
追悼・二瓶正也
今年の8月21日、俳優の二瓶正也さんが逝去されました。享年80歳でした。
1960年に東宝に入社された二瓶さんは、ウルトラマンで科学特捜隊のイデ隊員を演じ、コミカルで頭脳明晰なキャラクターで人気を博しました。
イデ隊員主役回の第23話「故郷は地球」の象徴的シーンを振り返り、追悼させて頂きます――。
ジャミラ征討命令
科学特捜隊パリ本部から派遣されてきたアラン隊員は、ジャミラの正体を明かした。
彼はある国が打ち上げた人間衛星に乗っていた宇宙飛行士で、衛星が地球に帰還できなくなり、宇宙を漂流して不時着した星で怪獣の姿になってしまったのだという。
そして、打ち上げ失敗を隠蔽する国の方針で見捨てられたジャミラはロケットを造り変え、地球人類に対する恨みと呪いの心を持って地球に帰ってきたのである。
その話の一部始終を聞いたイデ隊員は、こう叫んだ。
「俺、やめた。ジャミラと戦うのはやめた!よく考えてみれば、ジャミラは俺達の先輩じゃないか。そんな人と戦えるか!」
「おい、アラシ!俺達だってな・・・俺達だってな・・・いつジャミラと同じ運命になるか知れないんだぞ!」
「くそー、俺がこんなもの (スペクトルα・β・γ線) を考え出さなければよかったんだ。そうすりゃジャミラは・・・ジャミラは・・・」
苦悩するイデ隊員をよそに、アラン隊員は冷酷な命令を告げる。
「改メテ、科学特捜隊パリ本部カラノ命令ヲ伝エル。ジャミラノ正体ヲ明カスコトナク、秘密裏ニ葬リ去レ。宇宙カラ来タ一匹ノ怪獣トシテ、葬リ去レ」
「ソレガ、国際平和会議ヲ成功サセル、タダヒトツノ道ダ」
心の整理がつかないイデ隊員に、ムラマツキャップが声をかける。「イデ、おまえの気持ちはわかる。だが、ジャミラは今や人類の敵になってしまっているんだ」
その言葉を聞いたイデ隊員は、納得できない気持ちを吹っ切るかのように大声で叫んだ。「バッカヤローーーー!!!」
ジャミラ VS イデ隊員
翌朝、国際平和会議場へと進軍するジャミラの前に、小さな村落が現れた。
邪魔だとばかりに口から火焔を吐いて家々を焼き払い、巨大な足で家屋を無残に踏みつぶし、暴虐の限りを尽くすジャミラ。
逃げ惑う村人たちの中に、家で飼っていた鳩を逃がすために家に戻った子供がいた。その子を助けるために向かったハヤタ隊員。
そのハヤタ隊員を心配して森を駆けるイデ隊員。そして、ジャミラに向かって叫んだ。
「ジャミラ!てめえ、人間らしい心はもう、無くなっちまったのかよーーーー!!」
その言葉に、村を襲うのをやめて立ちすくむジャミラ。
そして、自分が焼き払った村を呆然と眺め続けていた(ように見える)。もしかすると、この時点で人間だった頃の自分を取り戻していたのかもしれない。
ジャミラの墓前にて
ウルトラマンによって倒されたジャミラの墓の前に立つ科特隊のメンバーたち。
「ジャミラ、許してくれ。だけどいいだろう。こうして地球の土になれるんだから。おまえの故郷 (ふるさと) 、地球の土だよ・・・」
ムラマツキャップの言葉をよそに、イデ隊員は呆然と十字架を見つめ続けていた。
エピローグ
ジャミラの死によって、盛大に国際平和会議が開幕した。
科特隊の手によって、ジャミラが命を落とした国際会議場の敷地内に建立された墓碑には、こう記されていた。
「人類の夢と科学の発展のために死んだ戦士の魂、ここに眠る」
しばらくして、その場を立ち去る科特隊隊員。そして、イデ隊員の横を国際平和会議の参加者たちが次々と通り過ぎていく。
しかし、イデ隊員は科特隊隊員の呼びかけにも応じず、いつまでも立ち尽くしていた。逆光でイデ隊員の表情は読み取ることはできない。
「犠牲者はいつもこうだ。文句だけは美しいけれど」
ジャミラの断末魔が鳴り響く――。
編集後記
パリ本部員がジャミラの正体を明かす場面は、実相寺昭雄監督によって河口湖畔で撮影された。
しかし、夜間の撮影で周りが真っ暗だったため、円谷一監督から「美センの庭で撮影しても同じじゃないの」と怒られたとか。
さらに、「もうおまえには泊りがけのロケは許可しない」と言われたという(笑)

ウルトラマンを撮影していた1966年秋頃は新宿西口は淀橋浄水場が移転し、だだっ広い一面に広がる瓦礫の山で、怪獣に蹂躙された爪痕という感じだった。
そこで、国際会議場に接近するジャミラを科特隊が攻撃できないまま追いかけるシーンが淀橋浄水場跡で撮影されたが、尺に収まりきらず全てカットされている。
実相寺監督は、「イデの心情をもう少し丁寧に描けたのに」と悔やんでいたという。
作品中に登場したジャミラを弔う墓碑は実相寺監督が持ち帰り、監督の逝去後は川崎市市民ミュージアムに保管されている。
【イデ隊員の台詞論争】
なお、イデ隊員の「犠牲者はいつもこうだ。文句だけは美しいけれど」の“犠牲者”の部分が、“犠牲者”か“為政者”か“偽善者”かの論争が起こっているとか。
この台詞は台本には書かれておらず、実相寺監督が自ら書き加えたもので、本人が使用した台本には「犠牲者」とはっきりと書かれている。
HDリスマスター版の字幕でも“犠牲者”となっているが、どの言葉でも意味は通じるので、人それぞれの捉え方でいいのではなかろうか――。

【出典】「ウルトラマンの現場~スタッフ・キャストのアルバムから~」「ウルトラマンの東京」
「TSUBURAYA IMAGINATION」「ウルトラマン Blu-ray BOX」