<感想>
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今回納得いかないカーティスのクソ度が不必要(?)に上がっている件
映画では描かれて今回の舞台では描かれて居ない部分。
中古車ディーラーだったけど、その車を全て売っぱらって、そのお金で曲を黒人局以外のラジオでも流してもらって(当時はお金出さないと黒人の曲は流してさえ貰えなかったから)。中古車屋跡地はスタジオに。実は全てを投げ打って彼らを売り出してるカーティス。
今回の日本版でアタッシュケース投げてるのめちゃくちゃカッコイイ!けど!そこは伝わりにくいよなぁ…黒人の自分たちの音楽を売り出す、世界を切り開くキッカケを作るために、文字通り全てをかけた男。
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ディーナとエフィの言い合いのシーン。
『カーティスのせいよ、彼に言って』みたいなディーナの台詞って、ちょっとズルいと感じた。ディーナにはディーナの悩みがある訳ですが。それって『自分は仕事とプライベート(恋愛)は別って考えてるけど、皆が皆そうはいかないし理解してくれない』(ディーナは仕事面で自分ではリードボーカルの器じゃないと思ってても上司に命令されれば嫌だったとしても従う、そして恋愛は恋愛で別問題と考えている)とかって所だと思うけど(因みに仕事と恋愛…と言うか『俺の夢』が一緒のカーティスもディーナのそういう所は理解出来ていない)。しかし……エフィがディーナに詰め寄る気持ちは分かる。どういう事だ?って。ディーナの気持ちの話し。ディーナはソレに対するエフィへの回答を避けて全部カーティスのせいにしている。エフィが聞きたいのはディーナの気持ちであって既に知ってるカーティスが決めた内容の事じゃない。エフィの質問の内容から逃げているのか、カーティスが決めた事だから自分は関係ないと本気で思っているのか、どちらにせよエフィにとっては腹立つ態度よね。しかもエフィはリードボーカルをやりたいのにやらせて貰えない、なのにディーナが別に私がやりたい訳じゃなくて『カーティスが言ったから』と言う態度はもう…地雷踏み抜きまくってて酷すぎるとしか。
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『ONE NIGHT ONLY』
夜明けを共に迎えることが出来た女 ディーナと夜明けと共に終わってしまったけれど子供を授かる事が出来た女 エフィ。
恋愛と仕事への考え方がそれぞれ違った結果とも見える。
「ディーナは欲張りよ、歌も男もなんて!」って感じのエフィ台詞があったけれど。エフィは歌(メインボーカルである自分)を失い恋愛の比重も大きくてその重さに潰れてしまった感じがした。妊娠して体調は悪くなるしマタニティブルーも重なったとは思う。カーティスに妊娠の事を言いにくかったし、言ったら次はザ・ドリームズとして舞台に立てないかもしれない。あの台詞は何方も欲しくて何方も失いそうな、あの時何方も選ぶことが出来なかったエフィ自身を重ねた台詞だったなと思う。『私は何方も失いそうなのに貴女は何方も手に入れようとするのか!』って事ですよね。脱退して後に子供を産んで暫くしたら文字通り憑き物が落ちたかのように自らの手で歌を取り戻したわけですが(憑き物はカーティスへの執着にも繋がったマタニティブルーか)……。結果論になるけど、妊娠した事はカーティスは勿論ファミリー(WE ARE THE FAMILYを歌った仲間達)には伝えるべきだったよねとは思う。伝えない選択をしちゃったけど。伝えてから辞めても良かったよねと。社会人ならね、上司に報告しなきゃね。恋人ならね、報告した方が良いと思うのね。……それが上手く出来なかった行かなかった、が故の彼女の人生。切ない。
そして、ディーナ。彼女がカーティスと長く続いたのはカーティスと恋愛のベクトルの相性が良かったのはあると思う。 カーティスはそもそも好きになる女性の『才能』を愛している面があると思う。ビジネスと表裏一体で丸ごと自分のモノとして飲み込んでしまう(ホントに蛇だな??)『恋人(妻)』って文字に『ビジネスパートナー』ってルビを振った方が良いくらい。仕事と恋愛が同じで仕事を愛していると言うか。ディーナはディーナで自分を導いてくれる男カーティスの事を愛していたのかなと思うと相性良かっただろうし、導いてくれて世界が開けた後は、自分のやりたい事が出てきたので……あの結末に至った。
ディーナは自分のやりたい事が出てきて、でもその方向が合わなくてカーティスと上手くいかなくて、そんな中でONE NIGHT ONLYの曲を巡る事件があったので離れる決意が出来たのはあったかと思う。自分を導いてくれてた完璧だったはずの男から醒めてしまったというか幻滅してしまったと言うか。
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そのままの自分を貫き通して夢を叶える事ができるのか?(世の中に受け入れて貰えるのか?)
