内分泌代謝内科 備忘録

内分泌代謝内科臨床に関する論文のまとめ

2022/02/12

2022-02-12 06:58:01 | 日記
2019年の ACC/AHA と ESC の心不全の診療ガイドラインの比較
J Am Coll Cardiol 2019; 73: 2756-2768

米国心臓病学会/米国心臓協会 (American Collage of Cardiology/American Heart Association: ACC/AHA) は 2013 年に (2016年と2017年に改訂)、欧州心臓学会 (European Society of Cardiology: ESC) は 2016 年に心不全の診療ガイドラインを発表している。

両ガイドラインとも駆出率が低下した心不全( heart failure reduced ejection fraction: HFrEF, LVEF 40%以下) と駆出率が保たれた心不全 (heart failure preserved ejection fraction: HFpEF, LVEF 50%以上) に分けて記載している。HFrEF については薬物および機器による治療の効果は多くの臨床試験によって裏付けられている。HFpEF の治療についてもいくつかの推奨があるもののエビデンスは弱い。HFpEF と急性心不全の治療についてのエビデンスが求められる。

1. 心不全の予防

心不全のリスク因子を管理することで心不全の発症を遅らせられるかもしれない。心不全の最大のリスク因子は高血圧であり、血圧の管理によって心不全の罹患率をおよそ 50% 低下させることが示されている。利尿薬、ACE 阻害薬、ARB、β ブロッカーはいずれも心不全の予防に効果があり、ACC/AHA, ESC のいずれの診療ガイドラインでも推奨されている。また冠動脈疾患の既往がある、あるいは高リスクの患者では積極的にスタチンを使用し、禁煙と節酒を勧めることを推奨している。肥満とインスリン抵抗性は心不全発症の重要なリスク因子である。ESC のガイドラインではエンパグリフロジンの死亡率および心不全入院の抑制効果について触れている。SGLT-2 阻害薬以外のクラスの糖尿病治療薬では心不全の予防効果を示したものはなく、ピオグリタゾンについては心不全を悪化させるデータがある。

2. HFrEF の治療

ACC/AHA のガイドラインでも ESC のガイドラインでも症候性あるいは体液貯留を認める心不全患者ではループ利尿薬の使用を推奨している。

ACE 阻害薬、MRA、β ブロッカーはいずれも心不全入院および死亡を減らすことが示されているので、禁忌でない限りは全ての HFrEF 患者に使用するべきである。いずれのガイドラインも ACE 阻害薬の代わりに ARB を使用することは可としている。

アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬 (angiotensin recepter-neprilysin inhibitors: ARNIs) の位置付けはガイドラインによって異なる。ACC/AHA のガイドラインでは、NYHA 分類 II/III の心不全患者で ACEI または ARB による治療で安定していた場合は ARNIs の使用は level I の推奨となっている。対して ESC のガイドラインでは、外来患者で ACE 阻害薬、MRA、β ブロッカーで治療しても症状が残る場合に ACE 阻害薬の代わりとして ARNIs を使用することを検討するとしている。

β ブロッカーは HFrEF 患者の心不全入院および死亡を減らすことが示されており、全ての安定している症候性の心不全患者 (NYHA 分類 II-IV) に推奨されている。β ブロッカーと ACE 阻害薬とは作用が相補的であり、HFrEF の診断が確定した時点で同時に開始しても良い。ACC/AHA のガイドラインでは β1 選択的な β ブロッカー (ビソプロロール、カルベジロール、メトプロロールサクシニル酸徐放製剤) の使用を勧めているが、 ESC のガイドラインでは特定の β ブロッカーの使用は推奨していない。

両ガイドラインともに、症候性 (NYHA 分類 II-IV) で LVEF 35% 未満の HFrEF 患者に対しては、合併症と死亡を減らすために、MRA (スピロノラクトン、エプレレノン) を ACEI (ACE 阻害薬に対して認容性がない場合は ARB) と β ブロッカーに追加することを推奨している。また、両ガイドラインは急性心筋梗塞後の患者で LVEF 40%未満の心不全を合併した場合、もしくは糖尿病を合併している場合は ACE 阻害薬、β ブロッカー、MRA の使用を勧めている。しかし、最近の研究では、心不全症状を認めていない LVEF が低下した心筋梗塞後の患者に上記薬剤を使用しても利益がないことが示されている。両ガイドラインともに腎不全患者 ( eGFR 30 mL/min/1.73 m2 未満または血清カリウム 5.0 mEq/L 以上) では MRA の使用は注意を要するとしている。

イバブラジンは洞房結節の過分極活性化陽イオン電流 (If) を選択的に阻害する新規薬剤で心拍数を低下させる作用を持つ。両ガイドラインともに、LVEF 35%未満の洞調律の心不全患者で、最大用量の β ブロッカーを使用しても心拍数 70 /分以上で心不全症状がある場合に検討するとしている。

3. 心臓植え込み型電気的デバイス

植え込み型除細動器 ( implantable cardioverter defibrillator: ICD) は心臓突然死から救命された人や持続性心室頻拍の患者の死亡率を低下させる効果がある。一時予防の効果のエビデンスは主に虚血性心疾患の患者のデータに基づく。両ガイドラインとも最適な薬物治療を 3ヶ月間続けても LVEF 35%以下である場合に突然死のリスクを低下させるために ICD を検討するとしている。両ガイドラインともに心筋梗塞後 40日以内では ICD を使用しないことを勧めている。この推奨はいくつかの臨床試験で早期の ICD 使用には利益がないことが示されていることに基づいている。

虚血性心疾患によらない心不全に対する ICD 適応については十分なエビデンスがない。非虚血性心疾患の心不全患者を対象に ICD の死亡率低減効果を検討した DEFINITE trial では死亡率を低下させる傾向を認めただけだった。DANISH trial では非虚血性心疾患の心不全患者における ICD の死亡率低減効果は認めず、68歳未満を対象にしたサブグループ解析で死亡率低下を認めただけだった。

心臓再同期療法 (cardiac resynchronization therapy: CRT) は洞調律で wide QRS (150 ms 以上) で左脚ブロックを認め、LVEF 35%未満の心不全患者が最も良い適応である。EchoCRT trial では、QRS 幅が 130 ms 以下の患者では CRT は有害だった。そのため、ESC のガイドラインでは QRS 幅が 130 ms に満たない場合は CRT を推奨しないとしている。心房細動の心不全患者に対する CRT の効果は分かっていない。

https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0735109719346996