この作品は本編にて一切描かれていない第一次内惑星戦争について取り扱ったものです。
また一連の文章の設定はアニメ『宇宙戦艦ヤマト2199』及び『宇宙戦艦ヤマト2202』に基づいてはおりますが、公式設定で描かれていない部分などや個人的趣向を優先したいところは、独自設定を用いています。予めご了承ください。 拙い文章ですので過度な期待はしないでください。
前回の話を読まれていない方はこちらから読まれることを推奨いたします。
「沖田。少し話さないか?」と榛名の艦長に任命され、今回の戦いでも沖田と共に肩を並べる土方竜が、窓が割れ、シャッターで閉ざされた、廊下を歩く沖田に話しかける。
先の戦いで艦隊は無視できない損害を被った為、その補充としての地球の米国からの増援、そして破損したキリシマの艦首やその他の船の戦傷の修繕などを待つために、しばらくは半場崩壊しかけたディアーナベースに缶詰だった。
「いいがどうしたんだ?」と沖田は振り返る。
「いや、ただの思い出話をしたかっただけさ。」と土方は言う。
「思い出話....?」
「まだ俺らが防衛艦の下士官だった頃の話だ。たまにはいいだろう?」
「ああ。」と沖田は答える。
「あんたは防衛艦36番、俺は防衛艦27番だったか」
「そうだ士官学校を卒業して一番最初に乗り込んだ船だった.....」と沖田は回想する。
「とても古い船だったな...」
防衛艦36番、55年前に地球圏の哨戒のために航宙自衛隊の宙技廠で設計された第二四号型防衛艦で、その安価な船の割には耐久性などが高く武装も詰め込まれており、現在の磯風型突撃駆逐艦の遠い祖先ともいうべき艦だった。
今も十年前に設計されたその発展型である第六九型防衛艦は今も活躍している。
「しかしそこで学んだことも多かった。」
「そうだったな......」
「こういう暗い廊下を見ると船の廊下を思い出す」と土方は言う
「ああ...あの狭い配管がむき出しの廊下か....」
あの狭い艦に武装を詰め込んだせいでとても艦内の居住区域は大きく制限されており、配管がむき出しの壁に、低い天井に小さな赤い船内灯がついていた。
「そうだ。背の高い奴はそれにぶつけるんだよ」
「そうそう、私はぶつけなかったが.....」と沖田は言う
「懐かしいな.....」
「ああ.....」
「今の私の戦法は防衛艦36番の佐伯艦長の教えだった」と沖田は言う
「佐伯艦長は私に雷撃戦を一から教えてくれた私の師ともいうべき存在だ」
「佐伯艦長か....俺も昔はお世話になった....」と土方は言う
「俺たちも後輩に何かを残さなければならんかもしれんな.....」と土方は呟く
「ああ.....」軍人に明日はないかもしれないしかし未来を夢みることをやめてはいけない。そう佐伯艦長は口癖のように言っていた。
サイレンが第7ドックの中に鳴り響く、ようやく出撃の時だ。
「艦長。出航五分前です。」と山南は言う。沖田は手にもつコスモクロノグラフを閉じ
「全艦!出航用意!」と号令する。
「全艦出航用意!」とクルーは復唱する。同時に日本海軍時代からの伝統であるラッパが鳴り響く。
《こちらヒエイ出航準備完了》《ハルナ出航準備完了》《ムラサメ出航準備完了》と続々と出航準備が完了する
「艦長、出航用意完了しました。」
「うむ。」と沖田は無線機をとる
「こちらキリシマ。出航準備完了」
そして欧州艦隊、増援で来た米国艦隊と全艦隊の出航準備が整った。
《進路728。目標火星圏、マーズステーション03。全艦出航せよ!》とスピーカーから艦隊司令の永倉の声が響く。
「抜錨っ!キリシマ出航!」と沖田はその声を聴き号令する。
「ガントリーロック解除。キリシマ出航します。」と山南はレバーを倒す。
鉄が落ちるような鈍い音がドック中に鳴り響く。
「シャッター開放。」と沖田は指示を出す。
「シャッター開放します。」と山南は復唱しスイッチなどを操作する。今度はきちんとシャッターは開き、重厚な音を立てながら上下に開いていく。その隙間から入る太陽の光がとても眩しい。
月面にはまだ回収しきれていない先の戦いの残骸が残っている。その中には第六九号型防衛艦の残骸もあった。
