地理講義   

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40.洪積台地は安全  しかし、坂道はつらく、土盛りの宅地は工法次第

2011年05月14日 | 地理講義
武蔵野台地のような洪積台地でも、安心はできない

洪積台地は、河川よりは高く隆起した、隆起扇状地・河岸段丘の地形である。自然災害としての洪水・津波・高潮の恐れは小さい。いわゆる自然の脅威は存在しない。
しかし、ライフラインが無事かどうかは、災害の大きさ次第である。住居は外見上は無事であっても、ライフラインが破壊された場合は、洪積台地を住居として選択したことが正しいとは限らない。

交通の問題
勤務先が東京都心で、住まいが狭山市であったとする。地震・津波・停電などでJR線・西武線が全面停止になった場合、いわゆる帰宅難民となる恐れがある。都心~狭山の30kmを歩けば10時間、走り抜けば2時間の距離である。多分、帰宅できないであろう。郊外の自宅は無事であっても、帰宅するための交通手段がなく、駅前でホームレス状態になる恐れが強い。
自家用車を所有していて、ふだんは1時間前後で帰宅できたとしても、災害時には週末マイカーが路上を走り、通勤道路は大渋滞になる。ガソリンのなくなった自動車が道路を狭くし、渋滞はさらにひどくなる。ガソリンスタンドでは、業者の売り惜しみと消費者の買い占めのため、通勤の途中で給油することは絶望的である。長時間の低速運転のために調子の悪くなる自動車も増え、自動車の速度は歩行者以下になる。
通勤・通学・物資の流通などでは、洪積台地は沖積平野と似たようなものである。



電話による安否確認や救助要請の問題
地震でも津波でもあるいは落雷による雷でも、電話は不通になる。電話関連設備の破壊だけではなく、通話容量を超えた通話増加量になるためである。
家族・肉親・友人の安否を確認する電話は、電話の通話能力をさらに低下させる。携帯電話も公衆電話も、電源を失った電話はほとんど役に立たない。携帯電話のメールでさえも半日後に到達することは覚悟しなくてはならない。
さらに、電話会社によっては、意図的に通話規制をして、中継設備を守る場合もある。24時間のうち、5分程度の通話しかできない。
家族・会社・学校などで安否確認を電話に頼ることは、電話のネットワークが生きている限りにおいては有効である。しかし、回線混雑による通話規制が始まると、伝言ダイヤルにもつながらない。
また、電話会社の中枢に被害が及んだり、停電が長引くと、公衆電話やインターネットも利用が不可能になる。TVやラジオなどの予備電源の燃料も底をつくと、電波状態が弱くなってしまう。
洪積台地の住宅であっても、沖積平野の住宅であっても、個人間の通話は長時間にわたって不可能になってしまい、被災地であってもなくても、安否情報を得ることが難しい。誰もが不安な心理に襲われる。

水が不足する
洪積台地はもともと水の得にくい地域である。上水道が頼みの綱だが上水道が止まると、食事・風呂・トイレなど、便利な日常生活は一変する。援助物資として、おにぎり・カップ麺・菓子パンが大半であり、水道復旧が遅れると、冷たいご飯、油まみれの即席麺、甘いパンが主食になると、病人・老人・子どもなどの災害弱者は病人になってしまうのである。
給水車から飲用水をもらい、自宅まで運ぶことは、洪積台地のように段丘崖のある地形では楽ではない。飲み水にを飲まずに我慢することも、災害弱者にとってはつらいものである。
井戸を掘っても、水の得られる地点は限られるし、水量も少ない。風呂・下水で使うほどの水量をえるのは難しい。

坂道がつらくなる
洪積台地のうち、河岸段丘は山地山麓に広がる。更新世にできた扇状地が隆起した扇状地であり、隆起時に段丘崖ができ、隆起停止あるいは一時的沈降時に段丘面ができた。段丘面は3面あるいは4面がふつうであり、その幅は10m程度のものもあれば数km程度のものもある。
段丘面が住宅団地として開発された場合、せまい段丘面において生活の全部が成立しない。段丘崖を上ったり下りたりして、買い物・通勤・通学・通院をしなくてはならない。年齢を重ねると、毎日の坂の上り下りがつらいものとなる。1停留所先に行くために、バスを待ったり、タクシーを呼ぶのも、気恥ずかしいものである。段丘面の住宅に住むことは、災害から逃れるためには、良い選択ではある。しかし、高齢者や病人のような体力の劣る者にとっては、高度差20m~30mの坂道がつらいものである。
まして、地震による暖水で、給水車から水を運んだり、洪水による洪水で避難所へ逃げることは、災害弱者にとっては、とてもつらいものである。


盛土は洪積台地でも危険
洪積台地そのものは上下水道が整備された時代、住宅団地として最適である。しかし、洪積台地内の谷間を埋めたり、洪積台地の端に土盛りをして宅地面積を広げたりして、団地の面積を広げることは、珍しいことではない。この土盛りの宅地には津波の襲来はないにしても、地震の被害はあり得る。隣家への被害はなくて、自宅だけが大被害を受ける危険はある。
または、自宅が崩壊して隣家を損壊させ、その賠償責任をめぐって争うこともある。
洪積台地の地盤が強固であっても、それだけで自宅が安全とは限らない。盛土上の住宅が果たしてどの程度の地震に耐えるのか、個別に調べなくてはならない。








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