内分泌代謝内科 備忘録

内分泌代謝内科臨床に関する論文のまとめ

2022/01/04

2022-01-04 21:45:56 | 日記
3. SGLT-2阻害薬

1.基本事項

・SGLT-2 阻害薬は近位尿細管に発現する sodium glucose cotransporter 2 (SGLT2)
の活性を阻害し、尿糖の排泄閾値を低下させる。

・アメリカ糖尿病学会の Standards Medical Care in Diabetes 2020 では、動脈硬化性心血管疾患の既往があるまたはリスクが高い患者,腎症または心不全を合併している2型糖尿病患者では、SGLT-2阻害薬とGLP-1受容体作動薬はメトホルミンに次ぐ第2選択薬として推奨されている。

・SGLT-2 阻害薬推奨の根拠となっている臨床試験は、EMPA-REG OUTCOME (2015年 エンパグリフロジン)、CANVAS program(2017年 カナグリフロジン)、CREDENCE (2019年 カナグリフロジン)、DAPA-HF (2019年 ダパグリフロジン)である。

・EMPA-REG OUTCOMEでは、虚血性心疾患の既往がある2型糖尿病患者を対象として標準治療にエンパグリフロジンまたはプラセボを追加し、中央値3.1年の観察期間で心血管イベントの発生頻度を比較した。その結果、エンパグリフロジン群ではプラセボと比較して、心血管複合エンドポイント(心血管死+心筋梗塞+脳卒中)が有意に低下した(HR 0.86, 95%CI 0.74-0.99)。さらにエンパグリフロジン群では心血管死が有意に低く(HR 0.62, 95%CI 0.49-0.77)、全死亡が有意に低かった(HR 0.68, 95%CI 0.50-0.82)(NEJM 2015; 373: 2117-2128)。

・本試験の後に上梓されたカナグリフロジン(カナグルⓇ)についても、心血管イベントの高リスク症例で心血管イベントの抑制効果が示された(CANVAS program :CANVAS とCANVAS-Rの結果を統合)。また、探索的解析で腎アウトカムの改善も示唆された(NEJM 2017; 377: 644-657)。

・この結果を受けて、カナグリフロジンの腎アウトカムに及ぼす影響を評価する目的で計画された臨床試験が CREDENCEである。腎症3期の2型糖尿病患者を対象として ACEI または ARB に追加してカナグリフロジンまたはプラセボを投与し、中央値 2.62年の観察期間で腎イベントの発生頻度を比較した。その結果、カナグリフロジン群ではプラセボと比較して、複合腎アウトカム(末期腎不全、血清クレアチニン値の倍増、または腎疾患による死亡)が有意に低下した(HR 0.66, 95%CI 0.53-0.81)。さらにカナグリフロジン群では末期腎不全が有意に低かった(HR 0.68, 95%CI 0.54-0.86)(NEJM 2019; 380: 2295-2306)。

・EMPA-REG OUTCOME, CANVAS Program
では,心血管イベント(心不全入院および心血管死)の抑制効果が示された。糖尿病の有無を問わない心不全患者の心血管イベントの抑制効果を検討するために計画された臨床試験が DAPA-HF である。HFrEF 患者を対象として心不全の標準治療にダパグリフロジンまたはプラセボを追加し、中央値 1.52年の観察期間で心不全の悪化または心血管死の複合の発生頻度を比較した。その結果、ダパグリフロジン群ではプラセボと比較して、心不全の悪化または心血管死の複合が有意に低下した(HR 0.74, 95%CI 0.65-0.85)。リスク減少は2型糖尿病の合併の有無にかかわらず認められた(NEJM 2019; 381: 1995-2008)

・体重減少効果はメトホルミンより優れる(Ann Intern Med. 2017; 166: 279-290)。

・SGLT2阻害薬は性器真菌感染症を増加させる(Ann Intern Med. 2017; 166: 279-290)。

・頻度は多くはない(0.2%/年)が,高血糖をともなわない糖尿病ケトアシドーシスを起こすことがある(Ann Intern Med 2020;
173: 417-425).SGLT-2阻害薬を服用している糖尿病患者が嘔吐,腹痛などを主訴に受診された際には血液ガスを確認すると良い.

・薬価は高い(ジャディアンスⓇ 10mg 198.7円/錠、カナグルⓇ 100mg 190.5円/錠)。

・2021年2月現在、イプラグリフロジン(スーグラⓇ)とダパグリフロジン(フォシーガⓇ)は1型糖尿病に対しても適応がある

・2021年2月現在、ダパグリフロジン(フォシーガⓇ)は左室駆出率が低下した心不全に対しても適応がある。