そして水先案内もその防衛艦の同型艦だった。
《貴艦の健闘を祈る》と月面の他の防衛艦には宇宙服を着た士官たちが敬礼をして立っていた。
信号旗は今やホログラムだ。宇宙に風はないが旗ははためく。まるでアメリカの月面着陸の記録映像のように。
戦場に向かうのにどのくらいかかっただろうか、SF映画や小説で見るような、ワープ航法が確立することがあれば、こんなに時間はかからないだろうが、そんな夢のような技術を生きているうちに、お目にかかることなど無理だろうと沖田は考える。
とうとう火星と呼ばれる紅の惑星が近づいてくる。
最初に敵艦隊を発見したのは欧州艦隊、先遣艦オルデンブルクだった。
永倉は偵察機の出撃を指示する。偵察機は大型艦にしか搭載されておらず、その搭載されている船の一つがキリシマだった。
キリシマの左舷の格納庫が耳障りなサイレンと共に開く。
重厚な扉は重い音を鳴らしながら、パイロットに宇宙を見せる。
キリシマに搭載されているのは偵察機SSR-62コスモスワローと呼ばれる偵察機である。
2162年に制式化した意外と新しい宇宙偵察機だ。
前身機のコスモレイブンは月面で試験飛行を終わらせたせいで完全な無重力化での運用には適しておらず(使うことはできた)すぐに後継機のコスモスワローが開発されることとなってしまった。
コスモスワローはクレーンに付いているマグネットで吊られ、クレーンはキイと甲高い音を鳴らしながら動きコスモスワローを宇宙へと誘う。
《コスモ・スワロー発艦を許可する》と管制官はクレーンの移動を確認して告げる。
《コスモ・スワロー。発艦する》パイロットはクレーンのマグネットを解除し宇宙へと駆ける。
《全く.....これが遊覧飛行ならどれほど良かったか.....》
「火星か.....フロンティアスピリッツの押し売りからのこれとは全く彼らが不憫でならない........」
などと呟いているとレーダーに新たな艦影を捉えた。
「あれは敵艦隊か....?」とパイロットは双眼鏡を取り出し、拡大する。
「なんだあの船......レーダーの表示でもアンノウン.....火星軍の独自の艦艇か...」
パネルにはアンノウンと表示されるだけでその他は何一つわからないとりあえず艦影を撮影する。
「さてととりあえず艦隊の配置はわかったな」とコスモスワローを反転させ、周辺に敵機がいないことを確認する。敵に見つかっていない今データの送信を行うのは却って危険だ。
キリシマに向かって機首を向け、アフターバーナーを全開にし即刻帰投する。
他の機体も同様に各艦に戻る。
「養成学校じゃ、偵察は帰艦するまでが任務と言ってたな......」とふと昔のことを思い出す。
〈母艦まで残り1500〉とSIDがアナウンスする
練習機にはSIDなど積んでいなかったから、それに比べれば随分楽だ。
《こちらキリシマ。コスモスワロー左舷側の格納庫に収容されたし。》と通信が入る。
キリシマの左舷側の格納庫が開く。至近距離で見たときはとても重そうだが、こう遠くから見ると、とても軽そうに見えるのが不思議だ。
「全く...この着艦が一番苦手だ...」自動操縦とかが開発されればまだ違うのだろうが、そんな大層なものは、この機体に付いていない。
「よしよし……マグネット接続」
接続を確認したら、クレーンが動き出し、コスモスワローはキリシマに格納され、扉が重く閉じる。
「これが観測された艦隊配置です。」と中央作戦室の机に大きな画面がついた。展開中の艦艇にも同期され表示され、音声のみが繋がっている。
「でこれが観測された未知の敵艦艇と……」
モニターには望遠で撮られた、未知の艦艇の写真が表示される。
小柄な艦体に、大きな砲を設置した、アメリカ南北戦争時代のモニター艦を彷彿とさせる姿をしていた。
「今回の作戦としては、敵はスペースデブリ、小型の艦艇などを使い、まともな侵攻ルートを一つに絞っています。しかしご存じの通り一箇所からの侵攻はかなりリスクを伴い危険です。」と永倉はモニターを操作し、現在の艦隊配置を表示させる
「そこで、我々は連合艦隊を所属ごとに分け、それぞれ別方向から侵攻します。」
