内分泌代謝内科 備忘録

内分泌代謝内科臨床に関する論文のまとめ

2022/04/21

2022-04-21 22:30:51 | 日記
サルファメトキサゾール/トリメトプリルによる血液学的異常
J Intern Med 1990; 228: 353-360

スウェーデンでは 1976-1985年の 10年間にサルファメトキサゾール/トリメトプリムに関連する血液学的異常については154例の報告があった。外来患者における 18000回の処方に 1回の頻度で起こる計算である。

全体の死亡率は 17% (軽度の白血球減少で 2%、汎血球減少で 52%) と高い。

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/2266345/

2022/04/21

2022-04-21 22:18:11 | 日記
サルファメトキサゾール/トリメトプリムによる肝不全の症例報告
Cases J 2008; 1: 44

背景
サルファメトキサゾール/トリメトプリム(sulfamethoxazole/trimethoprim: SMX/TMP) は好気性のグラム陽性球菌またはグラム陰性桿菌による呼吸器、消化管、尿路感染症に使用される抗菌薬である。SMX/TMP は Listeria monocytogenes や Nocardia、Pneumocystis jirovecii にも感受性がある。

SMX/TMP の副反応の頻度は HIV 非感染者では 6-8%であるのに対し、HIV 感染者では 25-50%にもなる。さらに、HIV 感染者で起こる SMX/TMP の副反応は重度のものが多い。

SMX/TMP の頻度が高い副反応としては、嘔気·嘔吐、食思不振、掻痒などの皮膚症状がある。稀にスティーブン·ジョンソン症候群を起こすことがある。命に関わる副反応としては白血球減少、剥脱性皮膚炎 (exfoliative dermatitis) 、中毒性表皮壊死症がある。サルファ薬による急性肝不全は世界で数例しか報告がない。

2. 症例

既往症のない 22歳女性が嘔気·嘔吐、全身倦怠感を主訴に受診した。患者は尿路感染症に対して SMX/TMP を処方されており、服用2日目から上記症状を自覚していた。服用6日目に家族が眼球結膜の黄染に気づき、受診を勧めた。入院時より SMX/TMP 服用は中止した。身体診察では黄疸を認めた。肝性脳症や肝腫大は認めなかった。

入院時の血液検査では、AST 3077 U/L、ALT 4067 U/L、ALP 128 U/L、総ビリルビン 5.1mg/dL、PT-INR 1.8、アルブミン 3.6 g/dL だった。入院後は肝酵素は低下傾向だったが、ビリルビンは最大で 24.4 mg/dL (直接ビリルビン 17.5 mg/dL) まで上昇した。PT-INR は最大で 2.16 まで延長した。超音波では肝臓腫大なく、胆道に閉塞はなく、血流にも異常はなかった。HAV, HBV, HCV, HIV,HSV, EBV は陰性で、自己免疫性肝炎なども否定的だった。甲状腺機能にも異常はなく、血清の銅やセルロプラスミンも基準範囲内だった。血中にアセトアミノフェンは検出されなかった。

SMX/TMP 投与直後に黄疸が出現していることと他に肝障害の原因を認めないことから、SMX/TMP による肝不全だと診断した。SMX/TMP 中止後、肝機能は自然に改善し、2か月後には凝固系を含む肝機能は正常化した。

3. 議論

SMX/TMP による肝障害は主にサルファメトキサゾールが原因である。トリメトプリム単独でも単純性尿路感染症の治療はできるが、なぜか米国ではサルファメトキサゾールとの合剤を使用することになっている。

SMX/TMP による肝障害は 1. 肝細胞障害型と、2. 肝細胞障害型と胆汁うっ滞型との混合、3. 胆管障害型 (胆管減少症: ductopenia, 胆管消失症候群: vanishing bile duct syndrome) の 3つの病型がある。発症までの期間は投与開始後数日が多いが、1-2ヶ月経ってから出現することもある。患者はたいてい、黄疸、嘔気·嘔吐、掻痒 (胆汁うっ滞型の場合) を訴える。皮疹や好酸球血症を認めることもある。肝障害以外に汎血球減少、膵炎、急性腎不全を認めることがある。

