「倒産」は法律用語ではないが、何らかの法廷倒産手続きが行われた時点、または不渡手形・小切手の発生による銀行取引停止処分を受けた時点で企業は倒産したとみなされる。
倒産処理手続きの法的整理には、大きく清算型の「破産 (全ての会社が対象)」と「特別清算 (株式会社のみ)」、再建型の「民事再生 (全ての会社が対象)」「会社更生 (株式会社のみ)」がある。
清算型は、事業を解体し、資産の全てを売却し、得られた資金で債権者に可能な限り弁済し、会社を消滅させてしまうものである。
再建型は、債権者の権利を調整した上で、会社事業の継続を実現し、継続した事業から得られる収益を通じて会社債権者に弁済するものである。
「民事再生」は再生手続き開始要因となる事実、すなわち (1) 破産の原因となる事実が生ずるおそれがある場合、(2) 弁済期にある債務を弁済することとすれば、その事業の継続に著しい支障をきたすおそれがある場合、に申し立てできる。手遅れになることを防ぐために「おそれがある場合」に申し立て可能となっている。
その後債務者 (民事再生手続き申し立て者) は再生計画書を作成し、債権者集会で可決されれば、再生計画が遂行される。
「会社更生」は対象が株式会社のみであり、再生手続きが開始されると管財人が選任されるなどの相違はあるが、会社事業の継続を目的としている点は「民事再生」と共通している。
以上が規定であるが、実際に民事再生や会社更生を手続きを申請した場合に、再生計画はうまくいくのだろうか。
会社更生手続きの最も顕著な成功事例は日本航空 (JAL) だろう。
nippon.com 再上場JAL、破綻から再生に至る道のり
https://www.nippon.com/ja/currents/d00051/
JALの経営危機に対する対応として、国土交通省は2009年8月、有識者委員会を設置し、JAL自身に経営改善計画を策定させる形の緩やかな解決を図った。しかし、ちょうどこの直後に民主党政権が誕生し、特に前原誠司国土交通大臣の強力なリーダーシップのもとで、政府がJAL問題に極めて積極的に関与することとなった。
JALは2010年1月に会社更生法の適用を申請し、その後支援機構の企業再生支援委員長で、これまで多くの倒産企業の管財人を務めてきた瀬戸英雄弁護士の指揮下、経営の建て直しが進められた。更生計画に基づき、金融機関による債権放棄(5215億円)と支援機構からの公的資金の注入(3500億円)を受け、株式は100%減資された。
JAL再生の上で何よりも大きいのは、京セラ創業者の稲盛和夫氏がJAL会長に就任し、采配を振るったことだろう。京セラを「アメーバ方式」で世界的企業に成長させた稲盛氏の経営手腕による貢献は大きい。例えば、これまでJALでは、収支を見る上では路線ネットワーク全体を単位として捉えてきており、個別の路線収支は重視されてこなかった。これに対して稲盛氏は個別の路線収支の把握の重要性を徹底した。そして、特に幹部社員を中心として、経営感覚の向上を図ることをセミナーなどの実施を通して徹底させてきた。稲盛氏の存在なくしては、JALの経営改革はかなり難しいものとなっていたに違いない。
2010年3月期には1337億円の営業赤字だったJALは、2012年3月期に2049億円の営業黒字を計上するなど、想像もできなかったようなV字回復を遂げた。それも、世界的に見てもまれにみるような好業績を挙げるに至っている。
JALは2012年9月19日に東京証券取引所に再上場した。会社更生法申請から約2年半での驚異的な企業再生と言えよう。
とはいえ全ての再生計画がうまくいくはずはない。
2017年に発表された東京商工リサーチによる『「民事再生法」適用企業の追跡調査 (2000年度-2015年度)』を参照する。
東京商工リサーチ 民事再生法」適用企業の追跡調査 (2000年度-2015年度)
https://www.tsr-net.co.jp/news/analysis/20170113_07.html
東京商工リサーチでは、2000年4月1日から2016年3月31日までに負債1,000万円以上を抱え民事再生法を申請した9,406件(法人、個人企業含む)のうち、進捗が確認できた法人7,341社を対象に経過日数や事業継続の有無を追跡調査した。
民事再生法の「申請から開始決定」の期間は、2000年度は平均40.9日だったが、2015年度は同13.2日と27.7日短縮している。「開始決定から認可決定」までの期間も2000年度の同231.1日が、2015年度は同196.4日へ34.7日短縮し、手続きの迅速化が図られている。
しかし、民事再生法の適用を申請した7,341社のうち、70.9%(5,205社)は申請後に吸収合併や破産・特別清算などで消滅し、生存企業は29.1%(2,136社)に過ぎない厳しい現実も浮き彫りになった。
民事再生法の適用を申請し、手続進捗が確認できた7,341社のうち、「民事再生開始決定」が下りた企業の割合(開始率=開始社数÷手続社数)は96.1%(7,053社)だった。また、「認可決定」が下りた企業の割合(認可率=認可社数÷手続社数)は80.2%(5,890社)で、大半は「認可決定」までこぎつける事が可能だ。
消滅した5,205社の内訳は、合併が189社(構成比3.6%)、解散が621社(同11.9%)、破産が1,909社(同36.6%)、特別清算が34社(同0.6%)、廃業や休業、存在が確認できないものが2,452社(同47.1%)だった。
民事再生「終結」前に消滅した企業は2,216社(構成比42.5%)、民事再生「終結」後に消滅した企業は2,989社(同57.4%)で、民事再生の「終結」で裁判所の監督が外れてからの消滅が6割近くを占めた。申請から4年以降を経ても「倒産」のマイナスイメージを払拭できずに経営改善が難しい状況を示している。
これを表にしてみると以下のようになる。サマリーすると、開始率は96.1%、認可率は80.2%だが、生存率は29.1%となる。
ネガティブな内容になってしまい恐縮だが、これが現実だ。民事再生の道があるとはいえ、やはりビジネスモデルに行き詰りマイナスイメージがついてしまうとその払拭は難しそうだ。
やはり「おそれがある場合」よりも早く手を打っておかないといけないということだろう。
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