第二次世界大戦後、戦地から帰ってきた兵隊が一斉に結婚して第一次ベビーブームが起きた。私が生まれたのは1951年。ちょうど第一次ベビーブームが終わりかけたころである。
その後、第二次ベビーブーム(1971~1974年)が始まった。彼らが成長し高校生になったころ、私は三国丘高校で教鞭をとっていた。1学年16クラス、800人近い生徒が3学年。運動場で集会を開くと壮観だった。
その後、このブームは第3次・第4次と続き、ゆっくり収束していくものと思っていた。ところが、本来なら1990年代後半に起きるはずだった第三次ベビーブームは起きなかった。なぜか?
結論を先に言えば、就職氷河期に結婚適齢期を迎えた人が、子どもを産む環境になかったからである。バブルが崩壊したのが1991年。そのころ大学を卒業した人たちは本当に気の毒だった。知り合いの優秀な女子学生が、入社試験を20社受けて全部落とされたと言っていた。結局、その後、非正規雇用で1日1日を食いつなぐ人生を送らざるを得なかった。
安い給料で、しかも明日は雇止めになるかもしれない不安定な立場では、結婚して子供を産むなどということは選択肢にはない。しかも日本は相変わらず新卒一括採用・年功序列型賃金・終身雇用社会である。最初にレールに乗り損ねると、そのツケは一生続く。
就職氷河期世代は、そろそろ50代にさしかかる。彼らの多くは間違いなく将来の生活保護予備軍である。そんなことは30年も昔に予測できた。実際私は授業でそのことを指摘し、政府は早く何らかの手を打つべきだと主張していた。
しかし政治家にとって関心があるのは「目先の1票」である。高齢者対策に力を入れる政治家はいても、親と同居して今は何とか食いつないでいる就職氷河期世代のことを真剣に考える政治家はいなかった。
最近、民主主義の欠点がやたら目について仕方がない。民主主義は「独裁よりはましだ」という程度の代物であって、民主主義的手続きで決められたことが最善である保証などどこにもない。
「先のことは未来の人が考えればいい」。みんなそう思っているから、就職氷河期世代のことも、財政赤字のことも、原発のことも、地球環境問題も、先延ばし先延ばしにしている。