「欧州艦隊は最初にポイントAへ、米国艦隊はポイントBへ、そこで警戒している、敵艦隊と派手に交戦し、敵の興味を引き付けながら中央に進軍してください」
「うむ.....」
「で我々はその隙に大砲に肉薄、それを破壊します。」と永倉は説明する。
「なるほど.....しかし突撃駆逐艦では魚雷の数が少なくはないか?肉薄すると言っても、そのチャンスはそう多くはない」と欧州艦隊所属アンドレア・ガリアの艦長アデルモは訊く。
「必要ならば我々のコルベットを、そちらに編入することも出来るが」
「そのあたりは大丈夫です。」永倉はやけに自信ありげに言う
「はい....?」
「我々の金剛型宇宙戦艦は元々次世代エンジンのテストヘッドとして開発されていました。」
「次世代エンジン?」
「試製ハ号艦本イ式核融合推進缶と呼ばれており、従来のサ号艦本式核融合推進缶と比べると速力や旋回性能などが大幅に強化されています。」
「カタログの話などどうでもいい。我々は商品説明会に参加しに来たのではないのだ」とアメリカ艦隊のノースカロライナ、艦長ノーマンは話をさえぎる。
「でそのエンジンで接近はできるのか?」とアンドレアは問う
「ええ。理論上は。あとは操舵手の腕と船の運に懸かっています」
欧州、米国艦隊の艦長たちは眉をひそめている。中にはため息をつく者もいた。
「なるほど....それに託すしかないか...?」
「ええ、尤もすぐこの大砲のコピーを地球で作って火星に運び込めるというなら話は別ですが。」
「さらに高精度スキャンだと周囲には戦闘衛星も構えているようでして、ロングレンジでの雷撃などの戦法も大砲に届く前に撃ち落されるのがオチです。」
艦長たちは議論を重ね、この作戦の決行が決定した。
《全艦合戦用意。以後会敵まで電波管制とする。》と永倉は指示する。
「全艦第一種戦闘配置。砲雷撃戦用意」とその通信を聞き沖田は言う。その声とともにカンカンと鐘がなる
「砲雷撃戦用意!これは演習ではない。繰り返す。これは演習ではない」と復唱される
「配置につけ!」と主砲などの人員は配置に付き、訓練どおり戦闘の準備が整えられていく。
実戦というものは先の月面で経験したがこの雰囲気はすぐ慣れるようなものではないと山南は率直に思った。
最初に敵艦隊と会敵したのは欧州艦隊だった。
「始まったか………」とジャック・エメラルダスは呟く。観測によって地球艦隊が火星へと侵攻せんとしていることは既に分かっていた為、入念な仕込みはした筈だ。
そして私にとって、これが最後の戦いとなるはずだ。全てが目論見通りに進めば、だが。
「展開中の全艦隊に告ぐ。作戦Bを発令する。所定の行動に入れ」
エメラルダスは号令し、艦隊は国連軍を迎撃する準備を整える。
宇宙にはデブリがばらまかれ小型艦が身を潜めている。
《武装ステーション、エクスキャリバーからグングニルはオンライン。》
「ハルバード。戦闘を開始した模様。」と報告を受ける
「陽電子砲旋回。83度。目標敵艦隊。」
「ハルバードには敵を一箇所に纏めるように指示しろ。集めたところを陽電子砲で一掃する」とエメラルダスは指示をする。
「了解」とオペレーターはキーボードを操作する。
「こいつら……どうやってでも密集させたいらしい……」とギアル提督は呟く。
デブリから突如として出現した敵艦は欧州艦隊を包囲する陣形を見せている。
しかし動きは単調で、中央からの正面突破ならば容易に抜けられる包囲だが、突破のために密集すれば最後、陽電子砲の餌食になってしまう。それはギアル提督も理解していた。
「分散して各個撃破を狙え」
「しかし……砲火が厳しく中央突破でなければ艦隊が……」
「中央突破すれば大砲であっという間にあの世行きだ。」
「敵艦の正面に付き、陽電子砲の射線を切れ。相手が人間なら、それごと撃ってくることはないだろう。」
「奴の正面につき、魚雷を撃て。」と巡洋艦グラヴィトン艦長は指示する
「魚雷一番二番発射用意完了!」と砲雷長は報告する。
「撃て!」
巡洋艦から魚雷が放たれるが正面の敵艦は動ける、ゆとりはあるにもかかわらず、回避行動もとらず、迎撃もせず、ただ飛んでくる魚雷を受け止めようとしている。
「取れるはずの回避行動もとらないとは.....」とギアルは呟く。
