プロ野球チームの優勝や、フェスティバル、NHK大河ドラマなど様々なイベントや事象にあたって、「経済効果が〇億円」という報道がたびたびされる。
私はこの数字や報道を懐疑的に捉えているが、ひとまず一通りどのような算出がなされるかを、素人なりに理解しておこう。
経済効果
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%B5%8C%E6%B8%88%E5%8A%B9%E6%9E%9C
経済効果とは、流行などの社会現象が、国全体または地域の任意の産業に及ぼす、主に利益的な影響のこと。特定の業種または地域が特定の期間に得る (または、得た) と推測される利益の合計額によって表される。
産業間の波及効果、二次的・三次的な効果も含むことを明示的に表すために経済波及効果 (けいざいはきゅうこうか) と呼ばれることもある。
多くの場合、産業連関表を用いて算出され、公共事業や投資の費用対効果の計算に用いられる。
つまり以下のように新規に需要が創出されれば、産業全体でプラスの効果が波及し、それを合計したものとざっくり捉えることができる
(出典) 大阪府 大阪府産業連関表利活用事例集 経済波及効果を計ってみよう
https://www.pref.osaka.lg.jp/o040090/toukei/sanren/sanren_p01.html
ここで出てくる「産業連関表」は、ノーベル賞経済学賞を受賞したアメリカのワシリー・レオンチェフが考案したもので、財・サービスといった産業ごとの生産構造 (どの産業からどれだけ原料等を入手し、賃金等を払っているか)、販売構造 (どの産業に向けて製品を販売しているか) をみることがでる。
日本では総務省が中心となり各省庁共同で5年ごとに作成されており、以下でExcelの簡易計算ツールが公開されている。
総務省|産業連関表|経済波及効果を計算してみましょう
https://www.soumu.go.jp/toukei_toukatsu/data/io/hakyu.htm
このExcelで各部門での新規需要額を入力すると波及効果が計算できる。
試しに各々に1 (=10億円) を入力したところ、最も波及効果が大きいのは 「事務用品 2.51」 「鉄鋼 2.26」 「輸送機械 2.21」 で、小さいのは 「鉱業 0.06」 「繊維 0.57」 などだ。 事務用品は世の中全体で新規需要が約3.5倍に効果が増す、というのはちょっと意外だが、「パルプ・紙・木製品」「商業」などに効果が波及するようだ。
では実際にイベントがあった際にどのような経済効果があると計算されるか、新潟県にホームページに 「市民マラソンイベント開催における経済波及効果の分析」 の例が掲載されているので見てみよう。 (平成 23 年新潟県産業連関表に基づいている)
https://www.pref.niigata.lg.jp/uploaded/life/268015_388016_misc.pdf
活用例 経済波及効果分析の中で最も一般的なイベント開催の事例について、「分析ツール (観光消費型)」を使った分析方法を紹介する。
1 必要なデータ
(1) イベント参加者の観光消費額
今回のイベント参加者の観光消費額を設定し、収集できるデータの内容によって、以下の3つのパターンのいずれかを選択。
① 来場者数を把握している場合 ②消費支出額を把握している場合 ③費目別の消費支出額を把握している場合
⇒今回は最も簡単な①を選択。イベント参加者を宿泊者、日帰り者に分ける。
例:ランナー 12,000人 (内訳 宿泊1,200人、日帰り10,800人) 観客 6,000 人 (内訳 日帰り6,000人)
(2)イベント運営費
イベントの運営費を費目ごとに産業連関表の部門分類 (37 部門) に仕分ける。
例:印刷製本費 (ポスター・パンフレット) ⇒ その他の製造工業製品 道路輸送費 (シャトルバス運行) ⇒ 運輸・郵便 飲食料品費 (飲料水、補給食) ⇒ 飲食料品 等
この例では新規需要額として、運輸・郵便 109百万円、対事業所サービス 102百万円、対個人サービス 71百万円など計417百万円を入力している。
そのうち県内需要額が300百万円と計算され、これが 「直接効果」 となる。そして新潟県産業連関表によって、「1次間接波及効果」 「2次間接波及効果」 と併せて新潟県内の総合効果は466百万円となった。
この例は毎年開催されている「新潟シティマラソン」の実際の参加人数と近く、イベント運営費 (=新規需要額) も実績に基づいた例と思われる。
このように見てみると、経済効果の算出において産業連関表関連は自動的に計算されるので、結局新規需要額をどのように見積もるかによるようだ。ここに分析者の恣意的な要素を完全に排除することは難しいだろう。
そのあたりを含めた経済効果の懐疑論が以下のように纏められている。
経済効果 懐疑論
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%B5%8C%E6%B8%88%E5%8A%B9%E6%9E%9C#%E6%87%90%E7%96%91%E8%AB%96
- 分析によっては前提条件が異なる場合があり、同じイベントの経済効果の推定でも異なる結果が公表されることがある。
- 国や自治体が「公共事業を実施したい」という意図がある場合、大きな経済効果を算出して公共事業を正当化しようというインセンティブがはたらく。その結果、過大な経済効果が導き出される可能性がある。
- マスコミは試算結果のみ報道し、計算の基になったデータや計算プロセスには関心がない。大きな経済効果はセンセーショナルに報道され、その数値が正確かどうかについて検証しない。その結果、分析結果についての社会的信用を失う恐れがある。
- レオンチェフ型生産関数を基にしており、本来あるべきはずの規模の経済が考慮されていない。
- 資本と労働の代替がないため、マイナスのショックによる失業が過大に推定される傾向にある。
- 中間財投入率が高いとシステマチックに経済効果が高くなり、逆に付加価値率が高いと経済効果が低くなる。
上記に加えて、例えばオリンピックにおけるスタジアムや万博における会場の建設費は当然 「直接効果」 の大きな要素であり大きな波及効果が生じるのだが、最近の事例ではそのスタジアムや会場が過剰なものであるという批判が大きく、一方で過剰であればあるほど経済効果が大きくなるという点も、経済効果が感覚的に合わない大きな要因だろう。
新規需要額をどのように見積もるかについては、さすがに詳細を調べることができないが、ひとまず経済効果の考え方や算出方法、そして懐疑点をざっくり理解して日々の報道に接するようにしよう。