診断は臨床経過と他の肝障害の原因が否定されることによる。肝生検の所見も参考になる。リンパ球幼若化試験なども診断の一助になるとされる。

SMX/TMP による肝障害の重症度は軽症で肝酵素上昇のみを認める場合から、肝性脳症や凝固系の異常をともなう肝不全までと幅広い。

経過については、自然に軽快する場合もあるし、死亡する場合もある (HIV 感染者、非感染者のそれぞれに報告例あり) 。

治療は通常は支持療法だが、劇症肝炎や胆管消失症候群に至った場合は肝移植が行われることもある。

胆管消失症候群
http://medical.radionikkei.jp/suzuken/final/031204html/index.html

元論文
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2490670/

2022/04/20

2022-04-20 23:11:36 | 日記
サルファメトキサゾール/トリメトプリムに関連する有害事象についての総説
CMAJ 2011; 183: 1851-1858

サルファメトキサゾール/トリメトプリルは稀に薬剤性過敏症症候群 (drug hypersensitivity syndrome) を引き起こす。薬剤性過敏症症候群の古典的三徴は発熱、皮疹、臓器障害である。臓器障害としては、血液学的な異常 (リンパ球減少またはリンパ球増多が多い、時に好酸球血症も認める) 、肝障害 (胆汁うっ滞型または肝細胞障害型、劇症肝炎に進行することもある)、腎障害 (間質性腎炎など)、スティーブン·ジョンソン症候群/中毒性表皮壊死症がある。

以前にサルファメトキサゾール/トリメトプリムを処方されたことがない場合は、薬剤性過敏性症候群は投与開始から 4-5日以上経ってから発症することが多く、数週間後に発症することもある。

発熱があると、感染症がコントロールできていないと勘違いされてサルファメトキサゾール/トリメトプリムの中止が遅れることがある。

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3216436/#!po=65.6863

2022/04/12

2022-04-12 19:47:44 | 日記
慢性腎臓病におけるインスリン抵抗性についての総説
Am J Physiol Renal Physiol 2016.

インスリン抵抗性は慢性腎臓病の初期から認める代謝異常で腎機能が低下し始める前から出現し、終末期腎不全に至る頃にはほとんど全ての患者で認める。

インスリン抵抗性の評価には空腹時のインスリン測定が簡便だが、腎機能が低下すると腎におけるインスリンクリアランスが低下するため評価が難しい。正常血糖グルコースクランプはインスリン抵抗性の評価のゴールドスタンダードであり、筋肉のインスリン抵抗性も評価できる。

慢性腎臓病においては主に骨格筋のインスリン抵抗性が亢進し、インスリン受容体以外の要素が関係していると考えられている。

原因はひとつではなく、活動性の低下、慢性炎症、酸化ストレス、ビタミンD 欠乏、代謝性アシドーシス、貧血、アディポカインの異常、腸内細菌叢の変化などが関与すると考えられている。

インスリン抵抗性は慢性腎臓病の増悪因子でもあり、交感神経系の亢進やナトリウム貯留、ナトリウム利尿ペプチド系の抑制などのメカニズムを介して腎血流を低下させると考えられている。

インスリン抵抗性はまた、心室肥大、血管の機能障害、動脈硬化などのメカニズムを介して慢性腎臓病と心血管疾患とを結びつけている。しかし、インスリン抵抗性が慢性腎臓病における心血管疾患や死亡のリスクを予測する独立したリスク因子であるかどうかはまだ分かっていない。

インスリン抵抗性は介入可能な因子であり、インスリン抵抗性を解除することによって慢性腎臓病における心血管疾患のリスクを低下させることが可能なのではないかと期待されている。慢性腎臓病におけるインスリン抵抗性の病態生理が明らかになれば、新しい治療標的になるかもしれない。

https://journals.physiology.org/doi/full/10.1152/ajprenal.00340.2016?rfr_dat=cr_pub++0pubmed&url_ver=Z39.88-2003&rfr_id=ori%3Arid%3Acrossref.org

2022/04/06

2022-04-06 21:33:18 | 日記
気腫性膀胱炎の総説
Intern Med 2014; 53: 79-82

気腫性膀胱炎 (emphysematous cystitis: EC) は稀な尿路感染症で、膀胱壁と膀胱内にガスを認めるのが特徴である。無症状のこともあるし、敗血症となっていることもある。EC はふつうコントロール不良の高齢糖尿病患者に見られる。尿培養からはしばしば大腸菌と肺炎桿菌が分離される。EC の診断には腹部 X線写真や CT などの画像検査が必要である。ほとんどの症例は抗菌薬治療と、膀胱内のドレナージ、血糖コントロールで治療できる。EC の死亡率は 7%である。早期に診断、治療することが予後を改善し、外科的治療を回避することにつながる。