裏テーマかなと。
カーティスは、自分を隠しながら世の中に合わす術を知っていて、自分が導けば皆にそれが出来ると思っているし、其れが必要だと思っている。
黒人を、白人に認めさせたい、人種差別の壁を壊したいのが彼の夢で、皆の夢も少しづつ形が違えど自分と同じだと思っている。そしてその思い込みこそが彼の傲慢さであり夢を自分の手で壊さざるを得なかった原因とも言えるけれど。
そんな訳で、カーティスは夢を叶えるには、きっちりと整えたスーツの中に自分を抑え込む事も厭わない。
でも、偽った自分を認められても嬉しくなかったのがカーティス以外のファミリー。
ここで、難しいなと思ったのは…人間って多かれ少なかれ自分を偽りながら生きていると思うのです。本当の自分を認めて欲しい。でも、本当の自分とは??
永遠のテーマだと思うのですよね。
何を大事にして何を貫き通すのか…と言う事だと思うのですが。
ただただ自分達のしたいようにしていたのでは受け入れられない。白人の世に切り込むには白人の、マナーやルール、流儀を学び取り入れる。それが良くても悪くても。郷に入っては郷に従えと言う考え方はあまりにも日本的過ぎてやはりそこが浮き上がって見えたのは日本版ならではなのかなと。
そして…カーティスと、他のファミリーそれぞれと、その対比の何と鮮やかな事か…
白か黒かの人種差別問題の話で有りながら、こうも日本らしいと言うか日本人に馴染みがある(あり過ぎる)感覚に持って来たのは、舞台版として凄いと思う。自分を偽りながらも間違いなく自分は自分である。って感覚ってアメリカではどうなんだろう?郷に入れば郷に従え的な同じような言葉あるのだろうか?
白人になりたかったのかなカーティス。
もしかして、マイケル・ジャクソンをモデルとして盛り込んでるのでは?とも思いました。
マイケルは白人になりたかったと言う噂(担当医の言葉で本人の言葉ではない)もあったりして。しかし肌の色に関しては皮膚疾患で白くなった説と脱色して白くなった説があるようです。
そして彼は舞台のモデルになったモータウン・レコード所属、キング・オブ・ポップ。カーティスの人物像の一部分として盛り込んでいても可笑しくないなと思います。
白人になりたかった、若しくは病気で肌が白くなってしまったマイケル・ジャクソンと、あのカーティスを重ねているのだとすれば終盤の彼の壊れ方も理解出来る気がする。
黒人としてあれだけ成功してもなお、越えられない壁があって、それが許せなかったのだろうと思うし根が深い問題だと思う。だからこそ、ONE NIGHT…のホワイト姉弟の黒人らしい、その『らしさ』が有る曲を売り出した事が許せなかったんだろうな。捨てたくないけど捨てなければ隠さなければならなかった(ならないと思っている)部分だったのだとすれば…。
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『エフィ』
色んな人が色んな声色でエフィの事を呼ぶ。もしかして1番名前呼ばれてたんじゃないかってくらい。なだめる様な声、たしなめる様な声、冷ややかな呼び止めだったり、姉(友人)へ…ファミリーへの複雑な想いが籠った声。それぞれのその時々の気持ちが声色に滲んでいた、彼女の名前を呼ぶ声。
中でも私が好きなのは、カーティスが呼ぶ色とりどりの『エフィ』の声色。途中での、なだめたり、たしなめたりのバラエティもかなり豊富なんだけど、でもそれだけではなくて。特に際立ってて好きなのが、最初にカーティスがアポロシアターでエフィを呼んだ時の籠絡させようとする『エフィ』、そして時を経てドリームズから脱退してもらう話をする時の『ここ居たのかエフィ』ある意味で最初と最後の声色の温度差。
どちらかと言えば声を張らずに、ふわり と投げかけるような音なのに ここまで声色としての性質が変わる。音の高低だけではない硬度や音の粒子の色のようなものが変わる呼びかけ。
ゾクッとする。
本当に鳥肌モノ。
カーティス以外にも…
CCが呼ぶ『エフィ』最初の頃は姉さんって呼んだりしてたけど大人になるにつれて(揉め事が多くなるにつれ)、いつの間にかエフィ呼びが多くなって。で、仲直りしに行った時に久しぶりに1回だけ 姉さんって呼ぶ。で、エフィに戻る。あれ、ズルいよね…好き。ズルいよね。(大事なので2度言う)好き。
そして、ディーナが呼ぶ『エフィ』
これが、CCとちょっと似ているようで逆なような。最初の頃は姉のように慕って、ちょっと甘えたように呼ぶ『エフィ』。そして、エフィと揉めてエフィが脱退して7年後に再会した時には姉と妹のような関係ではなく、対等な友人としての『エフィ』と言う呼び方になっていて。時の流れを感じてとても良いなと思いました。ディーナの成長を感じた。因みに途中、揉めていた頃に呼んでる『エフィ』って言う声色にはまだ、姉のようだった彼女に対する甘えがある気がします。自分の方が本来は甘えたい相手が困った人になってしまった事を詰るような。まだ、人に頼って甘えていた頃のディーナ。だからこそ7年後、対等な友人としての『エフィ』と呼ぶ声に何処か成長した彼女の清々しさのようなものを感じて、これもまたとても好きです。
