にざかな酒店

夢の糸

昨日描いたばっかりの予告マンガのネタを裏切って、ショーグリーンのびいえるネタは一瞬になった割とまじめな話。ブラッディスト二章からいままでの話の裏側のお話なのでいままで読んでるよって方はそのままどうぞ。
よんでないかたは―――相当読むのめんどくさいと思うのですが、できればお読みになってからどうぞ…かなり長くて申し訳ないのですがっ。
基本的に不親切設計ですみませんー。っつか一章目が前のブログだったからそのままのっけるの忘れてたということに実はきづいてたものの、海わたっちゃうから直さないといけないエンディングだったのでずるずる直しそびれてるという駄目っぷりでございます…!
休みの間になんとかできるといいなあとは思っているよ!!
―――夢に、姉が現れた。
兄も霊体になって現れていたから、間違いない。これは、夢とみせかけた姉からのメッセージだ。
―――マゼンダ、あなた、ロッドがクラウフ(父)の手記を持ち帰ったのは知っている?
ああ、よく考えてみれば、彼が何の行動も起こさないのはおかしいと、何故気づかなかったのか。
目覚めて着替えるなり、私、マゼンダは彼の家に出向いていた。
早朝7時だった。

「ちょ、ちょっと何よーーー朝から何棚あさってるの、お姉さん。そんなところに食べ物入ってないって」
何やらさっきからあわあわしているのは、ロッドの嫁、サラだ。
どうもこの嫁、暗殺者の嫁にしてはのんきすぎると思うのだけれど。
「なんで私が人んちに来ていきなり食べ物探すのよ。失礼な嫁ねえ。それと、侵入者に気づかないの、龍神様がいるからって慢心でしょ。もっと丈夫な鍵くらいかけときなさい」
「どっちが失礼なのよー!鍵はかけてたのにお姉さんが外したんでしょっ」
「だから、もっと丈夫な、って言ったでしょ。っていうか、当然ロッドはこの時間は寝てるわよね」
「朝起きてる方が少ないですよ」
サラは嘆息した。
「って、お姉さん…何しにきたの!?」
「そのお姉さんてのもいい加減やめなさいな。私にはマゼンダって名前があるのよ」
「嫁がいる相手に…朝からほにゃらら」
何かとんでもない誤解をしているので思わずビンタしてしまったわ。いけないわね。
「ったーい。もー何探してるのよー」
ふにゃふにゃー、と顔を押さえてサラはよろめいた。
「クラウフの手記、よ」
まじめにいって返ってきたのは、思わずぽかんとした顔。
「くらうふ?」
音をおうむ返しにしただけのような声だった。
「私たちの、父よ」
「…なんで、それをロッドが持ってるって思うの?」
「夢にみたのよ。ショーグリーンが霊体として出てきた以上、ただの夢とは思えない。」
「夢、ねえ…。仮に持ってたとして、マゼンダさんに言わないってことは、あなたには、いる情報はないってことじゃないかしら。私も、そんな話聞いてないし」
ふにゃふにゃしてるようだけど、うちの妹よりは手強そうな笑顔だった。
「後は片付けておきますので、…うーん、まあお茶の一杯くらいは出しますけど」
「そうね。起きるの待った方がいいかしら」
「それは無駄ですね。彼は何したって起きないわー。一回水かけたら起きるかなと思ってかけたこともあるんだけど…、」
その言葉は演技でもなく、無駄だったのだろう。
私もクラウフから話は聞いている。
「…誰が、起きないって?」
超絶眠そう&不機嫌そうなロッドがまあ奇跡的に起きてはきたらしい。
ごく普通のパジャマ姿で良かったわね、という感じだ。
むーーー、こういう時は起きてこなくていいのに!と言いたいらしいサラの気配を感じ取ってか、
「龍神がうるさかったからな。…なんだ、マゼンダか、眠いから後できく」
「ほらこれですよ、眠気最優先」
何故そこで妻がいばる。
「朝起きてすぐにめんどい話はしたくない」
「あなたもエルスのこと言えないくらいいい加減ね…」
「それだ、エルスはどうしてるんだ。狼だから朝早いだろ」
「…それ、狼関係ないんじゃ…」
控えめにサラが突っ込みをいれる。ここで控えめなのは、あまりにも彼のろれつがまわってないからであることは予想できた。
「まあ、無理して起きなくていいから」
「…村長(じいさん)もなんか朝早かったぞ。…あれはなんかの祭りの時だったか」
「それは狼じゃなくて年のせいでしょう」
なんとなくこの二人のやりとりを見てると朝おしかけた自分が情けなくなってきた。
「…ごめんなさい。ちゃんと起きてからでいいわ。朝早く悪かったわね」
「あー、うん。助かります。」
ぺこー、と困った嫁が頭を下げた。
それにしても、どうしてスノウがクラウフの手記なんて言い出したのか、本当に単なる夢だったのか、と私は思いながら帰り道の坂を下っていた。

