My Encyclopedia
知らないことや気になることをいろいろと調べて記録していきます
 



 

知的財産権の中で、知的創造物に関する権利である「特許権」「実用新案権」「意匠権」「著作権」はいずれもその存続期間が設定されている。一方で営業標識に関する権利である「商標権」は更新を行うことによってその権利が継続される。従って更新を継続すれば半永久的に権利を維持することが可能である。ブランドは永続するものであるから更新による権利の継続は当然である。

日本の商標に関する最初の法規は、1884年6月に公布された商標条例である。
その後1899年に最初の商標法が制定され、これにより商標条例は廃止された。この商標法 (旧法) は、1909年と1921年の2回の全部改正を経て、現行の商標法が1959年に新たに制定されたことに伴い廃止された。

商標法 (旧法) のもとで最初に登録された登録商標は以下の4件であり、いずれも1884年10月1日に出願され、1885年6月2日に登録されたものだ。
全てが図形商標であり見ただけではよくわからないが、第1号となったのは一番右側の京都府の平井祐喜による「膏薬丸薬 (こうやくがんやく)」であった。

同じ1885年の8月14日には日本での最初の特許登録がされている。1889年には最初の意匠権も登録されており、明治維新を機に日本での知的財産権の法整備が進んだことがわかる。

さて、既述のとおり商標権は更新することによって継続することが可能だが、「膏薬丸薬」は更新されておらず既に失効している。
一方で現在も有効な登録商標で最古のものは、1902年5月に出願され1902年7月に登録された「寿海」 (登録番号第1655号) である。

権利者は兵庫県神戸市の「百萬石酒造株式会社」となっている。しかし同社の事業は「沢の鶴株式会社」が継承しており、以下のように紹介されている。

沢の鶴 自慢の日本酒 寿海
https://www.sawanotsuru.co.jp/site/nihonshu/jukai/

歴史と文化、今に伝わる灘の男酒。「それは、七代目市川団十郎のサインに始まった」 
天保年間 (1840年頃) 上方で愛飲した灘の地酒。蔵元から菰樽にサインをねだられ、俳名「寿海」の文字と市川家の家紋である三升を記した。
「寿海」は、現在登録されている中で、一番古い商標といわれています。

ちなみに七代目市川団十郎 (團十郎、1791~1859) は、江戸時代後期の歌舞伎役者だが、天保の改革のあおりを受けて1842年に江戸から追放されたことで有名である。「派手な私生活と実物の甲冑を舞台で使用した」という罪状だが、実際は人気歌舞伎役者を処罰することで改革への意識を示そう、というものであった。

一方で、出願が「寿海」よりも前になされたものの、登録が遅れたために日本初となれなかった商標がある。
1890年7月に出願され1910年8月に登録された「九重」(登録番号第521号)で、愛知県碧南市の九重味淋株式会社が権利者だ。

九重味淋株式会社 九重に出逢うー江戸時代から続くみりんメーカー
https://kokonoe.co.jp/meet01

九重味淋の創始者である石川八郎右衛門信敦(石川家第二十二世)が、みりんの製造を手がけたのは安永元年(1772年)のことです。
以来、九重では、本みりん造りに最適な大粒の「もち米」、蔵人の伝承の技がいきた「米こうじ」、清酒造りにも似た醸造方法から丁寧に蒸留した「本格焼酎」を用いて、脈々と品質本位の醸法を受け継いできました。
250余年、伝承の技に磨きをかけ、技術の向上をめざす、その歴史をともに刻んできたのが『九重櫻』です。代々ご愛用いただいている老舗も多く、大正から昭和にかけて開かれた全国酒類品評会では唯一の名誉大賞に輝くなど、数多くの賞も授与いたしました。
より秀でた上品な甘味と旨味、醸造特有の芳醇な香り。食を彩るにふさわしい調味料を、これからも造りつづけていく所存です。

「九重」の商標が出願から登録まで20年もかかった理由は以下のように推測されている。

サムライツ 現存最古の日本の商標
https://samuraitz.com/weblog/trademark/2020/

おそらくですが、これは当時の法制度が関係していると考えられます。
日本で最初の商標に関する法令は、1884年6月7日に公布された商標条例です。この商標条例が、明治天皇の勅令により、1888年に全面改正されました。
この商標条例は、まだ法律とは言えないくらい、整備されていないものだったんですね(おそらくですが)。
それで、1890年に出願された「九重」の方は、この整備されていない商標条例の下で出願された商標なので、きちんと出願のていを成していなかったか、審査がされなかったのだと推測されます。
その後、1899年に、最初の商標法が制定されて、やっと内容が整備されてきました。だから、その後の1902年に出願された「寿海」の方は、審査する体制も整った上での出願だったので、すぐに登録されたのではないかと考えられます。
結果として、「九重」より12年も後から出願された「寿海」の方が現存最古の登録商標ということになりました。
※配信時点の判例通説等に基づき、個人的な見解を述べています。唯一の正解ではなく、判断する人や時期により解釈や法令自体が変わる場合がありますので、ご注意ください。

現在であればこのような不遇は裁判沙汰だろうが、法整備の段階におけるエピソードとしてこれもまた歴史ということだろう。
いずれにしても上記2件ともまだ現役の商標であり、今後も更新されて権利が継続されていくことだろう。日本最古のブランドとしていつまでも大事にしていきたい。

 



コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )


« 世界最長映画3選 世界と日本の... »