内分泌代謝内科 備忘録

内分泌代謝内科臨床に関する論文のまとめ

2022/01/10

2022-01-10 12:06:07 | 日記
非アルコール性脂肪肝炎(nonalcoholic statohepatitis :NASH)
last update: 2018/7/9

1. 疫学

・世界全体のNAFLDの有病率は 25%,最も有病率が高いのは南米(31%),中東(32%),でアジア(27%),アメリカ(24%),ヨーロッパ(23%)が次ぐ.アフリカ(14%)は低い(Hepatology 2016; 64: 73-84).

・NAFLD患者のうちおよそ30%がNASHに進行する(Int J Mol Sci 2016; 17)

・NASH患者のうち20-40%が肝線維化に進行する(Gastroenterology 2015; 148: 547-555).

・NASH患者のうち 5%未満が肝硬変に至る(Hepatology 2015; 61: 1547-1554).

・NAFLD患者における HCC の罹患率は不明である.Ekstedt らは肝生検によって診断した NAFLD患者を26.4年間追跡したところ、5% が HCC が原因で死亡したと報告している(Hepatology 2015; 61, 1547-1554).


2. screening

・2018年現在、NAFLDの screening 条件を明確に定めた guideline は存在しない.

・American Association for the Study of Liver Disease (AASLD) は長期予後と経済性についての知見が不足しているため NAFLD の screening は推奨しないとしている(Hepatology 2017; 67: 328-357).

・NAFLDの診断は病歴,血清学的検査,画像検査(エコー,CT,MRI) の結果を総合して行う(Clin Mol Hepatol 2017; 23: 290-301, World J Gastroenterol 2014; 20: 7392-7402).


3. 病期診断

・NAFLD患者において肝線維化が最も強く死亡を予測する因子である(Int J Mol Sci 2016; 17).したがって,NAFLDを診断した場合、線維化の程度を決定する必要がある.

・NASHの診断と,炎症および線維化の評価については肝生検が gold standard である.しかし,肝生検の欠点として高い侵襲性と費用,サンプルエラーがある.そのため,より侵襲性の低い肝線維化の評価法の開発が望まれている

・肝線維化の評価ツールとして NAFLD fibrosis score (NFS) がある.これは,年齢,BMI,血小板数,トランスアミナーゼ(AST, ALT)に基づいていて,肝線維化の程度を評価するバイオマーカーとしての有用性が示されている(Gastroenterology 2015; 149: 389-397).

・NFS の他にも肝線維化を捉えるための非侵襲的なツールとして fibrosis-4 (FIB-4) score,AST to platelet ratio, enhanced liver fibrosis panel, Fibrometer, Fibro Test, Hepascore が開発されている(Dig Dis Sci 2016; 61: 1356-1364).

・AASLD は肝硬変のリスクが高い NAFLD患者の同定のために NFS または FIB-4 で肝線維化リスクを評価することを推奨している(Hepatology 2017; 67: 328-357).

・肝線維化の程度を評価する画像診断法として,magnetic resonance elastography (MRE) とtransient elastography (TE) がある.

・TE はエコーで肝の剛性 (stiffness)
を評価する方法で、非侵襲的で簡便ではあるが、結果のおよそ25%は信頼性に欠け、解釈できない(Am J Gastroenterol 2016; 111: 677-684).特に肥満がある患者では、皮下脂肪によって elastic shear wave が減弱するため診断能が低下する(Aliment Pharmacol Ther 2013; 37: 392-400).

・MREはTE よりも正確に NAFLD患者の肝線維化の程度を評価できる(J Hepatol 2013; 58: 1007-1019).MREの肝線維化に対する感度は91%(95%CI 83-96%)で,特異度は86%(95%CI 65-96%)である(Hepatology 2014; 60: 1920-1928).

・AASLDは NAFLD の患者に対して肝硬変のリスクが高い NAFLD患者の同定のためにTEまたはMREを行うことを推奨している(Hepatology 2017; 67: 328-357).


4. 治療

・生検で診断された NASH 患者を対象とした前向き研究で,10%の体重減少は組織学的に肝の線維化を改善させた(Gastroenterology
2015; 149: 367-378).

・AASLDはNAFLDの管理において運動と食事の改善を推奨している(Hepatology 2017; 67: 328-357).

・2018年7月現在,FDAが承認している NAFLD に対する治療薬は存在しない.

・2013年にFDAとAASLDによる合同ワークショップでは,NAFLDに対する治療薬の開発を困難としている要因として、臨床的なアウトカムに基づくエンドポイントが欠けていることが指摘された.また,死亡率をエンドポイントとする場合,肝線維化が進行していないNASH患者を対象とする観察期間 10-15年の大規模なコホートが必要とされた(Hepatology 2015; 61: 1392-1405).

・NASHの病理にはインスリン抵抗性と酸化ストレスが関与していると考えられているので,インスリン抵抗性改善薬である thiazolizine ( ex. pioglitazone ) と抗酸化薬である vitamin E ( tocopherol ) がしばしば使用されている(Gastroenterology 2001; 120: 1183-1192, Alcohol 2004; 34: 67-79).

・247名の糖尿病を合併していない NASH 患者を対象に vitamin E および thiazolizine
の治療効果を検討した多施設,2重盲検の RCT では,2年間の観察期間で vitamin E 800
IU/dayについては偽薬と比較して有意な組織学的改善 (43% vs 19%, P = 0.001) を認めた.一方、pioglitazone 30mg/day では有意な改善は認めなかった(34% vs 19%, P = 0.04).いずれも偽薬と比較して有意にトランスアミナーゼ(AST/ALT),脂肪肝,小葉の炎症を改善させたが,線維化の改善は認めなかった.Pioglitazone 投与群では有意な体重増加(+4.7 kg, P <0.001)を認めた(N Engl J Med 2010; 362: 1675-1685).