帰ってくると、エルムがぼんやりと椅子に座っていた。
「あ、姉さん。どうしたの、こんな朝から」
「ちょっとね―――夢を見たのよ」
「夢?」
「スノウの。クラウフの手記をロッドが持ってるとか言い出すから、現実かと思っちゃった」
精一杯おどけたつもりだった。
だけどエルムは凍ったような表情を浮かべていた。
「もしかして、計画の内容がのってるとか…」
「中身は、私も知らないわ。単なるラブストーリーかもしれないし」
「あの父が?」
「父がったって、人間なんだからつまんないこともかくでしょうよ」
「そうね…」
「なんたって、あのショーグリーンがロッド好きだったんですから」
真面目なエルムの顔が、一瞬にして崩れた。
「はああ!?」
「本当よ?そういってたもの。あなた知らなかったの?」
「そんな話、ひとっつも聞いてないわよ!」
「俺も初耳ー。」
扉の向こうから、エルスがひょこっと顔を出した。っていうか、聞いてたのか、この男。
「ホモも普通にいるんだなあ」
「…ちょっと、それが兄だって身にもなっていただきたいわ。感心しないでくれる?」
「しかも嫁持ち好きなんてむちゃくちゃだなあ」
のんきに言ってけど、横のエルムの顔をみていただきたい。と思っていたら。
「死んじゃったら、わかんないもんな」
しんみりと呟いたので、みなが黙ってしまった。
「その、手記もってるとか言い出した姉さん、もしかして父親のことちょっと話題にしてほしかったんじゃないか?…その、お前らがあんまり忘れたがってるもんだからさ」
「………」
誰がみても、ろくな父親じゃないだろう。
私たちの兄妹は生物兵器にされることを前提に作られた兄妹だ。
それらを育てることに、何かの情があったとは思えない。
「ただの夢だって可能性も、ないわけじゃないけど…」
「―――スノウは、確かにクラウフのこと慕ってたと思う」
短く、エルムが呟いた。
「だけど…」
「…あ、ごめん、なんか腹へって来た。なんか食べるものなかったけ」
…ん?と、顔を見合わせる、私とエルム。
「なんか、今…」
「記憶がよぎった、ような…」
そして、その記憶はあっていたのである。

昼間になって、ようやくロッドが起きてきた、いった。
「せっかくシュナイダーの研究所をつぶそうとして行ったのに、研究所が空で、見つかったものがこれだなんてとてもいえなくてな―――残念ながら、これはどう見てもお前たちの欲しいデータじゃない」
渡された手帳は、まさに…。

日々のごはん帳。

ああ、それはロッドも黙っているはずだ。
多分、もとの手記のおまけだったのだろうと思われる。スノウがわざわざ伝えにきたのは、もとの手記と間違ったからではないのだろうか。時がたって擦り切れた、赤い皮の表紙で、妙に豪華仕様だった。
でも…ごはんのことしか、のってないのよ…。
激しく脱力した私たちを、それでも時が慰めるのだろうか。
後二、三冊似たような手帳が出てきた、とロッドがいっていたが、私たちは中をみるのを辞退した。
私は、何がみたかったのか―――私自身、わかっていないし、覚悟もできていないのだと思う。
まだ知るには早いのだと思わされた気がした。
寿命の短い、蝉の声。
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