リバーリバイバル研究所

川と生き物、そして人間生活との折り合いを研究しています。サツキマス研究会・リュウキュウアユ研究会

マスコミ、政治家のお仕事 

2011-02-22 11:50:35 | アユの流し目/雑記帳
情報デモクラシー2011:尖閣映像流出の真意は 一色元海上保安官にインタビュー

 オリジナルはこちら

 本紙「情報デモクラシー2011 ウィキリークスのある社会(3)」に掲載した一色正春・元海上保安官(44)のインタビューの詳細を収録しました。インタビューは2月9日に行われました。

Q 尖閣諸島沖の中国漁船衝突映像を公表しようと思ったのはなぜですか。

A あまり偉そうに言う立場ではないですが、こういうことはマスコミ、もしくは政治家のお仕事ではないでしょうか。(公表を)誰もやらない。目の前に「モノ」がある。結局は自分でやるしかないなと。隠す意味のない映像です。あれを見て考えてほしいと思った。しかし、(ユーチューブに)出たとたん「秘密だから漏えいするのは悪い」という本質と違った方向に論点がどんどんずれていったのは残念でした。

Q 本質とは。

A あの海で何が起きているかを知って、考えてほしいということです。世界の中で、中国や自分の国が何をしているのか。百聞は一見にしかず、です。

Q 映像を公表しようと決断したのはいつですか。

A 何月何日と簡単に表せるものではない。やめとうこうか、どうしようか、葛藤はありました。話し出すと2時間くらいあっという間にたってしまう。徐々に変わっていったということですね。

Q 1人で決断した。

A そうです。

Q 何が一色さんを突き動かしたのでしょうか。

A 海上保安官としてやってはならないこととは分かっていました。しかし、憲法には公務員は「全体の奉仕者」とも書いてある。組織のルールを守れば国のためにならないし、国のためを思えば組織のルールに反する。ジレンマはありました。どちらが重要か。最後は私の価値観に従いました。それが正しいかどうかは分かりませんが、そう信じてやりました。結局、国民に判断材料がない。それはあかんやろと。これがほんまのことや。どうぞ見てください、と。あれを見て「日本が悪い」という人も中にはおるでしょう。私は同調しませんが、それはそれで、その人の意見ですからね。どういう意見を持つかは自由です。人の考えを無理やり変えるつもりはないです。

Q それぞれ個人で考えたらいいじゃないかと。

A あれを見て何とも思わなかったら、日本はそういう国。「おかしいやないか」という人が多かったら、そういう方向に行けばいい。それが民主主義というもんでしょう。目と耳をふさいで「どうだ」と言われても国民として判断できない。

Q 民主主義とか自由とかについては、若いころから意識していたのですか。

A 私は海保に入る前、外航航路の船員をしていたことがあり、いろんな国に行った。米国、欧州、中東、アフリカ、20カ国近くになると思う。独裁体制が倒れて1~2年のルーマニアにも行った。日本が一番いい国だと、外に出てみて初めて分かりました。

Q どんな船に乗っていたんですか。

A 原油やガスのタンカーが多かった。湾岸戦争の時、ペルシャ湾にも行きました。船の横に大きな日の丸を描くんですわ。自衛隊が守ってくれるわけでもない。日本の信用力が頼りでした。日本の原油の80~90%はここから来てるんですよ。遠い海で危険を冒している日本人がいるのに、知らない人が多い。戦争を肯定するわけではないですが、外国は軍隊を出しているのに日本では自衛隊派遣の是非を議論しているだけで、誰も何もしてくれない。疑問を持ちました。

Q なぜ海保に?

A 不況もあって、20代半ばで船を降りました。日本に帰れない暮らしを続けていると、日本社会に溶け込めなくなってしまうと思った。サラリーマン、職人見習いみたいなことをした後、商船時代に一緒に働いていた人が先に海保にいたこともあって、30歳の時、有資格者向けの試験を受けて入りました。

Q 映像を投稿したのは、どんな立場の自分だったのですか。

A 海上保安官としての気持ちもあるし、一国民として、日本人として、子供の親として…それは複雑ですよ。何が何割とか数式のように表せるものじゃない。

Q 同じ映像を見た海保の職員は何人もいたのに、なぜ一色さんだけが行動に踏み切ったのでしょう。

A 個人の価値観でしょうね。何を優先順位とするかという。やろうと思うことと実際の行動の間には高いハードルがある。

Q ユーチューブに投稿しようと決めたのはいつごろですか。

A CNNに送って何の動きもないので、これはあかんなと思って。(CNNでは)第三者に委ねてしまうことになる。それに44分全部は流してくれないでしょう。あの(衝突の)5分以外の部分にも見てほしいところはある。ああいう形(ユーチューブ)なら1人で完結できるじゃないですか。

Q CNNが放送していたらユーチューブには出さなかった?