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マーティに言及して居なかったなと思いまして。
マーティも昔は最初のカーティスみたいだった頃が有るのかなと思って観ていました。『そのうち分かるよ』とかの台詞が若干微笑ましそう。俺も昔はそうだったなぁなんて考えてそう。
マーティとカーティスの違いはステッピンザバッドサイドしたかどうかだと思うんですけど。マーティは幸か不幸か、引き返して来たんだと思うんですよね。黒人が成功者になった後にある、『見えないもう1枚の壁』を前に引き返して来たのがマーティ。引き返さなくて自分が壊れてしまったのがカーティス。そんな気がしました。
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最後の会見のシーンについて。
この話をする前にカーティスが芸能マネージャーと言うよりも、最強のセールスマンである印象を持った、と言う話をしたいと思います。彼は元々が中古車のカーディーラーでありセールスマンだったわけですが…きっちり着込んだスーツと胡散臭い笑顔とよく回る口、そしてマーケティングの戦略頭脳、これが彼の仕事の武器です。そう考えると彼は最初から最後までマネージャーと言うよりセールスマンだったなと。中古車を売ってた時は商品に『心』は無かったけれど、音楽業界と言う所に足を踏み入れて芸能マネージャーになると商品(言い方は悪いけど敢えて商品と言う言い方で失礼します)には『心』がある訳ですが…この物語の場合の『心』は『Soul』とも言えるかもしれない。劇中で台詞や歌にあったように“ジミーには『Soul』がある“ もちろん他のファミリーにも。でも、悲しいかな今までカーティスは『心』『Soul』の無いものを売っていたので、今度の業界の商品に『Soul』がある事が上手く理解出来ないと言うか…売る為の戦略は考えられても商品の『心』や『Soul』に気を配る方法が分からない知らない状態だったようにも思えます。しかし、幸か不幸かセールスマンとしての才能だけは超一流だった。その結果がカーティスとしての、この物語だったように思います。
それで、ここでやっと最後の会見に話を戻すんですが。このシーンは、最強のセールスマンとしての、ポーカーフェイスの笑顔を、カーティスが唯一保つ事が出来なくなったシーンでした。
セールスマンって、商品がないと成り立たないと言うか…強いカーティスは商品があってこそであって、失ってしまえば、こんなにも脆かったのだなと。もちろんセールスマンとしての彼の商品の筆頭は“俺の夢“ ディーナ だった訳ですが。彼のあの会見での保つ事の出来なかったポーカーフェイスは、自分で壊した夢の破片で出来ていたのだなと。それでも会見としての体裁を保つ為に表情筋を動かそうとするカーティスは凄いと、思います。
しかし…文字通り『“夢“を売る商売』をしていたのかあの男は。
所で、余談なのですが少し前にも触れた夢の話。カーティスは白人に黒人を認めさせたいし、人種差別の壁を壊したい、そして皆の夢も少しづつ形が違っていても自分と同じだと思っていて、その思い込みこそが彼の傲慢さだと思うと話をしたと思うのですが…彼の場合『夢』を『仕事』にしていて、彼の中の『夢』を体現した存在がディーナ。しかも自分がプロデュースして体現した『俺の夢』
ディーナが 皆に夢を与えたいの…みたいな事をカーティスに言った時、カーティスとしてはディーナは『夢』を体現していて、なおかつ白人すらも憧れる存在になっているディーナであったので、彼女が言っている事が 本当に何を言っているのか分からなかっただろうなと。彼は『“夢“を売る商売』をセールスマンとしてしていたと考えると特に。そして、人と自分の『夢』に違いがあるかもしれないと考えが及ばない彼には理解出来なかった。
今まで、自分と周りの夢が違うかもしれない可能性を考えた事が無かった、その可能性に初めて触れた瞬間のカーティスの戸惑いの表情と声。『夢』に全てを賭けていた男が自分でも分かる程の空回りを始めた瞬間(若しくは空回りに気付いた瞬間)だったなと。
今まで持っていたセールスマンのポーカーフェイスの仮面に最初にヒビが入ったのは、あの瞬間。最後の会見までヒビ割れて零れ落ちていく仮面(会見時にはもう殆ど体を成していないけれど)を持ちながら、本当に最後の最後の咆哮で自分で仮面を全て壊した男。『夢』で出来たセールスマンのポーカーフェイスの仮面が全て砕け散った『夢の終わり』