女童三人(二人で)は、緋のきつけ、唄いつづく。――冴えて且つ寂しき声。
少し通して下さんせ、下さんせ。
ごようのないもな通しません、通しません。
天神様へ願掛けに、願掛けに。・・
通らんせ、通らんせ。 二人の女童が歌いながら登場・・可愛い演者が
私が気をつけます。可うござんす。(扇子を添えて首を受取る)お前たち、瓜を二つは知れたこと、この人はね、この姫路の城の主、播磨守とは、血を分けた兄弟よ。
侍女等目と目を見合わす。
ちょっと、獅子にお供え申そう。・・
みずから、獅子頭の前に供う。獅子、その牙を開き、首を呑む。首、その口に隠る。
亀姫 (熟と視る)お姉様、お羨しい。
獅子・踊りで表現が モダン・バレエ的で感性豊かに舞う・・うまいと感じつつ拝見
ここへ打上げたその獅子頭だ。以来、奇異妖変さながら魔所のように沙汰する天守、まさかとは思うたが、目のあたり不思議を見るわ。――心してかかれ。
九平 心得た、槍をつけろ。
討手、槍にて立ちかかる。獅子狂う。討手辟易す。修理、九平等、抜連れ抜連れ一同立掛る。獅子狂う。また辟易す。
2幕
図書 、姫君、どこにおいでなさいます。姫君。 夫人、悄然として、立ちたるまま、もの言わず。
図書 (あわれに寂しく手探り)姫君、どこにおいでなさいます。私は目が見えなくなりました。姫君。
夫人 (忍び泣きに泣く)貴方、私も目が見えなくなりました。 図書 ええ。
夫人 侍女たち、侍女たち。――せめては燈を――
――皆、盲目になりました。誰も目が見えませんのでございます。――(口々に一同はっと泣く声、壁の彼方に聞ゆ。)
夫人 (獅子頭とともにハタと崩折る)獅子が両眼を傷つけられました。この精霊で活きましたものは、一人も見えなくなりました。図書様、……どこに。
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・・・・・重複で・・原作の一部を・・
修理 木彫にも精がある。活きた獣も同じ事だ。目を狙え、目を狙え。
九平、修理、力を合せて、一刀ずつ目を傷く、獅子伏す。討手その頭をおさう。
図書 (母衣を撥退け刀を揮って出づ。口々に罵る討手と、一刀合すと斉しく)ああ、目が見えない。(押倒され、取って伏せらる)無念。
夫人 (獅子の頭をあげつつ、すっくと立つ。黒髪乱れて面凄し。手に以前の生首の、もとどりを取って提ぐ)誰の首だ、お前たち、目のあるものは、よっく見よ。(どっしと投ぐ。)
――討手わッと退き、修理、恐る恐るこれを拾う。
修理 南無三宝。
九平 殿様の首だ。播磨守様御首だ。
修理 一大事とも言いようなし。御同役、お互に首はあるか。
2幕
図書 姫君、どこにおいでなさいます。姫君。
夫人、悄然として、立ちたるまま、もの言わず。
図書 (あわれに寂しく手探り)姫君、どこにおいでなさいます。私は目が見えなくなりました。姫君。
夫人 (忍び泣きに泣く)貴方、私も目が見えなくなりました。
図書 ええ。
夫人 侍女たち、侍女たち。――せめては燈を――
――皆、盲目になりました。誰も目が見えませんのでございます。――(口々に一同はっと泣く声、壁の彼方に聞ゆ。)
夫人 (獅子頭とともにハタと崩折る)獅子が両眼を傷つけられました。この精霊で活きましたものは、一人も見えなくなりました。図書様、……どこに。
泉鏡花 天守物語時 不詳。ただし封建時代――晩秋。日没前より深更にいたる。
所 播州姫路。白鷺城の天守、第五重。
登場人物
天守夫人、富姫。(打見は二十七八)岩代国猪苗代、亀の城、亀姫。(二十ばかり)姫川図書之助。(わかき鷹匠)小田原修理。山隅九平。(ともに姫路城主武田播磨守家臣)十文字ヶ原、朱の盤坊。茅野ヶ原の舌長姥。(ともに亀姫の眷属)近江之丞桃六。(工人)桔梗。萩。葛。女郎花。撫子。(いずれも富姫の侍女)薄。(おなじく奥女中)女の童、禿、五人。武士、討手、大勢
舞台。天守の五重。左右に柱、向って三方を廻廊下のごとく余して、一面に高く高麗べりの畳を敷く。紅の鼓の緒、処々に蝶結びして一条、これを欄干のごとく取りまわして柱に渡す。おなじ鼓の緒のひかえづなにて、向って右、廻廊の奥に階子を設く。階子は天井に高く通ず。左の方廻廊の奥に、また階子の上下の口あり。奥の正面、及び右なる廻廊の半ばより厚き壁にて、広き矢狭間、狭間を設く。外面は山岳の遠見、秋の雲。壁に出入りの扉あり。鼓の緒の欄干外、左の一方、棟甍、並びに樹立の梢を見す。正面おなじく森々たる樹木の梢。
女童三人――合唱――
ここはどこの細道じゃ、細道じゃ、 天神様の細道じゃ、細道じゃ。