内分泌代謝内科 備忘録

内分泌代謝内科臨床に関する論文のまとめ

2022/01/31

2022-01-31 08:32:20 | 日記
ネフローゼ症候群における脂質異常症についての総説
Nat Rev Nephrol 2018; 14: 57-70

ネフローゼ症候群は有病率が高く、治療は進歩しているが、今なお管理には未解決の課題がある。ネフローゼ症候群の合併症には動脈硬化性疾患や血栓塞栓症があるが、いずれにも脂質代謝の異常が関与する。

ネフローゼ症候群にともなう脂質異常症には、高コレステロール血症、高中性脂肪血症、アポリポ蛋白B を含むリポ蛋白すなわち IDL、VLDL の増加、血管内皮、筋肉および脂肪組織に発現しているリポ蛋白リパーゼの活性低下、肝臓のリポ蛋白リパーゼの活性低下、さらに PCSK9 の活性上昇が関与している。さらには、ネフローゼ症候群では未成熟な HDL も認められ、コレステロールの排出低下も関与している。

最近数年で、ネフローゼ症候群にともなう脂質異常症の分子レベルの病態生理についての私たちの理解は飛躍的に進歩した。さらに、ネフローゼ症候群にともなう脂質異常症が腎機能低下、血栓塞栓症、動脈硬化性疾患のリスクを上昇させることが分かってきた。

現時点ではネフローゼ症候群にともなう脂質異常症の治療については明確な指針はなく、さまざまな治療戦略が試みられている。スタチン、フィブラート、ニコチン酸、エゼチミブ、レジン、アフェレーシスはすでに試されていて、今後は 抗 PCSK9 モノクローナル抗体、small inhibitory RNA (siRNA) 、さらにネフローゼ症候群における脂質代謝異常の分子病態生理に基づいた新薬が試されていくだろう。

1. ネフローゼ症候群

ネフローゼ症候群は糸球体足細胞の障害により、蛋白尿、低アルブミン血症、浮腫を来す病態。

ネフローゼ症候群の罹患率は小児では 16/10万人/年で、成人では 3/10万人/年。大多数の患者ではステロイド治療で寛解するが、経過中に小児では 2割、成人では 5割以上でステロイド抵抗性になる。

ネフローゼ症候群の主な合併症としては感染、急性腎障害、血栓塞栓症がある。2015年の研究によると、小児のネフローゼ症候群の入院患者では 5割程度で急性腎障害を合併する。血栓塞栓症は小児ネフローゼ症候群患者の 2.3% に合併するのに対し、成人では 26.7% で合併する。血栓塞栓症は膜性腎症で特に多く、成人では 37%、小児では 25% で合併する。ネフローゼ症候群で血栓塞栓症が多いのは、抗凝固因子が尿から失われ、肝における凝固因子の産生が亢進するからと考えられている。

2. ネフローゼ症候群における脂質異常症

ネフローゼ症候群における脂質異常症の程度は尿蛋白と相関する。ネフローゼ症候群では、VLDL、IDL が上昇し、コレステロールおよび中性脂肪の血中濃度が上昇する。一方、HDL は健常者と変わらない。しかし、HDL が末梢から肝臓にコレステロールを輸送する機能は低下してもしれない(糖尿病性腎症では HDL の機能低下が知られている) 。

ネフローゼ症候群ではまたリポ蛋白の構成や機能も変化している。すなわち、ApoA-I、ApoA-IV、Apo-B、ApoC、ApoE およびApoC-III/ApoC-II 比が上昇している。

ネフローゼ症候群で認められる脂質およびリポ蛋白の上昇は主にクリアランスの低下によるもので、合成の亢進の影響はより小さい。

ネフローゼ症候群における脂質異常症はアルブミン代謝と関連すると信じられてきたが、ラットを用いた動物実験の結果からは脂質異常症の程度は蛋白尿と関連するが、アルブミン合成とは関連しないことが示されている。

ネフローゼ症候群では重度の高中性脂肪血症も認める。これにはアンギオポエチン関連蛋白 4 (ANGPTL4) とそのシアル化の程度が関与しており、新たな治療標的として注目されている。

3. 脂質異常症の病態生理

VLDL は肝で合成された脂肪酸を筋肉および脂肪組織に運ぶ輸送担体である。脂肪酸は末梢の リポ蛋白リパーゼのはたらきで VLDL から放出され、VLDL は IDL に変わる。IDL は LDL 受容体関連蛋白 1 (LRP1) を介したエンドサイトーシスによって肝細胞に取り込まれる。

ネフローゼ症候群では、 LDL および IDL の濃度が上昇している。これは LPL および肝のリパーゼ活性の低下が原因と考えられている。

LPL は血管内皮に発現しているグリコシルファチジルイノシトールアンカー型 HDL 結合蛋白 1 (GPIHBP1) を介して血管内皮に結合している。ネフローゼ症候群では GPIHBP1 の発現が低下している。さらに LPL の活性化因子が尿から喪失するために LPL の活性が低下する。

ネフローゼ症候群では、末梢の LPL 活性の低下に加えて、肝のリパーゼ活性が低下している。これにより、肝における IDL の取り込み低下と高中性脂肪血症が起こる。

さらに、ネフローゼ症候群では血中脂肪酸の濃度上昇により ANGPTL4 の発現が上昇している。ANGPTL4 は LPL の活性を抑制する。

ネフローゼ症候群では、リポ蛋白のクリアランス低下だけでなく、脂肪酸の合成が促進している。一方、脂肪酸の代謝は低下している。