何かがおかしいと直感的に感じる。
戦いというのは昔から人と人で血を血で洗うようなものであった。
しかしこの船からは一切「血」を、そして人間の意思を感じられない。
「嫌な予感がする....」
「提督!陽電子砲がこちらに指向しています........!」と報告がされる。
ほぼ同時刻。
別方向より侵攻していたアメリカ艦隊は敵の艦隊、そして戦闘機の強襲を受けていた。
「艦長!戦闘機です!」戦闘機が来るということは予想の範疇ではあったが、空母を持たない火星軍が、デブリ帯の外側まで戦闘機を展開してくるとは思えなかった。
「未知の戦闘機も確認されます」とレーダー士は報告する。
対艦ミサイルを積んだ可変戦闘機マーズ・ヴォルチャーと呼ばれる戦闘機の編隊はマーズステーション01。通称グラディウス・ステーションと呼ばれる宇宙ステーションを出撃し、アメリカ宇宙軍の艦隊を目指していた。
《見えてきたな.....ハゲタカの名にふさわしい働きをして帰ろう》
《全機戦闘態勢に入れ》と編隊長は指示し翼は移動し戦闘態勢に移行する。
さながら鳥のようにただ宇宙を飛んでいた
《ウェポンズフリー。存分に暴れまわりなさい》編隊長は指示しアメリカ宇宙軍への攻撃が始まった。
「対空見張りを厳となせ!どこから飛んでくるかわからない!」と戦艦ノースカロライナ艦長は声を荒らげる。
「この艦隊に空母はいない.....下手に数が多いと艦隊の防空能力では太刀打ちできん....」
「艦隊の攻撃です!」
「ハープーン攻撃用意!スパローもだ!」
「イージスシステムを搭載しているとはいえ.....」
「16発!真っ直ぐ飛んできます!」
「迎撃しろ!」
ミサイル主体の旧時代のシステムにすがるアメリカ宇宙軍であり、その迎撃能力は折り紙付きだがさすがにこの量のミサイルの相手は難しく、苦戦を強いられている。
《ジョンポールジョーンズ大破!》
「一発来ます!」とノースカロライナ、レーダー士が報告する
「CIWS!AMWオート!」
「間に合いません!」
「全艦衝撃に備えろっ!」と艦長はとっさに無線を取り叫ぶ
ミサイルは艦隊後部に直撃し、その被害は機関室に大きい
「機関室!被害状況を報告!」
「.....エンジンに問題なしっ!戦艦が簡単には沈みませんよ....!」と機関長は報告する
《ダメージコントロール急げ!隔壁は全閉鎖!》
「艦長!第二波です.......!」
《陽電子砲旋回終了。発射態勢に入ります。》火星軍の最前線基地、マーズステーション03では着々と陽電子砲の発射用意が整えられていた
「陽電子予備加速器、蓄電中、プラス1テラ」
「陽電子砲への回路開け」とジャックは指示するこの作業も段々慣れてきたのか、素早くなってきている。
《陽電子砲への回路開きます》
「非常弁全閉鎖を確認。」
「強制注入機を作動。」と真っ赤なスカーフを体のどこかに巻いたオペレーターたちは準備を完了させていく。
「安全装置解除。」とジャックは言う。
「セーフティロック解除!」
《強制注入機の起動を確認。並びに最終セーフティを解除》
「陽電子砲、加速磁場安定」
陽電子砲の砲口に光が燈る
「陽電子加速中、発射点まであと0.2、0.1」
「目標、照準を固定。」
「全エネルギー、超高電圧放電システムへ!」
「第1から、最終放電プラグ、主電力よし!」
「陽電子加速管、最終補正パルス安定。問題なし」
「エネルギー充填率120%。いつでも撃てます!」
「撃て!」とジャックは号令し陽電子砲で留められていた光の筋は勢いよく飛び出す
「高エネルギー反応!正面です!」と欧州艦隊巡洋艦コルベルクレーダー士は報告するが気づいた時には艦隊の半数は蒸発するか炎上するかだった。
「罠に嵌った!」とギアルは声を荒らげる
そしてギアルは立ち上がり双眼鏡で敵艦の艦橋を観察する。
電気はついているが、人の姿はなくただ不気味な無人艦だった。
「連続して、すぐには発射できないはずだ!全艦包囲網を脱する!中央突破だ」と指示する
「楔を打ち込め!」魚雷による攻撃で包囲網に穴をあけ、欧州艦隊の残存艦は包囲を抜け出す。
「いまだ!全艦。陽電子砲への攻撃を開始せよ」と永倉は指示する
続き
