内分泌代謝内科 備忘録

内分泌代謝内科臨床に関する論文のまとめ

2022/01/04

2022-01-04 21:50:11 | 日記
4.GLP-1 受容体作動薬

1. 基本的事項

・小腸内に食物が流入すると、血中にインクレチン(GLP-1, GIP)が分泌される。GLP-1, GIPは膵 β 細胞に発現するそれぞれの受容体に結合し、cAMP 上昇を介してインスリン分泌顆粒の開口放出を増幅させる。

・インクレチンは血中に存在するdipeptidyl peptidase-4 (DPP-4) によってすみやかに不活性化される。DPP-4は、インクレチンのN末端2アミノ酸残基(dipeptide)を切断することによりインクレチンを不活性化する。

・GLP-1受容体作動薬は、天然型 GLP-1 をもとにアミノ酸置換やアシル酸付加によって
DPP-4による不活性化を受けにくくしたペプチド製剤(エキセナチドはアメリカドクトカゲの唾液腺から単離した天然型ペプチド)。

・ペプチド製剤なので、基本的にはインスリンと同様に皮下注射で投与する。リラグルチド(ビクトーザⓇ)は1日1回投与。デュラグルチド(トルリシティⓇ)、セマグルチド(オゼンピックⓇ)は週1回投与。

・2021/2 から経口 GLP-1 受容体作動薬であるリベルサス®(セマグルチド)が国内で発売されている。起床時に服用し,服用後30分は飲食できない。

・アメリカ糖尿病学会の Standards Medical Care in Diabetes 2020 では、心血管疾患の既往があるまたはリスクが高い患者,腎症または心不全を合併している2型糖尿病患者では、SGLT-2阻害薬とGLP-1受容体アナログはメトホルミンに次ぐ第2選択薬として推奨されている。

・GLP-1受容体作動薬推奨の根拠となっている臨床試験は、LEADER (2016年、リラグルチド)、SUSTAIN-6(2016年、セマグルチド)、REWIND (2019年、デュラグルチド)である。

・LEADER試験では、心血管疾患のリスクが高い2型糖尿病患者を対象としてリラグルチドまたはプラセボを標準治療に追加した場合の心血管イベントの発生頻度を比較した。中央値3.8年の観察期間で、リラグルチドはプラセボと比較して、心血管イベント(心血管死+非致死性心筋梗塞+非致死性脳梗塞)(HR 0.87, 95%CI 0.78-0.97)、心血管死(HR 0.78, 95%CI 0.66-0.93)、全死亡(HR 0.85 , 95%CI 0.74-0.97)を有意に低下させることを示した(NEJM 2016; 375: 311-322)。

・SUSTAIN-6 試験では、心血管疾患のリスクが高い2型糖尿病患者を対象としてセマグルチドまたはプラセボを標準治療に追加した場合の心血管イベントの発生頻度を比較した。中央値2.1年の観察期間で、セマグルチドはプラセボと比較して、心血管イベント(心血管死+非致死性心筋梗塞+非致死性脳梗塞)(HR 0.74, 95%CI 0.58-0.95)を有意に低下させることを示した。死亡率は両群間で差がなかった。腎症はセマグルチド群で低下し(HR 0.64, 95%CI 0.45-0.88)、網膜症は悪化した(HR 1.76, 95%CI 1.11-2.78)(NEJM 2016; 375: 1834-1844)。

・REWIND試験では、心血管疾患のリスクが高い2型糖尿病患者を対象としてデュラグルチドまたはプラセボを標準治療に追加した場合の心血管イベントの発生頻度を比較した。中央値5.4年の観察期間で、デュラグルチドはプラセボと比較して、心血管イベント(心血管死+非致死性心筋梗塞(無症候性含む)+非致死性脳梗塞)(HR 0.88, 95%CI 0.79-0.99)を有意に低下させることを示した。死亡率は両群間で差がなかった。腎アウトカム(特にアルブミン尿)はデュラグルチド群で低下した(HR 0.85, 95%CI 0.77-0.93)(LANCET 2019; 394: 121-130)。

・国内の臨床試験では、リラグルチド(0.9 mg)はHbA1c -1.74%(6カ月後)と強力な血糖降下作用を示した。

・単独では低血糖起こしにくく、体重を増やさない(欧米の臨床試験では体重減少作用が示されている)。

・胃排泄の抑制作用もあり、比較的多い副作用として消化器症状がある。

・薬価は非常に高い(512円/日(ビクトーザⓇ, トルリシティⓇ )+ 自己注射管理料)。