地理講義   

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22.日本の米  農業基本法(1961年)

2011年01月15日 | 地理講義
農業基本法

昭和36年6月12日法律第127号
施行年月日 昭和36年6月12日
最終改正 昭和五58年12月2日法律第80号

目次
前文
第一章 総則(第1条~第7条)
第二章 農業生産(第8条~第10条)
第三章 農産物等の価格及び流通(第11条~第14条)
第四章 農業構造の改善等(第15条~第22条)
第五章 農業行政機関及び農業団体(第23条~第24条)
第六章 農政審議会(第25条~第29条)

附則
わが国の農業は、長い歴史の試練を受けながら、国民食糧その他の農産物の供給、資源の有効利用、国土の保全、国内市場の拡大等国民経済の発展と国民生活の安定に寄与してきた。
また、農業従事者は、このような農業のにない手として、幾多の困苦に堪えつつ、その務めを果たし、国家社会及び地域社会の重要な形成者として国民の勤勉な能力と創造的精神の源泉たる使命を全うしてきた。
われらは、このような農業及び農業従事者の使命が今後においても変わることなく、民主的で文化的な国家の建設にとつてきわめて重要な意義を持ち続けると確信する。
しかるに、近時、経済の著しい発展に伴なつて農業と他産業との間において生産性及び従事者の生活水準の格差が拡大しつつある。
他方、農産物の消費構造にも変化が生じ、また、他産業への労働力の移動の現象が見られる。このような事態に対処して、農業の自然的経済的社会的制約による不利を補正し、農業従事者の自由な意志と創意工夫を尊重しつつ、農業の近代化と合理化を図つて、農業従事者が他の国民各層と均衡する健康で文化的な生活を営むことができるようにすることは、農業及び農業従事者の使命にこたえるゆえんのものであるとともに、公共の福祉を念願するわれら国民の責務に
属するものである。ここに、農業の向うべき新たなみちを明らかにし、農業に関する政策の目標を示すため、この法律を制定する。

第一章 総則

(国の農業に関する政策の目標)
第1条
国の農業に関する政策の目標は、農業及び農業従事者が産業、経済及び社会において果たすべき重要な使命にかんがみて、国民経済の成長発展及び社会生活の進歩向上に即応し、農業の自然的経済的社会的制約による不利を補正し、他産業との生産性の格差が是正されるように農業の生産性が向上すること及び農業従事者が所得を増大して他産業従事者と均衡する生活を営むことを期することができることを目途として、農業の発展と農業従事者の地位の向上を図ることにあるものとする。

(国の施策)
第2条

国は、前条の目標を達成するため、次の各号に掲げる事項につき、その政策全般にわたり、必要な施策を総合的に講じなければならない。
① 需要が増加する農産物の生産の増進、需要が減少する農産物の生産の転換、外国産農産物と競争関係にある農産物の生産の合理化等農業生産の選択的拡大を図ること。
② 土地及び水の農業上の有効利用及び開発並びに農業技術の向上によつて農業の生産性の向上及び農業総生産の増大を図ること。
③ 農業経営の規模の拡大、農地の集団化、家畜の導入、機械化その他農地保有の合理化及び農業経営の近代化(以下「農業構造の改善」と総称する。)を図ること。
④ 農産物の流通の合理化、加工の増進及び需要の増進を図ること。
⑤ 農業の生産条件、交易条件等に関する不利を補正するように農産物の価格の安定及び農業所得の確保を図ること。
⑥ 農業資材の生産及び流通の合理化並びに価格の安定を図ること。
⑦ 近代的な農業経営を担当するのにふさわしい者の養成及び確保を図り、あわせて農業従事者及びその家族がその希望及び能力に従つて適当な職業に就くことができるようにすること。
⑧ 農村における交通、衛生、文化等の環境の整備、生活改善、婦人労働の合理化等により農業従事者の福祉の向上を図ること。
2 
前項の施策は、地域の自然的経済的社会的諸条件を考慮して講ずるものとする。

(地方公共団体の施策)
第3条
地方公共団体は、国の施策に準じて施策を講ずるように努めなければならない。

(財政上の措置等)
第4条
1 
政府は、第二条第一項の施策を実施するため必要な法制上及び財政上の措置を講じなければならない。

政府は、第二条第一項の施策を講ずるにあたつては、必要な資金の融通の適正円滑化を図らなければならない。

(農業従事者等の努力の助長)
第5条
国及び地方公共団体は、第二条第一項又は第三条の施策を講ずるにあたつては、農業従事者又は農業に関する団体がする自主的な努力を助長することを旨とするものとする。

(農業の動向に関する年次報告)
第6条

政府は、毎年、国会に、農業の動向及び政府が農業に関して講じた施策に関する報告を提出しなければならない。
2 
前項の報告には、農業の生産性及び農業従事者の生活水準の動向並びにこれらについての政府の所見が含まれていなければならない。
3 
第一項の報告の基礎となる統計の利用及び前項の政府の所見については、農政審議会の意見をきかなければならない。

