サルファメトキサゾール/トリメトプリムによる肝不全の症例報告
Cases J 2008; 1: 44
背景
サルファメトキサゾール/トリメトプリム(sulfamethoxazole/trimethoprim: SMX/TMP) は好気性のグラム陽性球菌またはグラム陰性桿菌による呼吸器、消化管、尿路感染症に使用される抗菌薬である。SMX/TMP は Listeria monocytogenes や Nocardia、Pneumocystis jirovecii にも感受性がある。
SMX/TMP の副反応の頻度は HIV 非感染者では 6-8%であるのに対し、HIV 感染者では 25-50%にもなる。さらに、HIV 感染者で起こる SMX/TMP の副反応は重度のものが多い。
SMX/TMP の頻度が高い副反応としては、嘔気·嘔吐、食思不振、掻痒などの皮膚症状がある。稀にスティーブン·ジョンソン症候群を起こすことがある。命に関わる副反応としては白血球減少、剥脱性皮膚炎 (exfoliative dermatitis) 、中毒性表皮壊死症がある。サルファ薬による急性肝不全は世界で数例しか報告がない。
2. 症例
既往症のない 22歳女性が嘔気·嘔吐、全身倦怠感を主訴に受診した。患者は尿路感染症に対して SMX/TMP を処方されており、服用2日目から上記症状を自覚していた。服用6日目に家族が眼球結膜の黄染に気づき、受診を勧めた。入院時より SMX/TMP 服用は中止した。身体診察では黄疸を認めた。肝性脳症や肝腫大は認めなかった。
入院時の血液検査では、AST 3077 U/L、ALT 4067 U/L、ALP 128 U/L、総ビリルビン 5.1mg/dL、PT-INR 1.8、アルブミン 3.6 g/dL だった。入院後は肝酵素は低下傾向だったが、ビリルビンは最大で 24.4 mg/dL (直接ビリルビン 17.5 mg/dL) まで上昇した。PT-INR は最大で 2.16 まで延長した。超音波では肝臓腫大なく、胆道に閉塞はなく、血流にも異常はなかった。HAV, HBV, HCV, HIV,HSV, EBV は陰性で、自己免疫性肝炎なども否定的だった。甲状腺機能にも異常はなく、血清の銅やセルロプラスミンも基準範囲内だった。血中にアセトアミノフェンは検出されなかった。
SMX/TMP 投与直後に黄疸が出現していることと他に肝障害の原因を認めないことから、SMX/TMP による肝不全だと診断した。SMX/TMP 中止後、肝機能は自然に改善し、2か月後には凝固系を含む肝機能は正常化した。
3. 議論
SMX/TMP による肝障害は主にサルファメトキサゾールが原因である。トリメトプリム単独でも単純性尿路感染症の治療はできるが、なぜか米国ではサルファメトキサゾールとの合剤を使用することになっている。
SMX/TMP による肝障害は 1. 肝細胞障害型と、2. 肝細胞障害型と胆汁うっ滞型との混合、3. 胆管障害型 (胆管減少症: ductopenia, 胆管消失症候群: vanishing bile duct syndrome) の 3つの病型がある。発症までの期間は投与開始後数日が多いが、1-2ヶ月経ってから出現することもある。患者はたいてい、黄疸、嘔気·嘔吐、掻痒 (胆汁うっ滞型の場合) を訴える。皮疹や好酸球血症を認めることもある。肝障害以外に汎血球減少、膵炎、急性腎不全を認めることがある。
診断は臨床経過と他の肝障害の原因が否定されることによる。肝生検の所見も参考になる。リンパ球幼若化試験なども診断の一助になるとされる。
SMX/TMP による肝障害の重症度は軽症で肝酵素上昇のみを認める場合から、肝性脳症や凝固系の異常をともなう肝不全までと幅広い。
経過については、自然に軽快する場合もあるし、死亡する場合もある (HIV 感染者、非感染者のそれぞれに報告例あり) 。
治療は通常は支持療法だが、劇症肝炎や胆管消失症候群に至った場合は肝移植が行われることもある。
胆管消失症候群
http://medical.radionikkei.jp/suzuken/final/031204html/index.html
元論文
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2490670/