内分泌代謝内科 備忘録

内分泌代謝内科臨床に関する論文のまとめ

2022/01/03

2022-01-03 09:29:01 | 日記
11. 糖尿病ケトアシドーシス治療

i. 輸液

・生理食塩水で輸液する.最初の1時間で 1 L 輸液を行い,その後は血行動態や電解質を確認して輸液速度を調整する.一般的には 250-500 mL/h で維持する(過剰な輸液は脳浮腫のリスクと考えられているので,私は 150-250 mL/h で維持することが多い).

・生理食塩水の代わりに酢酸加リンゲル(ハルトマン, ラクテックなど)を使用しても良いが,どちらが優れているかは分かっていない.

・生理食塩水で大量輸液する場合,クロール負荷による高クロール性代謝性アシドーシスを来し得るため,治療の指標として重炭酸イオンが利用できなくなる可能性がある.

・米国糖尿病学会は低Na血症を認めなければ,生理食塩水から低張液(0.45%食塩水)への変更を可としている.浸透圧の変動は脳浮腫のリスクである可能性があるので,特に若い患者では輸液の変更は慎重に判断するべき.


ii. インスリン

・血清K <3 mmol/L ではインスリン静脈注射は開始しない.また初期輸液を開始するまではインスリン静脈注射は開始しない.

・0.1 U/kg/h でインスリン静脈注射を開始する(私は 0.05 U/kg/h で開始することが多い).

・インスリンの血中半減期は4分であり,インスリン静脈注射開始後30分ほどでインスリンの血中濃度は定常状態に達する.米国糖尿病学会はインスリン静脈注射開始時に
0.1 U/kgのインスリンをボーラス投与しても良いとしているが,おそらく不要である.

・生理食塩水 50 mL にヒューマリンR を50単位混合すると,だいたい 1 U/mL になる.シリンジポンプで投与速度を調整する.

・β-ヒドロキシ酪酸(血中ケトン)を指標にインスリンの投与量を調整する.β-ヒドロキシ酪酸の低下速度が 0.5 mmol/L/h 以上となるように, 1時間毎に 1 U/h ずつインスリンの投与量を調整する.

・血中ケトンはほとんどの医療機関で外注検査であり,簡易ケトン測定器が使用できる医療機関も限られている.

また現在使用できる簡易血糖測定器の多くは変動係数が 0.5 mmol/L 以上であり,精度が十分でない(Diabet Med 2015; 32: 14-23, Diabet Med 2012; 29: 827-828).

・血中ケトン濃度はアニオンギャップと良く相関するので,私はアニオンギャップを指標にインスリンの投与量を調整している.アニオンギャップの低下を認めれば,インスリンの投与量を減らす

・代謝性アシドーシスが改善したら, インスリンの投与方法を静脈注射から皮下注射に変更する.持効型インスリンを皮下注射してから2時間後にインスリン静脈注射を中止する.オーバーラップさせる理由は,インスリンの血中半減期が短いためである.


iii. 糖

・治療開始後数時間は1時間毎に血糖(HHS 合併の場合は血清浸透圧も)を確認する.

・血糖低下速度は <100 mg/dL/h (血清浸透圧低下速度は <8 mOsm/kg/h)を目標とする.高血糖高浸透圧状態を合併している場合は最初の24時間は血糖が 180 mg/dL 以下にならないようにする(目標血糖 180-270 mg/dL).

・血糖<250 mg/dL で生理食塩水に10%ブドウ糖を加える.(小規模なランダム化試験ではブドウ糖を5%加えた場合と10%加えた場合でアシドーシスの改善については差がなかったが,10%ブドウ糖の方が高血糖を来す頻度が高かった(Diabet Med 1989; 6: 31-36). そこで,私は血糖<300 mg/dL を確認した時点で 5%ブドウ糖を加えることにしている.血糖<300 mg/dL を確認した時点としているのは,採血してから検査結果を確認するまでにタイムラグがあるからである).


iii. 電解質

・治療開始後数時間は2時間毎に電解質を確認する.

・血清カリウム <5.5 mmol/L でカリウム補充を開始する.生理食塩水 1 L あたり 40 mEq/L のカリウムを混合注射する.

・リン,HCO3 の補充はルーチンには行わない.pH >6.9 では HCO3 投与による利益はない(Ann Intensive Care 2011; 1:23).一方, HCO3 投与は小児では脳浮腫との関連が示唆されている.また,HCO3 投与でアルカローシスになると血清中の遊離 Ca イオン濃度が急激に低下する.私自身,糖尿病ケトアシドーシスに対して HCO3 が投与され,テタニーを引き起こした例を見たことがある.心筋の機能障害が起これば命に関わる