金沢に住んでいたとき家の近くに競馬場があり、20代のころ2~3回見学に行ったことがある。初めて競馬を見たとき、馬の美しさに驚いた。それまで農耕馬以外見たことがなかった。
金沢の競馬場はまだやっているのだろうか? 気になって検索してみたら、なんとライブ中継をやっているではないか。
馬のことは全く分からない。知っている馬と言えばハイセイコーとハルウララくらい(笑)。それが何でこんなブログを書き始めたかというと、『馬券偽造師』というノンフィクション小説を読んだからである。
これは昭和50年代、10年間で10億円の馬券を偽造し、換金に成功した画工の自叙伝的小説である。はずれ馬券の日付をこそぎ落とし、30倍のルーペを使いながら新しい日付に書き換える。そうすると、はずれ馬券が「夢の万馬券」によみがえる。1ミリ四方に64ドット打つその技術は容易に見破られることはなかったという。
この小説で私が面白かったのは、偽造のノウハウではなく競馬の歴史である。古い映画の中で、着飾った紳士・淑女がハイソな遊びとして競馬を楽しんでいるシーンがよく出てくる。しかし、今日われわれが知っている競馬は必ずしもハイソと言えるものではない。このギャップは何なのか。
この本によれば、戦前の競馬は馬券1枚がサラリーマンの月給の半分近くもしたという。だから、競馬は資産家クラスの賭け事であって、一般大衆の手の届くものではなかった。かつて選挙権が一部の特権階級のみに与えられていたのと同じように、競馬もまた金持ち階級の遊び(社交場)だったのである。馬券の正式名称を「勝馬投票券」というのも、選挙で投票するのと同じ感覚だったのかもしれない。
日本で競馬が大衆に浸透し始めたのは、1954年に日本中央競馬会(JRA)が発足してからである。さらにブームに火が付いたのは高度経済成長期になってからだという。ふーん、そうなんだ。現在も「天皇賞」などという畏れ多いレースが存在する理由がわかったような気がした。