内分泌代謝内科 備忘録

内分泌代謝内科臨床に関する論文のまとめ

2022/04/06

2022-04-06 21:33:18 | 日記
気腫性膀胱炎の総説
Intern Med 2014; 53: 79-82

気腫性膀胱炎 (emphysematous cystitis: EC) は稀な尿路感染症で、膀胱壁と膀胱内にガスを認めるのが特徴である。無症状のこともあるし、敗血症となっていることもある。EC はふつうコントロール不良の高齢糖尿病患者に見られる。尿培養からはしばしば大腸菌と肺炎桿菌が分離される。EC の診断には腹部 X線写真や CT などの画像検査が必要である。ほとんどの症例は抗菌薬治療と、膀胱内のドレナージ、血糖コントロールで治療できる。EC の死亡率は 7%である。早期に診断、治療することが予後を改善し、外科的治療を回避することにつながる。

1. 疫学

EC の死亡率は 3-12% と報告されている。気腫性腎盂腎炎 (emphysematous pyelonephritis: EP) を合併した場合は死亡率は 14-20%に上昇する。EC は高齢 (60-70歳) の糖尿病患者に多く、男女比 1:2で女性に多い。EC の危険因子は一般の尿路感染症と同様で、糖尿病、神経因性膀胱、尿路感染症の既往、膀胱下尿道閉塞 (bladder outlet obstruction: BOO) が挙げられる。これらの危険因子の中で最大のものは糖尿病である。EC の患者の 70%が糖尿病を合併している。EC 患者の血糖コントロールは不良であることが多く、血糖値の平均は 293 mg/dL、HbA1c の平均は 9.9% である。

2. 起炎菌

EC 患者の尿培養から分離される細菌で多いのは大腸菌 (60%) と肺炎桿菌 (10-20%) である。これらはブドウ糖や乳酸を発酵させ、さまざまなガス(窒素、水素、酸素、二酸化炭素) を産生する。他に起炎菌として報告されているのは、Enterobacter aerogenes, Proteus mirabilis, Streptococcus 属 である。

Pseudomomas aeruginosa, Candida albicans, Clostridium perfringens, Enterococcus faecalis, Staphylococcus aureus, Clostridium welchii, Candida tropicalis, Aspergillus dumigatus も分離されるが、稀である。腸球菌 (Enterococcus 属) などの非ガス産生菌は起炎菌というより、混合感染の可能性が高い。

3. 臨床所見

EC の臨床所見はさまざまで、無症状の場合から敗血症に陥っている場合まである。最も多い症状は腹痛で 80% の患者で認める。肉眼的血尿も多く、60%で認める。尿閉 (ischuria) は 10%で認める。

発熱は腎盂腎炎の合併を疑わせるが、30-50%の患者では腎盂腎炎を合併していなくても発熱する。気尿 (pneumaturia) は特異的ではあるが、気尿を訴えることは稀である。尿道カテーテルを挿入している場合は 70%で気尿を認める。膀胱炎の症状 (排尿困難、頻尿、尿意切迫) は 50%で認める。しかし、これらの所見は非特異的であり、あっても軽度である。

以上のように、EC を強く疑わせる臨床所見はない。さらに最大 7%の患者では無症状である。無症状の患者は画像検査で偶発的に発見される。

4. 診断

EC の診断には画像検査が不可欠であり、腹部 X 線写真または CT で膀胱壁内および膀胱内にガスを認める (リンク参照)。

5. 治療

多くの場合、入院で加療される。だいたい 90%の症例では内科的治療のみで加療され、10%の症例では外科的治療が行われる。内科的治療は抗菌薬投与と膀胱内のドレナージ、血糖コントロールなど基礎疾患の管理からなる。抗菌薬の選択については知見は限られるが、ふつうの複雑性尿路感染症と同様に考えて良さそうである。尿のグラム染色は抗菌薬選択に有用である。グラム陰性桿菌を認めれば、初期治療として、フルオロキノロン、セフトリアキソン、カルバペネム、またはアミノグリコシドの静脈注射は選択肢になるだろう。一方、グラム陽性球菌を認める場合は腸球菌をカバーするためにアンピシリンやアモキシシリンを選択すべきである。抗菌薬は培養結果を基に最適化されるべきである。臨床的に安定したら、抗菌薬を静脈注射から経口投与に切り替えて良い。

膀胱のドレナージについては、早期のフォーリーカテーテル留置が膀胱の負荷を軽減できるだろう。また、尿道カテーテルを留置することで、尿の観察 (尿量および性状) が容易になる。

血糖コントロールはインスリン注射(場合によっては静脈注射) で行うと良い。

EP を合併する場合は早期に経皮的腎ドレナージを行えば、手術を回避することができるかもしれない。初期治療に反応しない、あるいは重度の壊死性感染症の場合は手術が必要になる。重症度によって、デブリドマン、膀胱部分切除、膀胱全摘出、腎摘出が選択される。

6. 予後

EC の全死亡率はおよそ 7%である。EC に EP が合併した場合は死亡率は 14-20%になる。診断が遅れると膀胱破裂することもある。

気腫性膀胱炎の腹部 X 線写真および CT 所見
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMicm1509543

元論文
https://www.jstage.jst.go.jp/article/internalmedicine/53/2/53_53.1121/_article

2022/04/06

2022-04-06 05:31:27 | 日記
LPL 欠損症は高中性脂肪血症を来す先天性疾患として有名である。しかし、中性脂肪 2000 mg/dL 超の高中性脂肪血症を見たとき、それが LPL欠損症である可能性は低い。

リポ蛋白リパーゼ (lipoprotein lipase: LPL) は末梢の血管内皮の細胞膜を覆っている多糖に静電気的に結合している。だから、同じ多糖であるヘパリンを静脈注射して、LPL を血液中に溶出させないと、血液検査では測定できない。前処置をしないで血液検査をすれば当然、結果は陰性になるので、LPL 欠損症だと誤診されることになる。

糖尿病では LPL の活性が低下するため、中性脂肪 2000-4000 mg/dL の高中性脂肪血症を認めることがある。これはインスリン抵抗性に関連するので中年以降で認めることが多い。

一方、LPL 欠損症は有病率 1人/100万人の稀な疾患で、多くの場合 10歳未満から腹痛と急性膵炎をくり返す。症例の 25%では乳児の時点で膵炎を発症する。だから、ほとんどの場合、小児科で診断される。

フィブラートは LPL の発現を誘導するので中性脂肪を低下させる作用があるが、LPL を欠損している場合は全くの無効である。また、魚油のサプリメント(ロトリガ)はカイロミクロンの濃度を上げるので LPL 欠損症では禁忌である。

LPL 欠損症の治療は食事療法で中性脂肪 20 g/日以下というたいへん厳しい脂質制限を行う。この厳しい脂質制限のために脂肪の代わりに短鎖脂肪酸を料理に使うなどの工夫をする。

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK1308/