内分泌代謝内科 備忘録

内分泌代謝内科臨床に関する論文のまとめ

2022/01/10

2022-01-10 12:16:38 | 日記
中枢性副腎皮質機能低下症
last updated: 2019

1. 定義

・副腎不全のうち,副腎の機能障害によるものを一次性, 下垂体におけるACTH分泌機能障害によるものを二次性, 視床下部におけるCRH分泌機能障害によるものを三次性という.

2. 二次性副腎皮質機能低下症

・下垂体の障害はACTHを含む汎下垂体機能低下症を来し得る.具体的には腫瘍(頭蓋咽頭腫, 腺腫など),医原性(手術, 放射線療法), 感染症(結核, ヒストプラズマ症), 浸潤性疾患(下垂体炎, ヘモクロマトーシス),下垂体卒中,遺伝子変異,empty sella が挙げられる.

3.ACTHを含む汎下垂体機能低下症

・PROP-1 の変異によるACTHを含む下垂体機能低下症の報告がある.ただし, PROP-1 は ACTH産生細胞では発現していない(J Clin Endcrinol Metab 2000; 85: 4556, J Clin Endoclinol Metab 2004; 89: 5256).

・下垂体形成の初期にはたらく転写因子(HESX1, LHX4)の変異もACTHを含む汎下垂体機能低下症を来し得る(J Clin Endocrinol Metab 2003; 88: 45).


4.ACTH単独欠損症

4-1. 自己免疫

・ACTH産生細胞を選択的に欠損する下垂体炎の症例が報告されている(Ann Intern Med 1986; 105: 200).

・ACTH単独欠損症と円形脱毛症が合併する症候群(triple H syndrome)が3症例(女性2例, 男性1例)報告されている. 女性の1症例では, 白斑と前向健忘をともない, MRI で海馬の萎縮を認めた. 男性1症例では, 皮膚生検で毛包周囲のリンパ球浸潤を認めた. 著者らは triple H syndrome の機序として視床下部(または下垂体ACTH産生細胞), 毛包, 海馬に共通する抗原に対する自己免疫を想定している(J Clin Endocrinol Metab 2000; 85: 2644, Eur J Endocrinol 2002; 147: 357).


 4-2. 遺伝子変異

・ACTH単独欠損症を来す極めて稀な変異遺伝子としては, POMC, PC1, TPITが知られている.

・小児期に発症する二次性副腎皮質機能低下症の原因として propiomelanocortin (POMC) の機能欠失変異のホモ接合または複合ヘテロ接合が同定された7症例が報告されている (Nat Genet 1998; 19: 155, J Clin Endocrinol Metab 2008; 93: 4955).

・ACTH単独欠損症の原因として, POMCからACTHを切り出す酵素である prohormone convertase 1 (PC1) の機能低下をもたらす遺伝変異も報告されている (Clin Endocrinol 1993; 39: 381).

・新生児発症のACTH単独欠損症の原因として, ACTH産生細胞の分化に必須の転写酵素である TPIT の遺伝子変異が報告されている.
新生児発症のACTH単独欠損症27例のうち17例でTPIT遺伝子の機能欠失変異のホモ接合または複合ヘテロ接合が報告されている(J Clin
Endocrinol Metab 2005; 90: 1323).


5. 三次性副腎皮質機能低下症

・三次性副腎皮質機能低下症の原因として最も多いのは, ①高用量ステロイド治療の中断と ②Cushing症候群などの副腎皮質機能亢進症の治療後である.

・高用量ステロイドは視床下部におけるCRH産生と分泌を低下させる. ステロイドはまた下垂体におけるCRH刺激に対するACTH産生と分泌を低下させる. さらにACTH刺激が失われると, 副腎皮質束状層および網状層が萎縮し, コルチゾール産生が低下する. 一方, アルドステロン産生はACTH刺激よりもレニン-アンジオテンシン系に依存しているため, アルドステロン濃度は正常に保たれる.