺したの!?」
女は端正な顔を歪めて微笑った。
「まあ、人聞きの悪い…。私はある人物に少し入れ知恵をしただけです」
ある人物って誰よ。
「お話を聞いていただけませんか?耕司さんの死の真相を」
「その後、あたしも殺すつもりなのね!そうはいかないんだから…」
さいわい、ここは私の部屋だ。その気になれば、包丁だって、カッターだってある。向こうはみたところ何の武器ももっていない。ただのか弱い女だ。勝ち目は 十分にあるだろう。
「私を殺すんですか。」
ドアの向こうから、静かな声。
「ドア越しで、どうやって殺すって言うのよ」
「たとえば…声、とか?」
「それはあんたでしょ…耕司から最後に話を聞いたのはあたしなんだから。なんのつもりでやってきたのよ。まさか本当に口封じにきたんじゃないでしょうね」
「私はあなたを殺すつもりはありません。」
嘘だ。じゃあどうして耕司は死んだの。
「耕司さんが死んだのは、あなたが殺したからです」
「あたしが?なんでそんな事しなきゃいけないのよ!?」
「覚えてないんですか?あなたは昔毎日耕司さんを虐めてたのに?」
この女は一体何を言っているんだろう。すべてがとんちんかんだ。まさか、とは思うけど、全く別の誰かに違う知識を詰め込まれてきたんだろうか。じゃあ、キ ラーワーズとかいう都市伝説ってなに。耕司のおふざけ?どっちにしても、家の前であなたが殺したとか言われてたら、悪い噂がたってしまう。あたしは半ば呆 れてドアを開けた。
「話を聞きましょうか。なんであたしを犯人扱いするわけ?誰がそんな事言ったの?」
「だって…あなたじゃないんですか。小学生時代、誰か虐めてたでしょう。」
「虐めてたとしても、そんなの覚えてないわよ。こっちだって必死だったんだから」
「ああ…だから、死ぬ必要なんて無かったのに。」
「ちゃんと事情を話しなさいよ!いい、あたしは、耕司からあんたが超能力で人を殺し回ってるって都市伝説を聞いてるの」
「耕司さんはあなたを殺すつもりでした。でもそれが出来なかった。だから、苦し紛れにキラーワーズの話をしたんです。誰かを傷つけることが、彼は恐かっ た。恐くて恐くてしかたなかった。復讐されることよりも、情が移ってしまう事の方が。だから、彼は当てつけに死んでしまった。」
「なんで殺すつもりになったのよ?」
うつむいていた彼女の瞳が、一瞬光った。
「それは、あなた自身が一番知っていることでしょう。あなたは彼に少しの情もうつしていなかったじゃないですか。耕司さんは昔自分を虐めていた女とつき あって、こっぴどく振ってやろうと思ったのに、あなたはいつまでたっても彼に心を開かなかった。いえ、彼だけじゃない。他の何にも。」
「………」
「自分が傷つけてやろうと思っていた物の方が、自分よりもずっと傷の深い物だったことに、彼は絶望したんです。」
「…もっともらしく聞こえるけど、嘘よ…なんで耕司はあんたにそんなことをべらべらと、だいたいあんたあたしとは何の面識もなかったじゃない」
「それは、私だって耕司さんと知り合ってから間もありませんから」
「それがおかしいのよ!なんで知らないあんたにそんなこと話す訳!?だいたい、耕司こそ何も言わなかったんじゃない!ほんとに私が虐めてたんだって知った ら、私だってちょっとくらい同情するわよ!」
「………私は、事情の説明を頼まれただけですから。これでおいとましますね。もし、キラーワーズの力が本当にいるときは言ってください?楽に死ねますわ よ。」
そういって、文月小夜香は消えて行った。
あの話は、本当か、それとも嘘か。
どちらにしろ、耕司が死んでしまったのは事実なのだ。
それだけは変わりようの無い…。暗闇に溶けた事実。死んでしまえば何もかもが夢。ああ、だからキラーワーズなんて幻想をみたのだろうか…。