(施策を明らかにした文書の提出)
第7条
政府は、毎年、国会に、前条第一項の報告に係る農業の動向を考慮して講じようとする施策を明らかにした文書を提出しなければならない。



第二章 農業生産

(需要及び生産の長期見通し)
第8条
1 
政府は、重要な農産物につき、需要及び生産の長期見通しをたて、これを公表しなければならない。この場合において、生産の長期見通しについては、必要に応じ、主要な生産地域についてもたてるものとする。
2 
政府は、需給事情その他の経済事情の変動により必要があるときは、前項の長期見通しを改定するものとする。
3 
政府は、第一項の長期見通しをたて、又はこれを改定するには、農政審議会の意見をきかなければならない。

(農業生産に関する施策)
第9条
国は、農業生産の選択的拡大、農業の生産性の向上及び農業総生産の増大を図るため、前条第一項の長期見通しを参酌して、農業生産の基盤の整備及び開発、農業技術の高度化、資本装備の増大、農業生産の調整等必要な施策を講ずるものとする。

(農業災害に関する施策)
第10条
国は、災害によつて農業の再生産が阻害されることを防止するとともに、農業経営の安定を図るため、災害による損失の合理的な補てん等必要な施策を講ずるものとする。



第三章 農産物等の価格及び流通

(農産物の価格の安定)
第11条
1 
国は、重要な農産物について、農業の生産条件、交易条件等に関する不利を補正する施策の重要な一環として、生産事情、需給事情、物価その他の経済事情を考慮して、その価格の安定を図るため必要な施策を講ずるものとする。
2 
政府は、定期的に、前項の施策につき、その実施の結果を農業生産の選択的拡大、農業所得の確保、農産物の流通の合理化、農産物の需要の増進、国民消費生活の安定等の見地から総合的に検討し、その結果を公表しなければならない。
3 
政府は、前項の規定による検討をするにあたつては、農政審議会の意見をきかなければならない。

(農産物の流通の合理化等)
第12条
国は、需要の高度化及び農業経営の近代化を考慮して農産物の流通の合理化及び加工の増進並びに農業資材の生産及び流通の合理化を図るため、農業協同組合又は農業協同組合連合会(以下第17条までにおいて「農業協同組合」と総称する。)が行なう販売、購買等の事業の発達改善、農産物取引の近代化、農業関連事業の振興、農業協同組合が出資者等となつている農産物の加工又は農業資材の生産の事業の発達改善等必要な施策を講ずるものとする。

(輸入に係る農産物との関係の調整)
第13条
国は、農産物(加工農産物を含む。以下同じ。)につき、輸入に係る農産物に対する競争力を強化するため必要な施策を講ずるほか、農産物の輸入によつてこれと競争関係にある農産物の価格が著しく低落し又は低落するおそれがあり、その結果、その生産に重大な支障を与え又は与えるおそれがある場合において、その農産物につき、第11条第1項の施策をもつてしてもその事態を克服することが困難であると認められるとき又は緊急に必要があるときは、関税率の調整、輸入の制限その他必要な施策を講ずるものとする。

(農産物の輸出の振興)
第14条
 国は、農産物の輸出を振興するため、輸出に係る農産物の競争力を強化するとともに、輸出取引の秩序の確立、市場調査の充実、普及宣伝の強化等必要な施策を講ずるものとする。



第四章 農業構造の改善等

(家族農業経営の発展と自立経営の育成)
第15条
国は、家族農業経営を近代化してその健全な発展を図るとともに、できるだけ多くの家族農業経営が自立経営(正常な構成の家族のうちの農業従事者が正常な能率を発揮しながらほぼ完全に就業することができる規模の家族農業経営で、当該農業従事者が他産業従事者と均衡する生活を営むことができるような所得を確保することが可能なものをいう。以下同じ。)になるように育成するため必要な施策を講ずるものとする。

(相続の場合の農業経営の細分化の防止)
第16条
国は、自立経営たる又はこれになろうとする家族農業経営等が細分化することを防止するため、遺産の相続にあたつて従前の農業経営をなるべく共同相続人の一人が引き継いで担当することができるように必要な施策を講ずるものとする。

(協業の助長)
第17条
国は、家族農業経営の発展、農業の生産性の向上、農業所得の確保等に資するため、生産行程についての協業を助長する方策として、農業協同組合が行なう共同利用施設の設置及び農作業の共同化の事業の発達改善等必要な施策を講ずるとともに、農業従事者が農地についての権利又は労力を提供し合い、協同して農業を営むことができるように農業従事者の協同組織の整備、農地についての権利の取得の円滑化等必要な施策を講ずるものとする。

(農地についての権利の設定又は移転の円滑化)
第18条
国は、農地についての権利の設定又は移転が農業構造の改善に資することとなるように、農業協同組合が農地の貸付け又は売渡しに係る信託を引き受けることができるようにするとともに、その信託に係る事業の円滑化を図る等必要な施策を講ずるものとする。