1. 疫学

EC の死亡率は 3-12% と報告されている。気腫性腎盂腎炎 (emphysematous pyelonephritis: EP) を合併した場合は死亡率は 14-20%に上昇する。EC は高齢 (60-70歳) の糖尿病患者に多く、男女比 1:2で女性に多い。EC の危険因子は一般の尿路感染症と同様で、糖尿病、神経因性膀胱、尿路感染症の既往、膀胱下尿道閉塞 (bladder outlet obstruction: BOO) が挙げられる。これらの危険因子の中で最大のものは糖尿病である。EC の患者の 70%が糖尿病を合併している。EC 患者の血糖コントロールは不良であることが多く、血糖値の平均は 293 mg/dL、HbA1c の平均は 9.9% である。

2. 起炎菌

EC 患者の尿培養から分離される細菌で多いのは大腸菌 (60%) と肺炎桿菌 (10-20%) である。これらはブドウ糖や乳酸を発酵させ、さまざまなガス(窒素、水素、酸素、二酸化炭素) を産生する。他に起炎菌として報告されているのは、Enterobacter aerogenes, Proteus mirabilis, Streptococcus 属 である。

Pseudomomas aeruginosa, Candida albicans, Clostridium perfringens, Enterococcus faecalis, Staphylococcus aureus, Clostridium welchii, Candida tropicalis, Aspergillus dumigatus も分離されるが、稀である。腸球菌 (Enterococcus 属) などの非ガス産生菌は起炎菌というより、混合感染の可能性が高い。

3. 臨床所見

EC の臨床所見はさまざまで、無症状の場合から敗血症に陥っている場合まである。最も多い症状は腹痛で 80% の患者で認める。肉眼的血尿も多く、60%で認める。尿閉 (ischuria) は 10%で認める。

発熱は腎盂腎炎の合併を疑わせるが、30-50%の患者では腎盂腎炎を合併していなくても発熱する。気尿 (pneumaturia) は特異的ではあるが、気尿を訴えることは稀である。尿道カテーテルを挿入している場合は 70%で気尿を認める。膀胱炎の症状 (排尿困難、頻尿、尿意切迫) は 50%で認める。しかし、これらの所見は非特異的であり、あっても軽度である。

以上のように、EC を強く疑わせる臨床所見はない。さらに最大 7%の患者では無症状である。無症状の患者は画像検査で偶発的に発見される。

4. 診断

EC の診断には画像検査が不可欠であり、腹部 X 線写真または CT で膀胱壁内および膀胱内にガスを認める (リンク参照)。

5. 治療

多くの場合、入院で加療される。だいたい 90%の症例では内科的治療のみで加療され、10%の症例では外科的治療が行われる。内科的治療は抗菌薬投与と膀胱内のドレナージ、血糖コントロールなど基礎疾患の管理からなる。抗菌薬の選択については知見は限られるが、ふつうの複雑性尿路感染症と同様に考えて良さそうである。尿のグラム染色は抗菌薬選択に有用である。グラム陰性桿菌を認めれば、初期治療として、フルオロキノロン、セフトリアキソン、カルバペネム、またはアミノグリコシドの静脈注射は選択肢になるだろう。一方、グラム陽性球菌を認める場合は腸球菌をカバーするためにアンピシリンやアモキシシリンを選択すべきである。抗菌薬は培養結果を基に最適化されるべきである。臨床的に安定したら、抗菌薬を静脈注射から経口投与に切り替えて良い。

膀胱のドレナージについては、早期のフォーリーカテーテル留置が膀胱の負荷を軽減できるだろう。また、尿道カテーテルを留置することで、尿の観察 (尿量および性状) が容易になる。

血糖コントロールはインスリン注射(場合によっては静脈注射) で行うと良い。

EP を合併する場合は早期に経皮的腎ドレナージを行えば、手術を回避することができるかもしれない。初期治療に反応しない、あるいは重度の壊死性感染症の場合は手術が必要になる。重症度によって、デブリドマン、膀胱部分切除、膀胱全摘出、腎摘出が選択される。

6. 予後

EC の全死亡率はおよそ 7%である。EC に EP が合併した場合は死亡率は 14-20%になる。診断が遅れると膀胱破裂することもある。

気腫性膀胱炎の腹部 X 線写真および CT 所見
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMicm1509543

元論文
https://www.jstage.jst.go.jp/article/internalmedicine/53/2/53_53.1121/_article