内分泌代謝内科 備忘録

内分泌代謝内科臨床に関する論文のまとめ

2022/01/29

2022-01-29 06:13:54 | 日記
脊髄小脳失調症(spinocerebellar ataxia: SCA) の総説
J Neurol 2019; 266: 533-544

1. 疫学

最近のシステマティックレビューによると、世界全体の SCA の有病率は 3/10万人だが、地域差がある。最も多いサブタイプは SCA3 である。多くの原因遺伝子が同定されているが、欧州のコホート研究によれば半数以上は CAG リピートによる。


2. 臨床症状

SCA の主症状は歩行失調、協調運動障害、眼振/視力障害である。さらに SCA のサブタイプによっては、錐体路症状、錐体外路症状、眼球運動障害、認知機能障害を呈する。

臨床においては、1982年の Harding による常染色体優性遺伝小脳失調症(autosomal dominant cerebellar atxia: ADCA) の分類が有用である。

Harding の ADCA 分類

ADCA I
臨床症状: 小脳失調、錐体路症状、錐体外路症状、筋萎縮
SCA サブタイプ: SCA1-4, 8-10, 12-14, 15, 17-22, 25, 27, 28, 31, 32, 34-37, 38, 42-44, 46, 47, DNMT1, DRLPA

ADCA2
臨床症状: 小脳失調、網膜色素変性
SCA サブタイプ: SCA7

ADCA3
臨床症状: 純粋な小脳失調
SCA サブタイプ: SCA6, 11, 23, 26, 30, 37, 41, 45

いくつかの SCA サブタイプには特徴的な神経所見があり、鑑別に役立つ。たとえば、SCA 12, 15, 17 では、上肢の安静時振戦を認める。SCA14 ではミオクローヌスと作業時のジストニア( task-specific dystonia) を認めるかもしれない。SCA36 は顔舌の線維束性筋収縮と感音性難聴を認める。

数時間から数日間持続する反復性のふらつき、運動性構音障害、回転性めまい、複視を認める場合は反復発作性運動失調症(episodic ataxia: EA) の遺伝子検査を検討する。EA は常染色体優性遺伝の遺伝形式をとる channelopathy で、多くの場合は 20歳未満で発症する。上記の症状以外にも片頭痛、てんかん、ジストニアの発作を認めることがある。EA のうち、KCNA1 または CACNA1A の変異によるものは、特に発症から時間が経つと進行性の運動失調を認めるため、SCA との鑑別が問題になる。


3. 病態生理

SCA 8, 10, 12, 31, 36, 37 は non-coding repeat expansion を認める。この non-coding repeat が転写されると、非常に長い RNA となり転写因子と結合して核内に蓄積する。その結果、遺伝子転写が阻害される。

次世代シークエンシング解析(next-generation sequencing: NGS) が臨床応用されてから、次々と新しい遺伝子変異が見つかっている。診断率も従来のターゲットリシークエンシングパネルでは 17% であるのに対し、エクソン解析では 36%である。

遺伝子変異の発見によって、SCA の病態生理の理解も進んだ。SCA の病態生理は一様ではなく、機能獲得性 toxic RNA、ミトコンドリアの機能異常、イオンチャネルの異常 (channelopaty) 、オートファジーと転写制御の異常があることが分かった。

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6373366/