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知らないことや気になることをいろいろと調べて記録していきます
 




以前このブログで日本建築学会賞とその第1回受賞作品である慶應義塾大学4号館と学生ホールについて調べた。建築物には耐用の寿命があるために、慶應義塾大学4号館と学生ホールは現存しない。
では土木系はどうだろうか。
公益社団法人土木学会の土木学会賞は、学会が創立されて6年目の1920年に「土木賞」として始まった伝統のある表彰制度で、最初の受賞は物部長穂氏の「載荷せる構造物の震動並にその耐震性に就て」という論文であった。

現在の土木学会賞は「功労賞」「技術賞」「環境賞」など多くの賞から構成されている。その中で素人として最も関心が高いのは橋梁・鋼構造工学に関する「田中賞」の作品部門と、周辺環境や地域と一体となった景観の創造や保全を実現した作品を表彰する「デザイン賞」だ。

公益社団法人 土木学会賞 田中賞受賞一覧
https://www.jsce.or.jp/prize/prize_list/7_tanakasakuhin.shtml

田中賞の栄えある第1回(1966年)の受賞作品は、熊本県松島町の「天門橋」と東京都目黒区の「目黒架道橋」だ。

熊本県 天門橋の歴史
https://www.pref.kumamoto.jp/kiji_1942.html
土木ツアーNAVI 目黒架道橋
http://jcca.yin.or.jp/doboku-tour/kanto/127.html

そして田中賞の歴代受賞作品をみていくと、「関門橋」(1973年)、「大鳴門橋」(1985年)、「瀬戸大橋」(1988年)、「横浜ベイブリッジ」(1991年)、「レインボーブリッジ」(1993年)、「東京湾アクアブリッジ」(1997年) など、日本の国土開発の歴史を感じることができる。一方で茨城県のサザンヤードカントリークラブ歩道橋や、兵庫県のローズウッドゴルフクラブのBridge of Rなど私的な橋梁も技術の高さが評価されて受賞している。

また田中賞では、日本企業が携わった海外の橋梁も受賞している。ODAでの支援案件としての橋梁建設はその国の生活・経済にとって極めて有意義なものだ。例えば1983年のマタディ橋 (当時はザイール、現在のコンゴ) は、コンゴの物流の生命線であり、コンゴと日本の友好のシンボルになっている。

外務省 コンゴと日本の友好の架け橋「マタディ橋」
https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/about/hanashi/page23_000521.html



一方でデザイン賞は2001年創設と比較的歴史は浅いが、橋梁に限らず広く土木構造物や公共的な空間が対象であり、通り、広場、ダム、川など多岐にわたる。いずれも受賞作品の写真が美しい。

土木学会デザイン賞 選考結果
http://design-prize.sakura.ne.jp/archives/result

一方で、土木と建築の両分野を包含する国際的な学会であり1929年に設立されたIABSE (International Association for Bridge and Structural Engineering 国際構造工学会) も2000年から「Outstanding Structure Award」を表彰している。過去数年以内に完成した最も驚くべき、革新的、創造的、または刺激的な構造を表彰するものだ。

Outstanding Structure Award
https://en.wikipedia.org/wiki/Outstanding_Structure_Award
IABSE OStrA
https://www.iabse.org/IABSE/association/Award_files/Outstanding_Structure_Award/OStrA.aspx

全世界の土木・建築・両部門からの選出であり、しかも最優秀賞(Winner)は1作品、優秀賞(Finalist)も数作品と極めて難易度が高い。(2009年以前は区別なしで1~3作品)
しかし日本からは、2000年のキーエンス本社ビル、2002年のMiho Museum Bridge、2010年のモード学園スパイラルタワーズ (優秀賞)、2015年のあべのハルカス (優秀賞) と多くの受賞がある。 Miho Museum Bridgeは2001年土木学会デザイン賞の優秀賞とのダブル受賞となる。



そして今年、いよいよ田中賞の受賞作品からIABSE Outstanding Structure Awardの優秀賞が出た。三井住友建設施工の「武庫川橋」だ。

三井住友建設 「武庫川橋」がIABSE(国際構造工学会)の作品賞優秀賞受賞
https://www.smcon.co.jp/topics/2019/09250857/

NEXCO西日本が発注し、三井住友建設株式会社が設計・施工した新名神高速道路 宝塚北SIC~神戸IC間の「武庫川橋(むこがわばし)」が、世界的に優れた構造物に授与されるIABSE(国際構造工学会)の作品賞にあたるOutstanding Structure Awardで優秀賞を受賞しました。武庫川橋は日本の道路橋としては初の受賞となるものです。
武庫川橋は、最大支間長100.0mの5径間連続エクストラドーズドバタフライウェブ箱桁橋です。桁の側面にバタフライウェブというプレキャストパネルを採用するとともに、橋脚部付近が吊り構造となるエクストラドーズド構造を併用しています。バタフライウェブとエクストラドーズド構造とを併用した橋梁は武庫川橋が世界で初めてとなります。
エクストラドーズド構造とし桁高を一定にすることにより、高強度繊維補強コンクリートを用いた工場製のプレキャストパネルであるバタフライウェブを採用し、本橋では従来構造に比べて上部工重量の20%低減を実現しています。さらに、橋脚において、SPER工法と呼ばれるハーフプレキャストで構築する方式を採用するとともに、橋脚の頭部付近もプレキャスト部材で構築しています。これにより、耐久性、維持管理性の向上をはかっています。
また主塔は、鋼板とコンクリートを組合せた小さな定着構造を採用することにより、主塔を中央分離帯という限られたスペースの中におさめています。
これらの取組みが非常にユニークであること、また非常にエレガントな構造になっていることが評価され、受賞の運びとなりました。


しゃかいか! 世界初の工法で作られる橋とトンネル工事を見学
https://www.shakaika.jp/blog/8838/w-nexco_mukogawa/



近いうちに田中賞受賞作品の中からIABSE Outstanding Structure Award最優秀賞作品も出てくることだろう。日本と世界の土木・建築に引き続き注目していきたい。



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