にざかな酒店

殺戮の言霊最終話

ってことで、最終話です。あんだけひねくれといた癖して最後が割と王道とは…!
なんかこの展開、割と某バイク乗りのお話が頭をちらつきましたが、とりあえずそれはおいておきました。
まあ、それと、なんかリメイク前の原型は何処って感じです。
バッドが描きたくて始めたのに、案の定かき出したらバッドエンド描く余裕無いとか、実は想定してましたが、色々不満もありますがっ、とりあえず刻停間がんばってリメイクできてよかったー。

では続きでどうぞ。

殺戮の言霊最終話

何をする気もなく、ただ雨の音を聞いている文月のもとに、藤村から電話があった。電話というものは不思議なもので、聞いていたはずの声でさえ誰だったか悩んでしまうものだ。音だけというのも重要なファクターかもしれない。
「あのね、思ったんだけど、あなたの能力ってリーディングはできないのかしら」
「リーディング?って、なんの?」
「犯人のこと、しりたくないの?」
やっぱり、藤村はかなり強引な人だ。
「皆月の当主より先に事件を解決する方法があるんじゃないかと思って」
「それが…」
「そう、あなたの能力。」
確かに、一方的に敵に回るだの言われて黙ってるのもしゃくな気はしなくもない。だが…。ああ、でも、悩むのも面倒くさくなってきた。
「…できるか解らないけど、やってみる」
はじめの一歩なんて、きっとこんなものなのだ。気づいたら、踏み出している。
遺体のあった場所は、もう厳重なテーピングだけで、後は誰の気配もなかった。
生きていたときは、彼女に聞きたい事なんて無かったろう。
だけど、今、何故彼女が殺されたのか知りたい。
そっとテーピングを崩さないように文月は手を差し伸べた。
合流した藤村は、緊張もあるだろうが、意気揚々としているようにも見える。
「読めた?」
「…というか、狂ったピアノの音がする…ような…」
よくわからないが、彼女を殺した犯人の名前らしきものが感じ取れた。
「月影…虚一?」
「…そんな名前だったかしら、彼」
「月影君は「草二」だったはずよ」
二人して、考え込む。進展どころか、いない人間ではないのだろうか、これは。
「なら、誰をあたればいいのかしら」
藤村の言葉に、何故か「彼」の顔が浮かんだ。

「いつものちっちゃいお姉ちゃんはどうしたんだい?」
スーパーでいつものおばちゃんに聞かれて、空斗は「ちょっと調子崩してるんで」と普通に答えた。
大丈夫、普通だ。
これ以上、何も起こらない。でも、そんな自信はどこにもない。
「風邪かい?なら、これいいよ。カンのポタージュ」
「ポタージュ?りんごのすりおろしとかじゃなくて?」
「なんか本にかいてあったんだよ」
ぶっきらぼうなおばちゃんの言い方に、空斗は少し笑って、「じゃ、それも」といった。メニューは、ポテトサラダにちょっと迷ったがかにクリームコロッケ。どういうわけか、貴志美一族ほとんどこれが好物というのを聞いていたのでそうセレクトした。に、カンのポタージュ。なかなかバランスよろしいんじゃないだろうか。
うん、大丈夫だ。
大丈夫って繰り返してれば、だいじょうぶになる気がしている。
雨は小雨になっていた。
公園のところにさしかかったところで、なんだか影のようなものが前を横切った。
雨の中の緑はどこかうっそうとしていて。
それじたいが影のようでもある。
「大丈夫、な、わけねーだろ。犯人だよ、お前は」
影の言葉はこもってよくわからなかった。
「お前は月影行ってりゃ、虚一だったんだよ…考えてもみろ。お前は今まで何を糧にしてきた?本当に、何も苦労してないなんて思ってるか?魅厘の記憶操作だよ。琉留と同じようにな…」
そして、恨みなんて感じてないなんて思うか?
何年も何年もほったらかしにされて、今更。
薄ら寒いほどの、悪意。
その固まりが、実は俺だって言う。
だけど、俺じゃなきゃ、解らない事を、言っている。
やっぱり、俺は―――。
「琉留はどうせ駄目だ、わかるだろ?」
そして、悪意は人の形をとり―――そして俺になった。
「じゃあ、小夜香を殺しに行こうぜ」
そんなこと、望んだ覚えがあったのだろうか。