また一連の文章の設定はアニメ『宇宙戦艦ヤマト2199』及び『宇宙戦艦ヤマト2202』に基づいてはおりますが、公式設定で描かれていない部分などや個人的趣向を優先したいところは、独自設定を用いています。予めご了承ください。 拙い文章ですので過度な期待はしないでください。
前回の話を読まれていない方はこちらから読まれることを推奨いたします。
「沖田。少し話さないか?」と榛名の艦長に任命され、今回の戦いでも沖田と共に肩を並べる土方竜が、窓が割れ、シャッターで閉ざされた、廊下を歩く沖田に話しかける。
先の戦いで艦隊は無視できない損害を被った為、その補充としての地球の米国からの増援、そして破損したキリシマの艦首やその他の船の戦傷の修繕などを待つために、しばらくは半場崩壊しかけたディアーナベースに缶詰だった。
「いいがどうしたんだ?」と沖田は振り返る。
「いや、ただの思い出話をしたかっただけさ。」と土方は言う。
「思い出話....?」
「まだ俺らが防衛艦の下士官だった頃の話だ。たまにはいいだろう?」
「ああ。」と沖田は答える。
「あんたは防衛艦36番、俺は防衛艦27番だったか」
「そうだ士官学校を卒業して一番最初に乗り込んだ船だった.....」と沖田は回想する。
「とても古い船だったな...」
防衛艦36番、55年前に地球圏の哨戒のために航宙自衛隊の宙技廠で設計された第二四号型防衛艦で、その安価な船の割には耐久性などが高く武装も詰め込まれており、現在の磯風型突撃駆逐艦の遠い祖先ともいうべき艦だった。
今も十年前に設計されたその発展型である第六九型防衛艦は今も活躍している。
「しかしそこで学んだことも多かった。」
「そうだったな......」
「こういう暗い廊下を見ると船の廊下を思い出す」と土方は言う
「ああ...あの狭い配管がむき出しの廊下か....」
あの狭い艦に武装を詰め込んだせいでとても艦内の居住区域は大きく制限されており、配管がむき出しの壁に、低い天井に小さな赤い船内灯がついていた。
「そうだ。背の高い奴はそれにぶつけるんだよ」
「そうそう、私はぶつけなかったが.....」と沖田は言う
「懐かしいな.....」
「ああ.....」
「今の私の戦法は防衛艦36番の佐伯艦長の教えだった」と沖田は言う
「佐伯艦長は私に雷撃戦を一から教えてくれた私の師ともいうべき存在だ」
「佐伯艦長か....俺も昔はお世話になった....」と土方は言う
「俺たちも後輩に何かを残さなければならんかもしれんな.....」と土方は呟く
「ああ.....」軍人に明日はないかもしれないしかし未来を夢みることをやめてはいけない。そう佐伯艦長は口癖のように言っていた。
サイレンが第7ドックの中に鳴り響く、ようやく出撃の時だ。
「艦長。出航五分前です。」と山南は言う。沖田は手にもつコスモクロノグラフを閉じ
「全艦!出航用意!」と号令する。
「全艦出航用意!」とクルーは復唱する。同時に日本海軍時代からの伝統であるラッパが鳴り響く。
《こちらヒエイ出航準備完了》《ハルナ出航準備完了》《ムラサメ出航準備完了》と続々と出航準備が完了する
「艦長、出航用意完了しました。」
「うむ。」と沖田は無線機をとる
「こちらキリシマ。出航準備完了」
そして欧州艦隊、増援で来た米国艦隊と全艦隊の出航準備が整った。
《進路728。目標火星圏、マーズステーション03。全艦出航せよ!》とスピーカーから艦隊司令の永倉の声が響く。
「抜錨っ!キリシマ出航!」と沖田はその声を聴き号令する。
「ガントリーロック解除。キリシマ出航します。」と山南はレバーを倒す。
鉄が落ちるような鈍い音がドック中に鳴り響く。
「シャッター開放。」と沖田は指示を出す。
「シャッター開放します。」と山南は復唱しスイッチなどを操作する。今度はきちんとシャッターは開き、重厚な音を立てながら上下に開いていく。その隙間から入る太陽の光がとても眩しい。
月面にはまだ回収しきれていない先の戦いの残骸が残っている。その中には第六九号型防衛艦の残骸もあった。
そして水先案内もその防衛艦の同型艦だった。
《貴艦の健闘を祈る》と月面の他の防衛艦には宇宙服を着た士官たちが敬礼をして立っていた。
