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櫻坂46&乃木坂46「僕は僕を好きになれない/なる」 “正反対のタイトル”から読み解くグループの方向性

2024年10月19日 21時45分00秒 | 坂道グループ
こ~んばん~わ


 櫻坂46の新曲「僕は僕を好きになれない」のMVが10月4日に公開された。楽曲が解禁になり、まず最初に注目を集めたのはそのタイトルだ。同じ坂道グループの乃木坂46は2021年に「僕は僕を好きになる」という楽曲を発表しており、この正反対のタイトルはファンのあいだでも考察の的になった。

 櫻坂46の「僕は僕を好きになれない」は乃木坂46「僕は僕を好きになる」に対するアンサーソングという見方をすることもできるが、同時に両グループの音楽性や方向性の違いもそこには見えてくる。本稿ではこの2曲を起点に、乃木坂46と櫻坂46のスタンスの違いを考えてみたい。

 10月23日にリリースされる10thシングル『I want tomorrow to come』に収録されるBACKSメンバーによるカップリング曲「僕は僕を好きになれない」は、三期生の村井優が初めてセンターを務めた楽曲。同曲は乃木坂46の「不眠症」を手がけた河原レオが作曲を担当しており(「不眠症」は大貫和紀、高木龍一と共同作曲)、躍動感のあるメロディでMVでは櫻坂46のダンスパフォーマンスが強調されている。

櫻坂46「僕は僕を好きになれない」MV

 同曲は実に櫻坂46らしい。具体的な言葉にするならば、最初から最後まで未来に希望をもたせることなく、自らの心のなかで葛藤しもがいている。特に〈僕は僕を嫌いでいいのか?/生きる意味もわからなくなった/誰とも比較せず自分に自信を持てたら/もっと毎日がしあわせに思えるのに・・・〉という歌詞は同曲の主人公の心象がくっきりと描かれている。〈僕は僕を嫌いでいいのか?〉と自分に問いかけるが、まだその答えは見つからない。きっとこの曲の主人公は、自らを好きでいられることが幸せなのかもしれないということに気づいている。それでも変わることができない苦悩を表現することが、櫻坂46のオリジナリティなのだ。

乃木坂46「僕は僕を好きになる」MV

 一方、乃木坂46の「僕は僕を好きになる」では、まったく異なる主人公の心境が描かれている。Aメロでは主人公の感情に起因する〈嫌いな人〉や〈死にたい理由〉というネガティブなワードが散りばめられ、自己嫌悪に陥る主人公の気持ちが描写されているが、櫻坂46と決定的に違っているのは最後の締めくくり。〈今の場所 受け入れればいい/そんなに嫌な人はいない/やっとわかったんだ 一番嫌いなのは自分ってこと〉と現状を受け入れ、〈僕は僕を好きになる〉という前向きな決意とも言える楽曲タイトルへと帰結する。どちらの楽曲も共通点として“自分が嫌い”であることがテーマとしているが、後悔や葛藤を抱えたままの櫻坂46と希望で締めくくる乃木坂46と、明確な違いがあるのは興味深い。

 両グループによるスタンスの違いはいくつかの楽曲からも見て取れる。もっともわかりやすい例は、乃木坂46の代表曲「君の名は希望」(2013年)だろう。同曲では、孤独の中にいた主人公である〈僕〉が、〈君〉と出会い、恋する気持ちや世界の美しさを知っていくというのが大まかな物語であるが、〈未来はいつだって/新たなときめきと出会いの場/君の名前は“希望”と今 知った〉〈どんな時も君がいることを/信じて まっすぐ歩いて行こう〉と希望のある未来を歌っている。

乃木坂46『君の名は希望-DANCE&LIP ver.-』Short Ver.

 また、「いつかできるから今日できる」(2017年)も「君の名は希望」と近い希望の歌だ。部活動を描いた青春映画『あさひなぐ』の主題歌ということを抜きにしても、ここまでポジティブなメッセージを届けるのは乃木坂46というアイドルのスタンスが表れていると言っていいだろう。特に印象的なサビでは〈いつかできる(できなかったら)/そのうちに(今日だめでも)/もしも失敗したって/何度だって立ち上がればいい〉と失敗を恐れることなく、前へ進もうという力強いメッセージが歌われている。もちろん、一概に乃木坂46の楽曲はこうであると結論付けることはできないが、傾向としては“希望”がグループのひとつのテーマであることは間違いないだろう。

乃木坂46「いつかできるから今日できる」MV

 「僕は僕を好きになれない」をはじめ、櫻坂46は聴き手に対して安易に希望を提示しない。「隙間風よ」(2023年)では〈「でも 本当はそんな/ちゃんとできるような僕じゃないんだ/もっと僕らしく好きにやりたい/どうすりゃ許して貰えるんだろう?」〉という自分と他者の評価の狭間での葛藤や〈大した夢じゃないのに/見てなきゃいけないのかな/そういうフリするだけでも/自分が嫌になる〉と自己嫌悪の感情が綴られている。同じように「半信半疑」(2020年)では、恋愛における苦悩が描かれており、曲の主人公は誰にも干渉されたくないと言いながらも、心の内では誰かの存在を求めている。だが、恋愛の駆け引きにうんざりし、最終的には〈ああ 恋愛をするって 面倒〉と言い放つ。一般的なアイドルの楽曲であれば、「恋愛は楽しいものである」「恋愛は心を豊かにするものである」というテーマが歌われることも少なくないが、櫻坂46は恋愛のネガティブな側面にフォーカスするのだ。世のなかには必ずしも恋愛で幸福を感じている人ばかりではない。櫻坂46が歌う“苦悩”は、そういった人たちの希望になっている。

櫻坂46「隙間風よ」MV

 乃木坂46も櫻坂46もアイドルシーンを牽引するグループであることは言うまでもないが、「僕は僕を好きになる」と「僕は僕を好きになれない」を聴き比べてみると、“希望”を歌う乃木坂46、“苦悩”を歌う櫻坂46と改めてグループの特徴を理解することができるのではないだろうか。

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