狂ったピアノの音がする。
ねじれねじれた道路は何かの絵画のように意味をなさない色彩でいっぱいだった。
それからどう歩いたのかわからない。けど、空斗は文月小夜香の首をしめていた。俯瞰する視点はどこか、非現実めいている。
だけど、現実ってなんだろう。
ばし、と、何かが飛んできた。
「文月、大丈夫か!?」
真横からとび蹴りを食らわされて、空斗はまともによろけた。
ごほごほとむせかえる文月の横にまわってきた月影が、彼を見下ろす。
「お前、だって―――お前(オリジナル)だって、小夜香のこと―――」
「あーわっかんねーな。俺の体はなれた時点で、お前は俺じゃねーってこと、わっかんねーか、じゃ、なんで皆月にくっついてやがる」
「魅厘が、しゃべったのか」
「ほらな俺とはだいぶ離れてるだろう、文月」
だいぶ盛り上がっているようだが、文月はなんのことだかさっぱり解らない。
「最初から、月影と皆月の会合でお前は消す事に決まってたんだよ。あ、外身の空斗はちゃんとおいとく、な?」
にやり、と月影はわらった。
後ろから、白い着物の魅厘がたっている。
「まあそんなわけだから、観念しろ。」
「そんなわけに―――行くか」
ぶおん、と黒い影が宙を舞ったが、空振りに終わる。
「その体を取ったのは、不覚だったな。空斗は、能力の効きにくい体だ。その体を乗っ取ってる時点で、お前はそうとう消耗している。もうそろそろ、消えるんじゃないか?」
「そんな―――」
っつか、乗っ取る前にわかんねーのかよ。と、月影。
「まったく、月影君も、皆月君も、―――怒ったから、私。」
その中身消してあげる。
「人の悪意なんて、死んでもなおらねえ―――俺が、死んでも」
言葉の通り、黒い影は揺れながら消えていった。
「文月さん。あれは、空斗でも草二でもない。もとはなんであれ、もう関係のない話だ。」
「そんなことを言ってるんじゃ、ないの」
私だけ振り回されて、馬鹿みたいじゃないの。
怒っている文月の後ろで、月影が、「俺も怒ってる。起きろ、皆月。喧嘩すっぞ」と空斗を揺り起こしていた。
「………それじゃ、私たちは、家で皆の分の料理作ってましょうかね」
魅厘の後ろから、すっかり普通の琉留の声に、空斗は飛び起きた。
「琉留さん!?どうしたの、だいじょう、ぶっ」
ぶ、の声が飛んだのは、月影が横から腹を叩いたからであった。
「だから言ってるだろ、絶望するのは、本当に絶望してからにしろよ、お前ら!」
「…今のは、怒ったよ、月影」
叩かれた腹の底から、空斗は恨みを吐き出した。
「ほれほれ、やる気になったか」
挑発する月影のふらふらとふっている足を捕まえにいく空斗。
ああ、これは珍しい彼の本気だ。
そして、今まで行き場のなかった彼らの本気だ。
ならば夜があけるまで、するといい。
文月は、本当に夜があけるまで戦った彼らを見届けた。

「で、貴志美さんのことは彼に聞くといい、の小弥山さんです」
にこにこにこー、と笑っている彼を前に、藤村はぽかん、とした顔をした。
「鳥野さんの一番の友達でしたー」
「おー、ありがとう皆月よ。やっっとあえて嬉しいよー」
しばらく、藤村は無感動に小弥山を眺めたあと。
「…そんな展開にするんだったら、最初っから話出してくれる?」
軽く空斗をねめつけた。
「いや、なんやかんやあったし、君最初強烈すぎたし」
ぶつぶつ、と藤村は「私が悪いみたいに言わないでくれるかしら」と呟いた。
「まあまあまあ、いいから。なんでも俺に聞いてくれーとりあえずまあ茶ーでもしばきにいかんかーってこれおっさんか、ははー」
なんか、これはこれで、やりにくい…と藤村は思ったが、まあそれはそれでがんばってみるしかない。自分の納得いく答えが出るまで、突き詰めてみよう。
彼女はあくまでも前向きだった。

「さて、ここに。藤村さんを紹介したって事で小弥山さんからもらったクラシックのコンサートのチケットがあります。誰が行きますか」
その小弥山もバイト先の上司から押し付けられたらしいのだが、それは別のお話。
「………くらしっくー?」
間延びした調子で、月影はおうむ返した。
「ペアです」
「まあ、文月となら考えん事も無い、よこせ」
と、手を出すとチケットはするるんと横移動した。
「はい、ただより高いものはない。紹介したのは俺なので俺がもらいます」
「なんだよそれーーー!よこせよー」
「で、文月にほいっとな。これで、後は君の努力次第です。」
「う…そう来たか。」
「ちなみに俺は、アレに乗っ取られた罰としてしばらく皆月家の強制労働です」
ほう、と面白そうに月影は身を乗り出した。
「李々さんと琉留さんの踏み台を作れという指令が出てたり、換気扇掃除しろとか色々」
あんまり面白くもなかった。いつもとあんまり変わらない。
「なかなか面白いこともねーなー。」
「そんな事言ってるとまたアレが出てくるよ。もともとは君の能力からできてたらしいじゃないか」
「だから、願いの木がなければ出てきてなかったっていってただろ?」
「そもその願いの木からアレ関わってたかもしれないじゃん」
「あーもー。難しい事は俺らは考えない!任せることは人に任せる!」
っていうか、ここまで割と魅厘さんまかせなんだけど、と空斗は心の中で突っ込んだ。
皆月と月影の会合は、そも太郎ちゃんこと、岸本太郎の案らしい。もうこの双子がいる時点で争いはやめるべきだったのだ、という意見のもと、魅厘が呼び出されて魅厘が文月をおとりにすることにしたのが、あの敵に回るかも宣言だった。
すでにその辺からうまいこと仕組まれていたのだ。
ただ、虚一の能力で琉留の共感能力が刺激されてしまったのがかなりの誤算だった。
「まあいいけど。がんばって文月とクラシックいってらっしゃい。期限あるから気をつけて。」
「―――って、期限しらねーと意味なくないか!?」
「それは教えてあげないからね」
にっこり、と空斗は笑った。
「まあ、喧嘩してできた傷が治るくらいの期間はある。大丈夫。」
細かいことは後で考えればいい。
これから、まず一歩が一番大事だから。
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