スポーツ選手にとって記録の更新は大きな目標であり、さまざまな競技で新記録が生まれている。
日本の陸上競技では、今年6月にサニブラウン選手が100mで9.97秒を記録するなど進化が目覚ましい。その結果多くの日本記録は21世紀になってから更新されたものとなっている。
しかし、この中でひとつだけ1961年の記録が依然として日本記録として残っている。それは男子(室内) 4x800mリレーの川崎俊二氏、中尾勝美氏、川庄進氏、杉崎隆志氏 (リッカー) による 8:48.6 という記録だ。
日本陸上競技連盟公式サイト 日本記録
https://www.jaaf.or.jp/record/japan/?segment=3
リッカーはかつて存在したミシンメーカーで、スポーツ活動に力を入れており、陸上部は1964年東京オリンピックに10名の選手を送り出した名門だ。
この記録の年月日は「1961年3月19日」、競技会名は「NHK東京国際室内」、場所は「東京」とある。 これは1964年の東京オリンピックに向けた強化目的で行われた「日本室内陸上競技選手権大会」の一部である。
日本室内陸上競技選手権大会
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%97%A5%E6%9C%AC%E5%AE%A4%E5%86%85%E9%99%B8%E4%B8%8A%E7%AB%B6%E6%8A%80%E9%81%B8%E6%89%8B%E6%A8%A9%E5%A4%A7%E4%BC%9A
東京オリンピックに向けた選手強化の一環として、公式にボード・トラックを使用した日本初の室内陸上競技大会である「第1回NHK室内国際大会」が1961年3月18日と19日に、その3日後の22日と23日に「第1回日本室内選手権」が東京都体育館で開催された。(それ以前には、1954年2月7日に岐阜市民センターにおいて国内最初の室内大会が行われた)
NHKが経費を負担し、全米体育協会の設計図をモデルに製作した1周133.33m(3周で400m、直走路60m)のボード・トラックを設置して行われたこの大会には、リビオ・ベルッティ、マレー・ハルバーグ、ドン・ブラッグなどのローマオリンピック金メダリストらを招待した。
1963年の第3回まで行われたが、強化関係者の激しい議論の末、第3回を最後に室内陸上競技は中止され、日本室内選手権も終了となった。中止の理由は、屋外と室内のスパイクの感触の違い、国内のトップ選手はこの時期本調子ではない、室内暖房が不十分、観客が少なくて盛り上がらない、であった。
すなわち、室内4×800mリレーの日本記録は、日本における本当に最初の公式レースで記録されたものということになる。しかも4×800mリレーは第1回~第3回の日本室内選手権でも行われていないので、1回限りの競技であったようだ。
ちなみにこの記事にある東京都体育館は、1956年に完成した初代の東京体育館のことで、1964年の東京オリンピックで体操や水球の会場となったが、1986年に一時閉鎖となり1990年に全面改装された。現在は2020年のオリンピックに向けて改修工事が行われている。
さて、この室内4×800mリレーの日本記録がなぜ破られないかというと、行われていないからである。世界室内陸上競技選手権大会の種目にもないし、日本室内陸上競技大阪大会 (大阪城ホール) でも行われていない。
しかし海外では小規模なな大会で行われることがあるようで、2018年2月にアメリカ・ボストンで行われたBoston University Last Chance Meetで、Hoka One One NJ*NY Track Clubの4名 (Joseph Mcasey、Kyle Merber、Chris Giesting、Jesse Garn) が7:11.30 の世界記録を樹立した。
LetsRun.com -Hoka NJ*NY TC Breaks 4x800 World Record
https://www.letsrun.com/news/2018/02/njny-tc-runs-711-30-break-4x800-world-record-josh-hoey-crushes-800-high-school-national-record-japanese-mile-record/
If you stuck around to watch the final race of the 2018 Boston University Last Chance Meet — and chances are, you did not, because the place was almost deserted — you were lucky enough to witness a very exciting men’s 4×800 relay in which three teams broke the existing world record.
In a tight race, it was Hoka One One NJ*NY Track Club that emerged victorious, clocking 7:11.30 to break the four-year-old record of 7:13.11, set across town at the Reggie Lewis Center. The record-setting team consisted of, in running order, Joe McAsey (1:49.03), Kyle Merber (1:47.11), Chris Giesting (1:47.43), and Jesse Garn (1:47.33). Atlanta Track Club (Brandon Hazouri, Patrick Peterson, Edward Kemboi, and Brandon Lasater) and District Track Club (Blair Henderson, Strymar Livingston, Edose Ibadin, and Matthew Centrowitz) finished second and third in the three-team race in 7:11.84 and 7:12.25, respectively.
HOKA NJNYTC 4x800m World Record 2018 from NJNYTC on Vimeo.
800mの全力疾走はタフだが、200mのショートトラックを4周することで駆け引きが生まれるし、リレーならではの順位の入れ替わりもある。瞬間で終わってしまう4x100mや4x200mとは異なる面白さがある。また室内陸上は風などのコンディションに左右されないし、選手と観客がとても近い。
東京体育館がリニューアルオープンとなった際に、室内トラックを設置して、この種目だけを 「室内4x800mリレー全国大会」 として開催してみてはいかがだろうか。高い確率で約60年ぶりに日本記録が更新されることだろう。