信号旗は今やホログラムだ。宇宙に風はないが旗ははためく。まるでアメリカの月面着陸の記録映像のように。
戦場に向かうのにどのくらいかかっただろうか、SF映画や小説で見るような、ワープ航法が確立することがあれば、こんなに時間はかからないだろうが、そんな夢のような技術を生きているうちに、お目にかかることなど無理だろうと沖田は考える。
とうとう火星と呼ばれる紅の惑星が近づいてくる。
最初に敵艦隊を発見したのは欧州艦隊、先遣艦オルデンブルクだった。
永倉は偵察機の出撃を指示する。偵察機は大型艦にしか搭載されておらず、その搭載されている船の一つがキリシマだった。
キリシマの左舷の格納庫が耳障りなサイレンと共に開く。
重厚な扉は重い音を鳴らしながら、パイロットに宇宙を見せる。
キリシマに搭載されているのは偵察機SSR-62コスモスワローと呼ばれる偵察機である。
2162年に制式化した意外と新しい宇宙偵察機だ。
前身機のコスモレイブンは月面で試験飛行を終わらせたせいで完全な無重力化での運用には適しておらず(使うことはできた)すぐに後継機のコスモスワローが開発されることとなってしまった。
コスモスワローはクレーンに付いているマグネットで吊られ、クレーンはキイと甲高い音を鳴らしながら動きコスモスワローを宇宙へと誘う。
《コスモ・スワロー発艦を許可する》と管制官はクレーンの移動を確認して告げる。
《コスモ・スワロー。発艦する》パイロットはクレーンのマグネットを解除し宇宙へと駆ける。
《全く.....これが遊覧飛行ならどれほど良かったか.....》
「火星か.....フロンティアスピリッツの押し売りからのこれとは全く彼らが不憫でならない........」
などと呟いているとレーダーに新たな艦影を捉えた。
「あれは敵艦隊か....?」とパイロットは双眼鏡を取り出し、拡大する。
「なんだあの船......レーダーの表示でもアンノウン.....火星軍の独自の艦艇か...」
パネルにはアンノウンと表示されるだけでその他は何一つわからないとりあえず艦影を撮影する。
「さてととりあえず艦隊の配置はわかったな」とコスモスワローを反転させ、周辺に敵機がいないことを確認する。敵に見つかっていない今データの送信を行うのは却って危険だ。
キリシマに向かって機首を向け、アフターバーナーを全開にし即刻帰投する。
他の機体も同様に各艦に戻る。
「養成学校じゃ、偵察は帰艦するまでが任務と言ってたな......」とふと昔のことを思い出す。
〈母艦まで残り1500〉とSIDがアナウンスする
練習機にはSIDなど積んでいなかったから、それに比べれば随分楽だ。
《こちらキリシマ。コスモスワロー左舷側の格納庫に収容されたし。》と通信が入る。
キリシマの左舷側の格納庫が開く。至近距離で見たときはとても重そうだが、こう遠くから見ると、とても軽そうに見えるのが不思議だ。
「全く...この着艦が一番苦手だ...」自動操縦とかが開発されればまだ違うのだろうが、そんな大層なものは、この機体に付いていない。
「よしよし……マグネット接続」
接続を確認したら、クレーンが動き出し、コスモスワローはキリシマに格納され、扉が重く閉じる。
「これが観測された艦隊配置です。」と中央作戦室の机に大きな画面がついた。展開中の艦艇にも同期され表示され、音声のみが繋がっている。
「でこれが観測された未知の敵艦艇と……」
モニターには望遠で撮られた、未知の艦艇の写真が表示される。
小柄な艦体に、大きな砲を設置した、アメリカ南北戦争時代のモニター艦を彷彿とさせる姿をしていた。
「今回の作戦としては、敵はスペースデブリ、小型の艦艇などを使い、まともな侵攻ルートを一つに絞っています。しかしご存じの通り一箇所からの侵攻はかなりリスクを伴い危険です。」と永倉はモニターを操作し、現在の艦隊配置を表示させる
「そこで、我々は連合艦隊を所属ごとに分け、それぞれ別方向から侵攻します。」
「欧州艦隊は最初にポイントAへ、米国艦隊はポイントBへ、そこで警戒している、敵艦隊と派手に交戦し、敵の興味を引き付けながら中央に進軍してください」