この町では日々人が死んで行く。
何かに消されて行くように。
愚かな幻想に消されて行くように。
すべて等しく、傷を持った人間ばかり…。
そして私はキラーワーズを呼んだ。
ここは屋上、見渡す限りのネオンが、耕司が私を呼んでいる場所。
それこそが幻想だろうか。
私は瞳を閉じた。

二話
いつも発散できない何かが静電気みたいにパチパチと音をたてている感じがする。
自分の言いたい事をすべて言えないもどかしさ。せめて何かの形として残せれば、それは少しだけ発散できるのだろうが。しかし、生きていればなお発散できな い何かがたまっていく。別に悲観してるわけではないけれど。
ちょっとすっきりしないだけ。
このぼんやりした視界みたいに。受け止められない事が多すぎるだけ。
この間買ったばかりの眼鏡をかけると、それらはすこしだけはっきりする。しかし…あの時も、眼鏡をかけていたから。
子供がはねられた交通事故。
コンクリートは赤い血で塗れた。
あれから、今も視界に赤い物がときどきちらつく様な気がしてならない。
そしてそれは意思をもち、私に絡み付いてくるのだ。
「その視界、殺してあげましょうか」
気配無くたたずむ、黒衣の女が言った。
「…あなた、誰。いやな冗談なら、よそで言ってほしいんだけど」
私はつっけんどんに言った。視界を殺す、なんてどういう意味?知らない人間にいきなり殺す宣言される様な事はした覚えもないし、する覚えもないというの に。
「私は、文月のキラーワーズ…と言っても、あなたみたいな人はしらないでしょうね。」
「知ってるわよ、怪談でしょ。でそのキラーワーズさんが何の用?」
「あなたが私に用がなければ、私も用はありません。」
黒い女は意味深な微笑を見せてから、きびすを返した。ゆっくり歩いているようにしか見えないのに、すごくはやい。と…視界がまた、変な感じにぼやけた。赤 く歪む視界。そして、女はもう、いなかった。

「刻、また掲示板に成績張り出されてるよ。こんどはあんた、10位だって。勉強もしないのによくそんだけできるね」
霞という少女がそういって私の手を引っ張った。勉強してない訳ではない。授業中だって、ちゃんとノートはとってるし、最低限の復習はしている。ただ、周り に勉強ばっかりしてる子だと思われるのが嫌で休みの日には頻繁に本屋にいってるぐらいだ。
「まあでも女の賢いのはそんないいこともないらしいけど。少々馬鹿の方が男だってよってきやすいだろうし?」
そういう霞は、まさに少々馬鹿で男のよってきやすいタイプだった。いや、馬鹿を自演している。遠慮ない言葉に横柄な態度、しかし、それが許されるのが、彼 女の馬鹿さ加減。とんちんかんなことを言って皆を楽しませているのだ。
「別に私男にモテたくないから、いいのよ」
「まったそういうこという~負け惜しみ?」
「ほっといてよ」
私は彼女の手をこんどこそ振り払った。正直言って、この手のたぐいは嫌いだ。
「だからよう、ほんとにあったんだって、文月って家!」
耳に飛び込んできたのは、男子達の会話。たしかあれは、凪という子だ。
「あーでもだからっていってキラーワーズってわけじゃないだろ?たまたまだよ」
「そのキラーワーズに、私今日会ったわ」
私は意を決して、会話に入り込んだ。一瞬空気の凍る瞬間。
「え、ま、まじ?どんなだった?」
「人形みたいな顔で、黒のワンピースでしょ、それから髪が凄く長かったわ。ほんとにキラーワーズって名乗ってたけど、たんなる怪談に乗じたパフォーマンス かもしれないわね。」
「で、なんつわれたの?」
「視界を殺してあげようかって。」
「げげ、それ本物だ、本物だよ!?」
「刻やべえよそれ」
「で、そのキラーワ-ズさんは具体的には何する生き物なの」
男子達はしばし考え込む。
「つってもなあ…この学校じゃ目撃談も聞かねえし…なんか呪力を持った言葉で云々ってのはきくけど…」
「しねっつわれただけでほんとに死ぬなんて眉唾だしなあ」
そんな形の無い物に興奮したり、おびえたりできる彼らは本当、めでたい。
「じゃあ会っても危険な事は無いんじゃない?」
そういうと、凪は難しい顔で、
「いや、それがあるんだよ…従兄弟でさ、今果って奴が居たんだけど、キラーワーズの本名とか、調べたらしいんだよね。そしたら、近いうちに死んじゃって… 自殺だと言ってたけど、多分殺されたんじゃないかな。何か恋人も自殺しちゃったらしいし、ほんとたたられてるんだよ」
と言った。別に誰が死のうが、私には関係ないし、キラーワーズがほんとにあの女とも限らないし、それでは心配する事は何もないのだろう。
ただの一例だけで、その怪談が本当だなんて私には信じられないし。
「対処法とかはないの?」
「聞かねえなぁ…ほら、貞子とかも対処法無いじゃん、みたら殺されちゃうじゃん、あんなのと一緒だよ」
ふうん、と言った途端、眼球がじくり、と痛んだ気がした。
まただ。ふつふつとわき上がる赤い視界。私以外のものが人間に、見えなくなる。ただの肉に。
疎ましい、おぞましい、意思だけの。

