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多くの日本人にとって英語の習得は頭の痛い問題であろう。
英語がネックで自分の表現が制限されてしまうケースが数多くある。多くの時間をかけて英語を勉強してきたのに。
そもそも英語は言語なのだから、我々の日本語同様にネイティヴスピーカーは特に労せずに英語を使っているわけで、不公平感が甚だしい。
日本人が英語の勉強に費やす時間と費用を他にまわすことができれば、日本の生産性や経済力はもっと上がっていたのではないか。
と常々思う。

この問題について、2000年初めに当時の小渕総理大臣が施政方針演説で、「21世紀を担う日本人はすべて英語を自在に使えるようにすべきである」 という旨の発言をし、同総理の私的諮問機関である 「21世紀日本の構想」懇談会は「英語の第二公用語化」を提言し、国民的議論の必要性を訴えた。
しかしこの議論が盛り上がることはなく、具体的な検討が進められることもなかった。
2001年の飯塚成彦氏の「英語の第二公用語化は可能か」 (白鷗大学論集) という論文に詳しく取り上げられている。

英語を日本の公用語とするチャンスがあったとすれば、誰もが考えるとおり、それは終戦直後のGHQ統治下での強要であったろう。
実際にそのような計画は進められた。

漢字廃止論 戦後初期
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%BC%A2%E5%AD%97%E5%BB%83%E6%AD%A2%E8%AB%96#%E6%88%A6%E5%BE%8C%E5%88%9D%E6%9C%9F

太平洋戦争終結後、1948年に「日本語は漢字が多いために覚えるのが難しく、識字率が上がりにくいために民主化を遅らせている」という偏見から、GHQのジョン・ペルゼルによる発案で、日本語をローマ字表記にする計画が起こされた。同年3月、連合国軍最高司令官総司令部に招かれた第一次アメリカ教育使節団が3月31日に第一次アメリカ教育使節団報告書を提出し、学校教育の漢字の弊害とローマ字の利便性を指摘した。正確な識字率調査のため民間情報教育局は国字ローマ字論者の言語学者である柴田武に全国的な調査を指示、1948年8月、文部省教育研修所(現・国立教育政策研究所)により、15歳から64歳までの約1万7千人の老若男女を対象とした日本初の全国調査 「日本人の読み書き能力調査」 が実施されたが、その結果は漢字の読み書きができない者は2.1%にとどまり、日本人の識字率が非常に高いことが証明された。
柴田はテスト後にペルゼルに呼び出され、「識字率が低い結果でないと困る」 と遠回しに言われたが、柴田は 「結果は曲げられない」 と突っぱね、日本語のローマ字化は撤回された。
しかし、後に問題を作成した国語学者たちは、実は平均点が上がるよう、難しく見えるが易しい問題を出したとも語っている。

柴田武は、日本語の表記に使用する文字をローマ字 (ラテン文字) にすべきだという国字ローマ字論者であり、この計画がローマ字表記化を目論んでいたことは想像できる。
尚、上記の 「平均点が上がるよう、難しく見えるが易しい問題を出した」 という点は以下に記載がある。

PRESIDENT Online 日本人から漢字を取り上げ、ローマ字だけにする」戦勝国アメリカが実行するはずだった"おそろしい計画" 日本人の識字率の高さが、日本語を救った
https://president.jp/articles/-/64646?page=4

1万7000人が対象で、90点満点で平均点は78.3点だった。たとえ問いに対する答えは誤っていても、識字率そのものはほぼ100%に近かったのである。
この結果は、GHQのローマ字論者を黙らせるに十分であった。平均点が50点以下なら、ローマ字社会になっていたかもしれないと語りぐさになっている。
これは裏話になるが、問題を作成した国語学者たちは「実は平均点が上がるよう、難しく見えるが易しい問題を出した」とこっそり漏らしていた。

これが良かったのか悪かったのかはわからないが、史実として日本語のローマ字表記への移行はなされなかった。この計画が実際に採用されていたら、次段階として英語の公用語化の話が進んでいた可能性は大いにある。

海外に目を向けると、一般的に、母国語でなく英語を公用語に制定している国はかつての英米の統治を経験している国が多く、また多言語国家であったり、教育環境の関係で中高等教育では教授言語が英語となる、などの事情がある。
日本の英語公用語化は現実問題としては難しいようだ。

ちなみに、国立国語研究所のチームが2022年に、1948年の 「日本人の読み書き能力調査」を現代に合わせて表現や語彙を修正して、岡山県の自主夜間中学校でテスト (参加者は10~80代の生徒28人とスタッフ15人) を行った。結果は生徒の平均点は79.3点でスタッフは87.9点だったそうだ。問題のサンプルも掲載する。

産経ニュース 日本の識字率、今も高い? 戦後調査から70年、全国実施目指す 国立国語研究所
https://www.sankei.com/article/20220910-LEPJ6RHQJBPRXFVNDEBNI2Y24M/

 

さて、国字ローマ字論は明治時代の初期から唱えられていた。1885年にはローマ字を推進する団体として 「羅馬字会」 (ろーまじかい) が設立された。(なぜ漢字で表記しているのか、とツッコミたくなる)
1910年には、歌人で国語学者の土岐善麿が歌集の 『NAKIWARAI』 を発行するなど、ローマ字による文学作品も発行された。

その後の詳細は割愛するが、その中では「ヘボン式」「訓令式(日本式)」で意見の相違があり、その後いくつかの団体に分かれたり、団結したりしたようだ。1921年から活動していた 「日本ローマ字会」 は、会員の高齢化による減少により2023年3月に解散した。一方で同じくローマ字運動を展開する 「日本のローマ字社」 は活動を続けている。

その 「日本のローマ字社」 のホームページを参照すると、日本語のローマ字化が実現していた世界が少し体験できる。

公益財団法人日本のローマ字社 Kôeki Zaidan Hôzin Nippon-no-Rômazi-Sya
http://www.age.ne.jp/x/nrs/

右側のローマ字表記だけでの読解はかなり厳しい。訓令式なのでさらに違和感がある。まぁ慣れの問題化で、世の中が全てこの表記だったら、ふつうに読み書きをしているだろうが。

結局、どのような経緯があったにせよ、現実に今どのようになっているかを受け止めて、その中で対応していくしかないのだ。

 



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