果糖とメタボリックシンドロームについての総説
Nutrients 2019; 11: 1987
最近数十年で先進国、発展途上国ともに食習慣が大きく変わり、運動不足と相俟って、肥満、メタボリックシンドローム (metabolic syndrome: MetS)、非アルコール性脂肪肝疾患 (non-alcoholic fatty liver disease: NAFLD) 、2型糖尿病が激増している。特に子どもの NAFLD が世界的に問題となっている。
食習慣の変化は単にカロリー摂取量が増えたというだけでなく、加糖飲料 (sugar sweetened beverages) を中心とする糖の過剰摂取によって特徴づけられる。欧米では加糖飲料は総エネルギー摂取量の 15-17%もの量が消費されており、添加糖は総エネルギー摂取量の 5%以下とする WHO の推奨 (2018)を大幅に超過している。そのため、特に子どもを中心に過剰な糖摂取が世界的な公衆衛生の問題となっており、糖の消費への規制を求める動きも出始めている。
主な甘味料としてはショ糖 (ブドウ糖と果糖からなる二糖)と異性化糖 (high fructose corn syrup, コーンシロップに含まれるブドウ糖を異性化して果糖とブドウ糖の混合物にしたもの、果糖 55%、ブドウ糖 45% の割合のものが多く使用されている、日本では一般に果糖ブドウ糖液糖と表記される) がある。果糖は天然に存在する糖の中で最も甘味が強く、過去 40年で消費量が激増している。
果糖の過剰摂取による心疾患および代謝疾患の危険因子に対する有害な効果については多くのエビデンスが蓄積されている。たとえば、MetS の異所性脂肪、特に肝臓に沈着する脂肪は過剰に摂取した果糖に由来すると考えられている。
1. 腸管における果糖の代謝
ブドウ糖と果糖とは構造がよく似た単糖ではあるが、腸管および肝臓における代謝経路は異なっている。果糖は主に腸管上皮の頂端側に発現するグルコーストランスポーター5 (glucose transporter-5: GLUT-5) を介して腸細胞 (enterocyte) 内に取り込まれる。腸細胞内に大量の果糖が取り込まれると、GLUT-5 の発現が亢進する。腸細胞から門脈への果糖の輸送の一部は GLUT-2 を介する。果糖の一部は腸細胞の細胞質に発現しているフルクトースキナーゼによってフルクトース-1-リン酸に変換される。
グルコース感受性転写因子 (carbohydrate responsive element binding protein: ChREBP) はブドウ糖摂取によって誘導される転写因子で、肝臓における糖および脂質の代謝の制御において重要なはたらきをしていると考えられている。最近、腸細胞において ChREBP が GLUT-5 の発現を制御していることが分かってきた。
実際、ハムスターに日常的に果糖を与えると、ChREBP と GLUT-5 の発現が亢進し、腸管での脂質合成が促進され、キロミクロンの分泌が増える。対照的に、ChREBP を欠損したマウスに大量の果糖を与えても、GLUT-5 の発現亢進は起こらず、果糖の吸収が増えないため果糖不耐症になる。
肝臓は果糖代謝の中心であると考えられてきたが、マウスで行われた放射性標識や質量分析を用いた研究によると、小腸が果糖の主要な代謝臓器であることが分かってきた。大量の果糖を摂取すると、小腸の果糖代謝が飽和し、小腸で代謝しきれなかった果糖が肝臓に流れ込むようである。健常者を対象に放射性標識果糖を用いて果糖の取り込み部位を検討した研究では、果糖の 85.5%は腸管および肝臓で吸収され、体循環に流入するのは 14.5%に過ぎなかった。
果糖は腸内細菌叢に影響を与えることで NAFLD の病態形成に寄与すると報告されている。
2. 肝臓における果糖の代謝
門脈から肝臓への果糖の取り込みは ĢLUT-2 を介する。ブドウ糖とは対照的に、果糖は体循環に入るのはごく一部である。また、GLUT-4 によるブドウ糖の取り込みはインスリンによって厳格に制御されているが、GLUT-2 による果糖の取り込みは知られている限りはホルモンによる制御は受けていない。
肝臓内に取り込まれた果糖はフルクトース-1リン酸に活性化された後に、ジヒドロキシアセトンリン酸とグリセルアルデヒド-3 リン酸に分解される。この果糖の代謝も、解糖 (ブドウ糖の嫌気性代謝) とは対照的にホルモンによる制御は受けない。果糖の分解で生じたグリセルアルデヒド-3 リン酸はピルビン酸、さらにアセチル-CoA に変換され、脂肪合成に利用される。
3. 果糖の過剰摂取と脂質合成との関係
NAFLD の特徴は肝臓への脂肪蓄積である。肝臓への脂肪の供給 (脂肪組織由来の遊離脂肪酸、食餌由来のキロミクロン、脂肪の新規合成 (de novo lipogenesis: DNL) )が脂肪の消費 (β 酸化、リポ蛋白分泌) を超過した場合に脂肪肝になる。
過去 10 年間で NAFLD の有病率は劇的に増加し、すでに欧米では慢性肝疾患の原因として最多となっている。
DNL 亢進は NAFLD 発症において重要なはたらきをしていることが示されている。炭水化物、特に果糖は DNL を促進し、肝臓への脂肪沈着を亢進させることが示されているが、脂肪肝の原因はエネルギー過剰か、果糖の過剰かについてはまだ決着はついていない。ヒトでのデータは足りないが、マウスで 2ヶ月間ブドウ糖または果糖を投与した実験では、総エネルギー量はブドウ糖の方が多いにも関わらず、果糖投与群で代謝が悪化した。
果糖は脂質代謝を制御する転写因子である sterol regulatory element binding proteon-1c: SREBP-1c を直接促進する。その他にも果糖は β 酸化を抑制し、小胞体ストレスを亢進させ、尿酸合成を亢進させることで、肝臓への脂肪蓄積を促進する。
果糖はまた、肝臓の ChREBP の発現も促進する。ChREBP はブドウ糖合成を促進する。さらに、果糖は fibroblast growth factor 21: FGF21 の濃度を上昇させる。FGF21 は肝臓での ChREBP の活性を亢進させ、DNL とVLDL 分泌を促進する。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6770027/