(教育の事業の充実等)
第19条
国は、近代的な農業経営を担当するのにふさわしい者の養成及び確保並びに農業経営の近代化及び農業従事者の生活改善を図るため、教育、研究及び普及の事業の充実等必要な施策を講ずるものとする。

(就業機会の増大)
第20条
 国は、家族農業経営に係る家計の安定に資するとともに農業従事者及びその家族がその希望及び能力に従つて適当な職業に就くことができるようにするため、教育、職業訓練及び職業紹介の事業の充実、農村地方における工業等の振興、社会保障の拡充等必要な施策を講ずるものとする。

(農業構造改善事業の助成等)
第21条
国は、農業生産の基盤の整備及び開発、環境の整備、農業経営の近代化のための施設の導入等農業構造の改善に関し必要な事業が総合的に行なわれるように指導、助成を行なう等必要な施策を講ずるものとする。

(農業構造の改善と林業)
第22条
国は、農業構造の改善に係る施策を講ずるにあたつては、農業を営む者があわせて営む林業につき必要な考慮を払うようにするものとする。



第五章 農業行政機関及び農業団体

(農業行政に関する組織の整備及び運営の改善)
第23条
国及び地方公共団体は、第2条第1項又は第3条の施策を講ずるにつき、相協力するとともに、行政組織の整備及び行政運営の改善に努めるものとする。

(農業団体の整備)
第24条
国は、農業の発展及び農業従事者の地位の向上を図ることができるように農業に関する団体の整備につき必要な施策を講ずるものとする。


第六章 農政審議会

(設置)
第25条
農林水産省に、農政審議会(以下「審議会」という。)を置く。

(権限)
第26条
1 
審議会は、この法律の規定によりその権限に属させられた事項を処理するほか、内閣総理大臣、農林水産大臣又は関係各大臣の諮問に応じ、この法律の施行に関する重要事項を調査審議する。
2 
審議会は、前項に規定する事項に関し内閣総理大臣、農林水産大臣又は関係各大臣に意見を述べることができる。

(組織)
第27条
1 
審議会は、委員15人以内で組織する。
2 
委員は、前条第1項に規定する事項に関し学識経験のある者のうちから、農林水産大臣の申出により、内閣総理大臣が任命する。
3 
委員は、非常勤とする。
4 
第2項に定めるもののほか、審議会の職員で政令で定めるものは、農林水産大臣の申出により、内閣総理大臣が任命する。

(資料の提出等の要求)
第28条
審議会は、その所掌事務を遂行するため必要があると認めるときは、関係行政機関の長に対し、資料の提出、意見の開陳、説明その他必要な協力を求めることができる。

(委任規定)
第29条
この法律に定めるもののほか、審議会の組織及び運営に関し必要な事項は、政令で定める。

附則 抄
1 
この法律は、公布の日から施行する。
附則 (昭和五三年七月五日法律第八七号) 抄

(施行期日)
第一条
 この法律は、公布の日から施行する。
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農業基本法(昭和36年6月12日法律127号)は、農業に関する政策の目標を示すために制定され、「農業界の憲法」であることを目的とした。しかし、日本の農業の発展には無力であり、1999年、新農業基本法(食料・農業・農村基本法)の施行によって廃止された。

1960年以後、所得倍増計画で政府資金が製造業に低利融資により、工業が順調に発展した。米作農民は米の生産過剰が明らかになり、所得向上のためにはコストダウンと農地拡大が不可欠であった。
1961年の農業基本法は農地の規模拡大と、米からの転作が大きなねらいである。しかし、農家は農地改革で安く手に入れた農地を、安値では売らなかった。
規模拡大のための農業人口の減少は、農村の『挙家離農』であった。しかし、農村から都会に就職するのは農村の次男・三男であり、長男の単独相続の風習は改まらなかった。つまり、農村人口減少による1農家当たりの経営規模拡大は、不可能であった。
農家は農地を高値で売るための資産として保持し、宅地・工場・道路などの用地に異常な高値で売った。農地を農地として、適当な価格で売ることはなかった。
経営規模をめざして農業機械を購入した農家は、機械を持て余して赤字経営が続いた。出稼ぎ労働による赤字解消が盛んになった。
小規模経営農家は、1ha程度の水田農地では所得向上が不可能と知ると、積極的に出稼ぎに行った。しかし、農地は資産として手放さず、農繁期には出稼ぎ先から帰郷した。兼業農家が、日本の農家の大半を占めた。農業基本法の前提であった、農地の流動化は起こらなかった。

農業基本法による農地の拡大と機械化を見越し、農村では土地改良事業が盛んになった。大区画の水田ができた。河川は改修されて単なるコンクリート用水路になった。水田には農薬・化学肥料が大量に投入された。自然破壊と機械化による負債は、小規模農家の負担になった。
土建業者・農機具メーカー・化学メーカーは非常に儲かったが、しかし、農業そのものは農業基本法をめざした方向には進まなかった。

新農業基本法(1999)は、食糧管理法と農業基本法に代わる農業政策だが、現状肯定の法体系であり、農村も農業も将来への展望はなかった。


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