「うむ.....」
「で我々はその隙に大砲に肉薄、それを破壊します。」と永倉は説明する。
「なるほど.....しかし突撃駆逐艦では魚雷の数が少なくはないか?肉薄すると言っても、そのチャンスはそう多くはない」と欧州艦隊所属アンドレア・ガリアの艦長アデルモは訊く。
「必要ならば我々のコルベットを、そちらに編入することも出来るが」
「そのあたりは大丈夫です。」永倉はやけに自信ありげに言う
「はい....?」
「我々の金剛型宇宙戦艦は元々次世代エンジンのテストヘッドとして開発されていました。」
「次世代エンジン?」
「試製ハ号艦本イ式核融合推進缶と呼ばれており、従来のサ号艦本式核融合推進缶と比べると速力や旋回性能などが大幅に強化されています。」
「カタログの話などどうでもいい。我々は商品説明会に参加しに来たのではないのだ」とアメリカ艦隊のノースカロライナ、艦長ノーマンは話をさえぎる。
「でそのエンジンで接近はできるのか?」とアンドレアは問う
「ええ。理論上は。あとは操舵手の腕と船の運に懸かっています」
欧州、米国艦隊の艦長たちは眉をひそめている。中にはため息をつく者もいた。
「なるほど....それに託すしかないか...?」
「ええ、尤もすぐこの大砲のコピーを地球で作って火星に運び込めるというなら話は別ですが。」
「さらに高精度スキャンだと周囲には戦闘衛星も構えているようでして、ロングレンジでの雷撃などの戦法も大砲に届く前に撃ち落されるのがオチです。」
艦長たちは議論を重ね、この作戦の決行が決定した。
《全艦合戦用意。以後会敵まで電波管制とする。》と永倉は指示する。
「全艦第一種戦闘配置。砲雷撃戦用意」とその通信を聞き沖田は言う。その声とともにカンカンと鐘がなる
「砲雷撃戦用意!これは演習ではない。繰り返す。これは演習ではない」と復唱される
「配置につけ!」と主砲などの人員は配置に付き、訓練どおり戦闘の準備が整えられていく。
実戦というものは先の月面で経験したがこの雰囲気はすぐ慣れるようなものではないと山南は率直に思った。
最初に敵艦隊と会敵したのは欧州艦隊だった。
「始まったか………」とジャック・エメラルダスは呟く。観測によって地球艦隊が火星へと侵攻せんとしていることは既に分かっていた為、入念な仕込みはした筈だ。
そして私にとって、これが最後の戦いとなるはずだ。全てが目論見通りに進めば、だが。
「展開中の全艦隊に告ぐ。作戦Bを発令する。所定の行動に入れ」
エメラルダスは号令し、艦隊は国連軍を迎撃する準備を整える。
宇宙にはデブリがばらまかれ小型艦が身を潜めている。
《武装ステーション、エクスキャリバーからグングニルはオンライン。》
「ハルバード。戦闘を開始した模様。」と報告を受ける
「陽電子砲旋回。83度。目標敵艦隊。」
「ハルバードには敵を一箇所に纏めるように指示しろ。集めたところを陽電子砲で一掃する」とエメラルダスは指示をする。
「了解」とオペレーターはキーボードを操作する。
「こいつら……どうやってでも密集させたいらしい……」とギアル提督は呟く。
デブリから突如として出現した敵艦は欧州艦隊を包囲する陣形を見せている。
しかし動きは単調で、中央からの正面突破ならば容易に抜けられる包囲だが、突破のために密集すれば最後、陽電子砲の餌食になってしまう。それはギアル提督も理解していた。
「分散して各個撃破を狙え」
「しかし……砲火が厳しく中央突破でなければ艦隊が……」
「中央突破すれば大砲であっという間にあの世行きだ。」
「敵艦の正面に付き、陽電子砲の射線を切れ。相手が人間なら、それごと撃ってくることはないだろう。」
「奴の正面につき、魚雷を撃て。」と巡洋艦グラヴィトン艦長は指示する
「魚雷一番二番発射用意完了!」と砲雷長は報告する。
「撃て!」
巡洋艦から魚雷が放たれるが正面の敵艦は動ける、ゆとりはあるにもかかわらず、回避行動もとらず、迎撃もせず、ただ飛んでくる魚雷を受け止めようとしている。
「取れるはずの回避行動もとらないとは.....」とギアルは呟く。
何かがおかしいと直感的に感じる。
戦いというのは昔から人と人で血を血で洗うようなものであった。