A テレビでは一部分だけでも、インターネットで丸々流すような形にしてくれれば、それでよかった。

Q どうして日本のメディアではなくCNNを選んだのですか。

A いろんなこと考えたんですよ。日本のメディアだと、どこでどう(政府などと)つながっているか分からない。日中の2国間の問題だから当事国以外から出してもらったほうが世界の見る目も違ってくると思った。実は(中東の衛星テレビ局)アルジャジーラとかも考えたんですよ。でも、中東の局はちょっと色眼鏡で見られるかもしれないので、CNNかな、と。

Q インターネットがなかったらどうしていましたか?

A 仮定の話は難しい。そういう状況になってみないと分からないと思いますよ。重みが違いますから。答えるのは簡単かもしれませんが、それは本当の答えではない。

Q 意図も明かさず匿名で映像だけ流したのはよかったのでしょか。

A 色をつけて見てほしくなかったんですよ。客観的事実だけを示したかった。私が「立ち上がれ!」みたいな感じで出てくれば、もっと盛り上がったんでしょうけど、そうはしたくなかった。一人ひとりに判断してほしかった。メディアを通じようが通じまいが、出し方は私にとっては枝葉のことです。とにかく 44分の映像を見てもらうことが目的ですから、やる前につぶされることだけは避けたかった。相手は国家権力ですよ。どんなことがあるか分からない。その時は「1億2000万(日本の人口)対私1人の戦い」という心境ですよ。やり方を考えている余裕はなかった。

Q ずっと匿名のまま分からないほうがよかった?

A いや、いずれ(自分が流出元だと)分かると思っていました。船(巡視艇)のパソコンから出てるという記録は絶対残る。だから、(11月10日の朝、当直勤務が終わったあと)船長が「お前はどうなんだ」と聞いてきたので、うそをつくこともないかと。なぜか知りませんが、怪しいと思ったんでしょうね。ただ、なるべく長い間捕まらないでいようとも思いました。騒動が1日長引くだけ、映像を見る人も増えるじゃないですか。そういう考え方をおかしいという人もいますが、900万人が見るのと1000万人が見るのだったら、どんなやり方をしても後者を選びます。

Q 投稿した直後に読売テレビの取材に応じたのはなぜですか。

A 保険です。逮捕された時に「頭のおかしなやつがやったこと」にされたら破廉恥事件で終わってしまうと思った。「しっかりこういうことをやった」ということを残して「逮捕されたら流してくれ」と。塀の中に入ったら言いたいこと何も言えないですからね。

Q 読売テレビには自分から連絡を?

A そうです。捜査が迫ってきたのは何となく分かったので、その日に備えようと。

Q なぜ読売テレビなのですか。

A そこはあえて伏せておきます(笑)。

Q 既存メディアについてどう思いますか。

A みんな同じ方向を向いているように見える。あの映像が隠されていたときはみんな「見せろ」と言っていたのに、出たとたん「誰や。探せ」という論調になった。私が起訴猶予になった時も、発表を聞いたまま書いている感じで、検証がない。間違いも多かった。名前も顔も知らない人が「元上司」として出ていたり、経歴が違っていたり。特に週刊誌。受け手の側に情報を取捨選択する能力が求められると思いましたね。新聞にはもっと頑張ってほしいと思ってるんですよ。ビデオの未公開部分をどうするのか。また(中国漁船が同じ海域に)来たらどうするのか。もっと多様な報道があっていいと思いますね。

Q 武器を持つ組織である海上保安庁で、現場の保安官が独自の判断をしたことに懸念の声も出ました。

A 想像力が豊かだなと(笑)。どんな武器を持っていてどんな仕様なのかとか、どこまで海保のことをご存じなのかと。私の目的は政権の転覆でも何でもないですし。戦前の軍隊と比べるのは、全く当たらないと思う。本当は映像の中身が問題なのに、論点をずらされた感じがします。

Q 国家秘密はあっていいと思いますか。

A それは当然です。軍事や外交での高度な判断というのはあると思います。
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2011年2月22日
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