私は帰り道でナイフを買った。
こういうのはアンティーク用で殺傷能力はないかもしれないが、攻撃手段がいつでも手元にあれば少しは安心するかもしれない。しかし私の敵はなに?キラー ワーズ?それとも、ただの肉にしか見えないクラスメイト?
じくり、じくりと痛む視界。電柱の影に隠れたなにか。
付けねらわれている。
誰に。
それはもちろん…。私は電柱の影から突進してきたものに向かって、ナイフを突き刺した。
顔も年令も解らない、ただのおぞましい肉。ずぶりとした感触はまるで泥沼にはまって行くように。そんな訳にはいかない。ナイフを抜いて、もう一度さした。 わけのわからないうめき声が漏れる。ああ、ただの肉のくせにそれではまるで人間のようだ。何度かすると、肉はくずおれた。くつにのせられた手らしき肉塊を ぴっとはらう。
視界が元に戻る。
私がさしたのは見知らぬ、サラリーマンだった。ただの痴漢か、なにかだったのだろうか。今となっては、知るすべも無い。
殺してしまった。いや、殺してあげたのだ。このひとだって、こんなにおぞましい生を生きたかった訳ではないだろう。ピリオドを打たれて、嬉しそうな顔をし ているはずだ。じくり。じくりと赤く染まる路面。
「だから、視界を殺してあげようかって言ったのに」
鈴の様な声は痛ましく思っているのか、それとも、喜んでいるのか解らない。
気配のない黒い女。そう彼女はちゃんと女性に見えた。なぜ、こんな汚れた世界で彼女だけ女性に見えるのか…。
「血に取り付かれちゃったのね。ただみているだけで助けもしなかった通行人だったから、たたられちゃったんだわ。でもあなたはそんな自分を哀れんですらい ない。傷も何一つ負っていない。傲慢で救いようの無い人間」
「だまれぇぇぇえ!」
何故お前だけが綺麗なのだ、私はこんなに血で汚れてしまったと言うのに!何故お前だけが汚れもせず人が殺せる!
私はナイフをキラーワーズの腹に突き刺した。
彼女の声は聞こえない。いや、聞こえていてもその言葉は全部呪いだろう。だってこいつはさされたんだから。

覚醒、した。
ここはいつもと同じ帰り道。
たまに車が通る以外は何も通らないような細い細い路地。私は人と会う事を本能的に拒んでいるのかもしれない。
そんな時に、ふと前から現れる黒い女。
そして彼女は言う。

「視覚を殺してあげましょうか?」
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