見出し画像

南英世の 「くろねこ日記」

行動経済学とは何か?

行動経済学とは何か?


アダム・スミス以来の伝統的経済学は、極端に合理的な人間を前提にしている。そのため、個々の人間の経済活動や行動をうまく説明できないことがある。たとえば、合理的人間ならば消費者金融から返済能力を超えた借金はしないし、年金は2か月に一度「まとめ支給」されるが、最初の1か月で使い切ってしまったりはしない。しかし、現実にはそうした行動を人間はとることがある。

そこで、行動経済学は人間が合理的な行動をとるという前提を外し、人間の意思決定の洞察を経済学に取り込み、個々の人間の行動を説明しようと試みる。この動きは1970年代から始まった。最初に次の問について考えてみよう。

問 バットとボールあわせて110円で売っている。バットはボールより100円高い。ではボールの値段はいくらか?

 直感的には10円と答えたくなる。しかし、正解はもちろん5円である。人間の意思決定には「直観」と「熟考」という二つのパターンがある。10円と答えた人は「直観」による思考をした人である。しかし、日常生活の多くは「直観」によって判断され、それが非合理な経済行動を生む。これまで行動経済学が明らかにした代表的な理論として次のようなものがある。

 

(1)サンクコスト(埋没費用)

 支払ってしまってもう取り戻せない費用をサンクコストという。例えば映画館に入ってその映画がつまらなかったとする。我慢して最後まで見るか、それとも途中で出るか。もう料金は取り戻せないのだから、途中で出て時間を有効に使ったほうが良い。

 同じように、企業が100億円かけて工場を建設し始めた。しかし新技術が発明され、その投資の意味がなくなった。せっかく100億円投資したのだから「もったいない」といって工場を完成させるべきか。答はもちろんノーである。

 福沢諭吉はせっかく学んだオランダ語がもう時代遅れであることを知り、英語を勉強し始めた。しかし多くの蘭学者は「もったいない」とおもってオランダ語を続けた。

 

(2)損失回避

 ケース① コインを投げて表が出れば2万円もらえ、裏が出れば全くもらえない。

 ケース② コインを投げないで確実に1万円をもらえる。

 実験をすると②を選ぶ人が多い。期待値は同じなのになぜか? 「人間は得をする場面ではリスクを避け安全策をとる」という法則が見えてくる。

 反対に、確実に損をすることを嫌い、たとえこの先大きく損をする可能性があっても、損をしない可能性が残っていればそちらを選択する傾向がある。株式投資で損切りできないで塩漬けにする人が多いのはこの理論で説明がつく。人間は、得をすることよりも損をすることを極端に嫌うという損失回避という特徴を持っている。

 

(3)デフォルト(初期設定)の効果

 企業は選ばせたい方にあらかじめ☑をつけて(初期設定)そちらに誘導する。

 

(4)ナッジとは何か?

 nudgeとは注意を引くために肘で人を軽く押すことを言う。転じて、本人にとって利益になるように、または社会的に望ましい行動をとるように誘導することを言う。目玉商品を店の目立つところに並べたり、レジの横に電池を置いたりする例などはそうした理論に基づく。ナッジを利用すると感染症対策、納税の促進、医療費コストの引き下げ、省エネなど、様々な分野での応用が期待できる。

 

(5)マーケティングへの応用 

 行動経済学は心理学と経済学のハイブリッドである。行動経済学はとりわけマーケティングに最大の威力を発揮する。 たとえば表現方法を変えるだけで人の行動を変えられる。例として次のようなものがある。

・タウリン1g配合 → 1000mg配合

・わずか → ゼロではない (ネガティブではなくポジティブな表現にあらためる)

・120円のコンビニのおにぎり → 2割引きとするよりも全品100円と表示する

・4000円の商品と3000円の商品の2択で売るよりも、4000円の商品を売るために5000円の商品をおとりにして、5000円、4000円、3000円と3択にすると4000円がよく売れる(おとり効果)。

そのほか、テレビショッピング、ダイエット、クラウドファンディングなど私たちの周りに行動経済学の理論を応用した例がたくさんある。

  • Xでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

最新の画像もっと見る

最近の「日常の風景」カテゴリーもっと見る

最近の記事
バックナンバー
人気記事