こ~んばん~わ
今年に入り乃木坂46最後の2期生である鈴木絢音が卒業し、10年以上にわたりグループに在籍した最後の1期生・秋元真夏と齋藤飛鳥も相次いで卒業。アンダーライブにおいては昨年末から3期生以降のメンバーのみで構成された編成で行われていたが、乃木坂46全体としてのライブにおいてもいよいよ新体制で開催されるときが訪れた。それが7月1日から8月28日にかけて、全国7都市で16公演行われた『真夏の全国ツアー 2023』だ。筆者は地方公演こそ足を運ぶことができなかったが、8月25~28日の4日間にわたり行われた明治神宮野球場公演を観覧することができた。本稿ではこのうち、ツアーファイナル(28日)を中心に“乃木坂46の聖地・神宮”でのライブを振り返ってみたい。
グループとしては今年2月の『乃木坂46 11th YEAR BIRTHDAY LIVE』から観客の“声出し”を解禁したが、マスクなしの通常レギュレーションでのライブは、コロナ禍以降ではこのツアーが初めて。かつ、神宮での“声出し”可能なライブは、4期生が初めて参加し、キャプテンが桜井玲香から秋元へと交代された『真夏の全国ツアー2019』以来4年ぶりとなる。そう考えると、“当たり前の日常”が戻るまでの期間にグループがここまで変化していた事実に驚かされる。そういったことも踏まえつつ、さらに3~5期生のみで初めて臨む全国ツアーという大きなトピックもあったのだから、メンバーがこのツアーに懸ける思いは一際強いものがあったはずだ。
そういった気概は、ステージ上で見せるメンバーの表情やパフォーマンスのみならず、セットリストからもしっかり伝わってきた。個人的には、5月の齋藤飛鳥卒業公演を経て、どんな構成で乃木坂46の“今”を見せるのか、若干心配していたところもあった。しかし、神宮初日を観終えたあとの充実感はそれまでの彼女たちのライブと一切変わらないものだった。ライブ終了後、筆者はSNSに「メンバーが変わろうが乃木坂は乃木坂のまま」と書いたが、この一言はそれ以上でもそれ以下でもなく、自分が十数年かけて観続けてきた「乃木坂46のライブ」そのものだったことを表したものだった。
ツアー終盤の8月23日にリリースされた33rdシングル曲「おひとりさま天国」で初めてセンターに就任した5期生・井上和を座長に据え、その直前のシングル曲「人は夢を二度見る」でダブルセンターを務めた久保史緒里&山下美月、そして新キャプテンの梅澤美波など、現編成でもっとも先輩の3期生たちが随所で井上をサポートする形で進行するステージ(もちろん、4期生の賀喜遥香や遠藤さくらなども至る場面で井上を支えていたが、そこについては追って記す)。序盤は「裸足でSummer」や「ジコチューで行こう!」など、乃木坂46を代表する“夏曲”が連発される。「裸足でSummer」のサビでオーディエンスが頭上に推しメンタオルを掲げる様は、これぞスタジアムライブそのもの。賀喜の煽りにより一体感がさらに高まる「好きというのはロックだぜ!」では、タオル回しや、観客から発せられる〈Hey!〉〈Woh oh oh oh oh〉などのコールやシンガロングが楽曲に加わることで、その場にいる者すべてが「自分は今、“あの”乃木坂46のライブを体験しているんだ!」と強く実感できたのではないだろうか。この“掴み”が完璧だったからこそ、その後にどれだけ自由度の高い演出が用意されようが、観る側の受け入れ体制はでき上がっていたようなものだ。
MCを挟んだあとの第2ブロックは、日替わりで披露されるユニット曲コーナー。最終日には「意外BREAK」「Am I Loving?」「自惚れビーチ」が披露されたが、神宮初日は「私、起きる。」「ハウス!」「オフショアガール」、同2日目は「パッションフルーツの食べ方」「でこぴん」「光合成希望」、同3日目は「偶然を言い訳にして」「環状六号線」「白米様」と、先輩メンバーたちが残してきたユニット曲やソロ曲を中心に展開された。あえてシングル表題曲を選ぶのではなく、全曲披露されていた時代のバースデーライブでしか聴くことができなかった人気のユニット曲やレア曲をセレクトするあたりに、“かつて乃木坂46のファンだった少女たち”の思いが見え隠れする……そう感じたのは、筆者だけではなかったはずだ。また、こうした機会に一ノ瀬美空(「白米様」)や五百城茉央(「自惚れビーチ」)といった5期生をセンターに選び、活躍の場を与えられたことも新体制になったからこそと言える。3、4期生に存在感の強い先輩たちが多い分、後輩の5期生が前に出る機会はどうしても限られてしまうが、一ノ瀬や五百城に関してはこういうチャンスを与えられてもしっかりアピールできるようになったことを、今回のライブではしっかり確認できた。今後ほかのメンバーが同様の機会を得られたとしても、きっと2人のようにその実力を遺憾なく発揮してくれることだろう。
今回のライブでは、先のユニット曲やアンダー曲、期別曲以外は基本的に出演メンバー全員がステージに立つ形が採られた。着替え時間の問題で数曲選抜メンバーのみでパフォーマンスしたタイミングもあったし、与えられたポジションや役割が一人ひとり異なるのは仕方ないものの、メンバーによって出演する曲数に偏りがないところに関しては「3~5期生全員が主役」という見方もできたのではないだろうか。そういった点を、筆者は「この全国ツアーから改めて、全員足並みを揃えて前進していく」という姿勢の表れだと解釈している。
