(財務省資料)
外国為替市場で円は「安全資産」とされる。1000兆円もの財政の借金を抱える日本円が何故「安全資産」なのか。その根拠とされるのが世界一と言われる「対外純資産」である。大雑把に言って、現在日本は海外に1000兆円の資産を持っている。反対に外国人が日本に650兆円の資産を持っているから、その差額約350兆円が日本の対外純純資産というわけである。いざとなれば海外にあるこの350兆円の資産をすべて引き上げることもできるはず。だから円は「安全資産」だというのである。
分かりやすく言えば、対外純資産とはこれまで日本が輸出で稼いできた「儲け」のことである。戦後日本は輸出主導型の経済政策をとり、毎年巨額の貿易黒字を続けてきた。通常、国際取引の決済はドルで行なわれる。だから、黒字もすべてドルで貯まる。そうして積もり積もった対外純資産が3兆ドルというわけである。341兆円というのは、財務省が円換算しただけであり、実際には外貨で日本の誰かが所有していることになる。
貿易で稼いだ「儲け」をどのように使うか。二通りある。
一つは、対外資産としてのドルを円に交換して国内に還流させ、日本の生活を豊かにするという使い方である。トヨタ自動車が稼いだドルを円に交換し、従業員の給料に充てるというイメージである。しかし、残念ながらこうした使い方はできない。なぜなら、3兆ドルものドル資産を売りに出せば、ドルは暴落する。アメリカがそんなことを許すはずがない。
1997年6月23日、当時の橋本龍太郎首相が「米国債を売りたい衝動に駆られることがある」と発言した。その結果、アメリカの株価は急落した。「もし売るようなことがあれば米国への宣戦布告とみなすと脅された」とも言われる。これではせっかくの「お宝」も「宝の持ち腐れ」である。
せっかくの「お宝」を売れないとすればどうするか。少しでも利益を稼げるように運用するしかない。そこで、日本が稼いだドルをアメリカへの投資(直接投資や証券投資など)で運用する。こうして貿易黒字国が貿易赤字国に投資することによって、国際経済は円滑に回る。すなわち、世界の貿易は全体としてみれば黒字額と赤字額は相殺されてゼロになる。上の資料にあるようにアメリカの対外純資産は-1076兆円、すなわち10兆ドルの赤字である。それでも経済活動が円滑に行なわれているのは、黒字国が赤字国に投資をしているからである。
では、対外純資産を積み上げるとは、そもそも何を意味するのだろうか。為替レートはかつて1ドル=360円だったが、今では1ドル≒108円である。円高になれば輸出はしにくくなる。それでも貿易黒字を達成するために、日本企業は生産コストを下げて、円高でも利益が出るように乾いたぞうきんを絞るような努力を続けてきた。残業代もまともに払わず、非正規雇用を増やして賃金を低く抑えてきたのだ。何のことはない。日本人は国民生活を犠牲にして対外純資産を積み上げてきたのである。
その結果、日本は世界一の金持ち!
笑わせるではない。お金は使えるからこそ豊かさを実感できるのである。使えもしないお金をいくら持っていても、金持ちとは言えまい。一生引き出せない定期預金をいくらたくさん持っていても、国民の生活は豊かにはならない。
マクロ経済学の基本公式で示せば
GDP=C(消費)+I(投資)+G(政府支出)+EX(純輸出)
において、EXが増えてGDPが増えたとしても、国民の生活は豊かにはならない。むしろ、EXを増やすために国民が低賃金で働かされ、それが消費に悪影響を及ぼす可能性のほうが大きい。GDPを増やすのは国民を豊かにするためであり、国民を犠牲にしてGDPを増やすというのは本末転倒である。
企業の内部留保は400兆円ともいわれる。そのうち対外資産がどのくらいあるのか知らないが、この際、対外資産を2兆ドル分くらい売却して、それを従業員の給料に回したらどうか。1ドル=50円くらいになれば貿易は赤字になるかもしれない。しかし、その分消費は大幅に増えるはずである。国が亡びるとき自国の通貨は暴落するが、自国の通貨価値が上がって滅びた国はない。暴論だよね(笑)。