しかしこの船からは一切「血」を、そして人間の意思を感じられない。
「嫌な予感がする....」
「提督!陽電子砲がこちらに指向しています........!」と報告がされる。
ほぼ同時刻。
別方向より侵攻していたアメリカ艦隊は敵の艦隊、そして戦闘機の強襲を受けていた。
「艦長!戦闘機です!」戦闘機が来るということは予想の範疇ではあったが、空母を持たない火星軍が、デブリ帯の外側まで戦闘機を展開してくるとは思えなかった。
「未知の戦闘機も確認されます」とレーダー士は報告する。
対艦ミサイルを積んだ可変戦闘機マーズ・ヴォルチャーと呼ばれる戦闘機の編隊はマーズステーション01。通称グラディウス・ステーションと呼ばれる宇宙ステーションを出撃し、アメリカ宇宙軍の艦隊を目指していた。
《見えてきたな.....ハゲタカの名にふさわしい働きをして帰ろう》
《全機戦闘態勢に入れ》と編隊長は指示し翼は移動し戦闘態勢に移行する。
さながら鳥のようにただ宇宙を飛んでいた
《ウェポンズフリー。存分に暴れまわりなさい》編隊長は指示しアメリカ宇宙軍への攻撃が始まった。
「対空見張りを厳となせ!どこから飛んでくるかわからない!」と戦艦ノースカロライナ艦長は声を荒らげる。
「この艦隊に空母はいない.....下手に数が多いと艦隊の防空能力では太刀打ちできん....」
「艦隊の攻撃です!」
「ハープーン攻撃用意!スパローもだ!」
「イージスシステムを搭載しているとはいえ.....」
「16発!真っ直ぐ飛んできます!」
「迎撃しろ!」
ミサイル主体の旧時代のシステムにすがるアメリカ宇宙軍であり、その迎撃能力は折り紙付きだがさすがにこの量のミサイルの相手は難しく、苦戦を強いられている。
《ジョンポールジョーンズ大破!》
「一発来ます!」とノースカロライナ、レーダー士が報告する
「CIWS!AMWオート!」
「間に合いません!」
「全艦衝撃に備えろっ!」と艦長はとっさに無線を取り叫ぶ
ミサイルは艦隊後部に直撃し、その被害は機関室に大きい
「機関室!被害状況を報告!」
「.....エンジンに問題なしっ!戦艦が簡単には沈みませんよ....!」と機関長は報告する
《ダメージコントロール急げ!隔壁は全閉鎖!》
「艦長!第二波です.......!」
《陽電子砲旋回終了。発射態勢に入ります。》火星軍の最前線基地、マーズステーション03では着々と陽電子砲の発射用意が整えられていた
「陽電子予備加速器、蓄電中、プラス1テラ」
「陽電子砲への回路開け」とジャックは指示するこの作業も段々慣れてきたのか、素早くなってきている。
《陽電子砲への回路開きます》
「非常弁全閉鎖を確認。」
「強制注入機を作動。」と真っ赤なスカーフを体のどこかに巻いたオペレーターたちは準備を完了させていく。
「安全装置解除。」とジャックは言う。
「セーフティロック解除!」
《強制注入機の起動を確認。並びに最終セーフティを解除》
「陽電子砲、加速磁場安定」
陽電子砲の砲口に光が燈る
「陽電子加速中、発射点まであと0.2、0.1」
「目標、照準を固定。」
「全エネルギー、超高電圧放電システムへ!」
「第1から、最終放電プラグ、主電力よし!」
「陽電子加速管、最終補正パルス安定。問題なし」
「エネルギー充填率120%。いつでも撃てます!」
「撃て!」とジャックは号令し陽電子砲で留められていた光の筋は勢いよく飛び出す
「高エネルギー反応!正面です!」と欧州艦隊巡洋艦コルベルクレーダー士は報告するが気づいた時には艦隊の半数は蒸発するか炎上するかだった。
「罠に嵌った!」とギアルは声を荒らげる
そしてギアルは立ち上がり双眼鏡で敵艦の艦橋を観察する。
電気はついているが、人の姿はなくただ不気味な無人艦だった。
「連続して、すぐには発射できないはずだ!全艦包囲網を脱する!中央突破だ」と指示する
「楔を打ち込め!」魚雷による攻撃で包囲網に穴をあけ、欧州艦隊の残存艦は包囲を抜け出す。
「いまだ!全艦。陽電子砲への攻撃を開始せよ」と永倉は指示する
続き
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