そして、全体でパフォーマンスする楽曲の選曲に関しても、「制服のマネキン」や「君の名は希望」といった初期の代名詞的楽曲、「インフルエンサー」や「Sing Out!」など近年のライブにおける盛り上げ曲に頼ることなく、現メンバーがセンターを務める「逃げ水」(卒業した大園桃子のパートは、同じ3期生の岩本蓮加が担当)や「夜明けまで強がらなくてもいい」「僕は僕を好きになる」「ごめんねFingers crossed」「君に叱られた」などを並べることで現在進行形の乃木坂46をアピール。また、神宮初日~3日目までは最後に披露する楽曲をおなじみの「乃木坂の詩」ではなく、3~5期生体制“はじまりの曲”である「人は夢を二度見る」にしたあたりにも、現メンバーの覚悟を感じることができた。さらに、5期生から4期生、3期生と期をさかのぼる形で各々の期別曲が披露されたあと、3期生から4期生、そして5期生へとバトンを渡すような構成を採る「設定温度」を披露する流れにも強い意味を感じ取ることができた。これは3期生が初めて参加した全国ツアー『真夏の全国ツアー2017』神宮公演での演出を、現編成で再現したと筆者は解釈している。あのとき、3期生が先輩から受け取った想いを、このタイミングに後輩たちへとつなごうとする。その姿勢こそが、乃木坂46そのものではないだろうか。
「設定温度」へと至るまでの構成以外にも、今回の神宮ライブでは印象に残る演出がいくつもあった。例えば、バラードアレンジが施された「シンクロニシティ」を、久保や中村麗乃を中心にソロ歌唱で歌いつないでいき、曲終盤ではメンバー全員でアカペラ歌唱をする演出に。そこから観客のペンライトを消灯させて、ステージ上の炎の明かりのみでメンバー全員で歌う新曲「誰かの肩」へと続く流れは、グループ初期から大切にしてきた「歌や言葉を目の前にいる人に届ける」姿勢を受け継いだものだと認識している。先輩たちが大切に歌い継いできた「シンクロニシティ」と、現編成による新たな重要曲になりそうな「誰かの肩」を並べるあたりにも、そういった思いを感じ取ることができるだろう。
この「誰かの肩」の曲中、中心に立つ井上のことを、温かく優しい眼差しで見守る久保や山下、遠藤や賀喜の表情も強く心に残っている。以前は末っ子的な空気感を放ち、先輩の齋藤や同期メンバーから守られてきた遠藤だが、この短期間で井上や後輩たちに対して「かつて自分がされてきたこと」を返している様を確認することができたのは、個人的には大きな収穫だった。そんな遠藤がパフォーマンス中に見せる表情も、強さや艶やかさ、繊細さがより際立つようになり、表現者としても飛躍的に進化していることが見てとれた。
同じことは、4期生の松尾美佑、5期生の中西アルノなどからも感じた。最新アンダー曲「踏んでしまった」で初センターに抜擢され、今回の神宮公演では同曲をフルコーラスで披露。そのスピード感含め、高難度なパフォーマンスの中心に立って統率を執る松尾の姿や表情は、公演を重ねるごとに自信に満ち溢れるものへと変化していた。最終公演のMCではそのプレッシャーを口にして涙する場面もあったが、今は彼女が座長を務める次のアンダーライブが楽しみでならない。そして、中西も曲中柔らかな表情が目立つようになったかと思えば、自身がセンターに立つ「Actually…」では表情作りや歌唱において、さらなる成長を遂げたことを確認できた。同曲のクライマックスで聴かせる彼女の、叫びにも似たフェイクは圧巻の一言だ。
もちろん、そういった変化や成長はほかの3~5期生からも、(大小の違いはあれど)しっかり感じ取ることができた。自分たちが乃木坂46を守る、自分たちが乃木坂46の未来を作る……そんな自覚が個々に芽生えたことが、座長の井上がMCで語った「私ももっと誰かの期待に応えられるような人になりたいし、もっと希望を与えられるような人になりたい。この乃木坂46が誰かの頑張る理由になれるように、頑張ります」や、山下の「ここに立てていない子(メンバー)もいるんですけど、全員で乃木坂46。歴史をつないできてくださった先輩方にも感謝しつつ、皆さんと一緒に新たな歴史を紡いでいきたいです」というコメント、そして、公演の最後に梅澤が涙ながらに発した「この4日間を乗り越えることが大きな試練でした。怖さも不安もあったけど、確実に成長につながりましたし、先輩たちのあとをしっかり受け継ぐことができたと証明したと思います。私たちが乃木坂46です!」というメッセージにつながった。そう考えるのは、想像に難くない。
かつて乃木坂46のファンだった少女たちが、今や憧れた先輩たちが誰もいなくなり、気づけば自身が乃木坂46を引っ張っていく側になっていた。先輩たちに認めてもらうこと、ファンに認めてもらうこと、いろんな困難を乗り越えた今、梅澤がどんな覚悟で「私たちが乃木坂46です!」の一言を“聖地”で叫んだのか。その言葉を涙しながら聞いていたメンバーたちは、どんな思いで観客と向き合っていたのか。その答えは今後の活動を通して、形となって現れてくることだろう。
間違いなく、今の彼女たちこそが乃木坂46。そう強く思わせるだけの説得力を、筆者は神宮4日間を通してしっかり受け取った。これは「再生」でもなければ「リスタート」でもない。2011年8月21日から始まった乃木坂46という物語の、決して途切れることのない「続き」なのだ。この先も紡がれていく旅の続きを、とくと楽しもうではないか。
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