社会福祉法等の一部を改正する法律の成立にあたって
2016年3月31日
きょうされん常任理事会
本日3月31日、社会福祉法等の一部を改正する法律が成立した。きょうされんはあらためてこの法律の重大な問題点を指摘しておきたい。
今回の法改正は社会福祉法人が多額の内部留保をため込んでいるという批判に端を発しているが、国会審議を通じてこの批判が根も葉もないうわさ話の類であることが明らかになった。政府とともに一部のシンクタンクやマスコミ等が、社会福祉法人会計基準の特性を全く理解せず、あたかもすべての法人が大企業並の蓄えをもっていると喧伝したことで法改正の流れがつくられたわけだが、こうした宣伝が、不十分な報酬の下で人件費等を切り詰める等により事業の継続や展開に必要な資金を何とか生み出している大多数の社会福祉法人の実態とはかけ離れたものであることがはっきりしたのだ。
ごく一部の社会福祉法人による不適切な振舞いを許したことを反省するなら、行政による監査、指導を適切に強化すればよい。「社会福祉法人はもうかっているらしい」という事実とは異なるうわさ話による誤解を解くどころか、これに乗じて社会福祉法人にその蓄えを使って地域の福祉ニーズに応える責務を法律で課したわけだ。これによって、本来は公が制度化すべき課題への対応を民間による地域貢献活動に肩代わりさせる枠組みがつくられたことになる。厚労省は国会質疑で「国の公的責任は変わらない」と繰り返したが、この枠組みがひとり歩きし、社会福祉事業への公的責任が一層後退することが大いに懸念される。
なお、参議院厚生労働委員会での審議を通じて、厚労省側からも再投下可能な財産がある場合は残額全てを社会福祉事業に充当できることが明らかにされた。社会福祉事業への報酬を抜本的に引き上げるとともに、社会福祉法人がこれを利用者支援や職員処遇の向上等本業に優先的に使うことができるような運用の徹底が必要である。
また、今回は法改正の根拠となる立法事実が不明だ。内部留保問題もそのひとつで、厚労省は「内部留保の定義がないので実態が分からない」「法改正によって内部留保を定義すれば調査ができる」と説明するが、これは自ら立法事実がないことを認めたものだ。内部留保の実態を把握した結果、何らかの課題が見いだされて初めて法改正の必要性が論じられるのであって、今回は明らかに通常のプロセスを逸脱している。
また、ガバナンスの強化については現行の公益法人にそろえる点を評価する向きもあるが、これも議論の出発点はごく一部の理事長が法人を私物化していた等の特殊な事例だった。多くの社会福祉法人は地域の信頼を得るべく経営の透明性の確保等に努めているが、厚労省がこうした努力の実態を調査した形跡はない。本来であれば社会福祉法人のガバナンスの実態を正確に把握し、そこに問題が見いだされて初めて、公益法人改革の到達なども踏まえつつ法改正について議論するべきであろう。社会福祉法人の特性を無視したまま、単純に公益法人にそろえればよいというのは、これも立法事実を欠いた乱暴な議論である。
社会福祉施設職員等退職手当共済制度に関しては、障害者支援施設等に係る公費助成が廃止されてしまった。これによって、退職金の水準を維持するためには社会福祉法人が従来の3倍の葛烽x払わねばならず、その負担に耐えられない法人は同共済からの脱退を余儀なくされ、その結果、支援職員の退職金が確保されない事態が生まれることになる。福祉人材の確保の促進を目的とした法律ならば、介護保険施設等への公費助成を障害者支援施設等にあわせて復活させるべきではないか。
また今国会では、介護等職員の賃金を1万円上げることを盛り込んだ介護・障害福祉従事者の人材確保に関する特別措置法案が野党5党によって共同提出されたが、与党はこれを反対討論も一切しないまま否決してしまった。こうした動きを併せ見れば、今や一大社会問題である福祉人材の確保とは正反対の施策が横行している現状が浮かび上がってくる。
今後、法の施行に向けて多くの政省令が示されることになる。そもそも、法律だけ先に通しておいて内容の詳細はその後の政省令に委ねるという手法は、立法府での実質的な法案審議を妨げるものであり、この点の改善を求めたい。
きょうされんは今後示される政省令について、社会福祉法人が従来のとりくみに誇りと確信をもって引き続き地域の福祉ニーズに柔軟に応えることができるよう、社会福祉事業に対する公的責任の後退をくい止める立場から、必要なはたらきかけと発信をしていく所存である。
以上
http://www.kyosaren.com/statement/2016/03/post-49.html
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