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乃木坂46ら坂道グループMVから見る“渋谷再開発”の記録 「熱狂の捌け口」「サイマジョ」……映像が語る都市の変化

2024年09月15日 22時10分00秒 | 坂道グループ
こ~んばん~わ


 坂道グループのMVは、いつも“今”この瞬間を切り取ってきた。時間の流れの中の“一瞬”を切り取る写真とは違って、映像は連続された時間を映し出す。彼女たちのMVを見ていると、その時代の記憶が鮮明に蘇ってくる。

 現在、100年に一度とも言われる大規模再開発が進んでいる渋谷駅周辺エリア。坂道グループのMVでは2010年代から現在に至るまで、渋谷の移り変わりを記録してきた。8月に公開された乃木坂46の5期生楽曲「熱狂の捌け口」もそのひとつだ。本稿では秋元康プロデュースのアイドルグループのMVにおいて“渋谷再開発”がどのように描かれてきたのか、改めてまとめてみたい。

 秋元康が手掛けた楽曲で最も新しい渋谷の再開発を収めているのが、先述の乃木坂46の「熱狂の捌け口」である。メインのダンスシーンが行われているのは、現在工事中の渋谷・東急百貨店本店の跡地。1967年(昭和42年)に開業した同ビルは、渋谷を代表する百貨店として多くの人々に愛された。しかし、建物の老朽化を理由に2023年1月31日をもって閉店。そして、「Shibuya Upper West Project(渋谷アッパー・ウエスト・プロジェクト)」として再開発が行われている真っ只中だ。まさに渋谷の今が記録されたMVとなっている。

乃木坂46『熱狂の捌け口』

 コンクリート剥き出しのビルの中で妖艶な表情で踊るメンバーたち。階段やエレベーターなど、以前までの形跡を残している場所を効果的に取り入れつつ、最後にはおそらくドローンを使った引きの映像から、渋谷東急本店の跡地を起点に渋谷駅へと続く文化村通りを映し出していることからも、渋谷再開発の今を映像に収めるという吉川エリ監督の意図が見えてくる。

 渋谷再開発を映し出したMVとして、最もセンセーショナルだったのは欅坂46の「サイレントマジョリティー」(2016年)だろう。欅坂46のデビュー曲でありながら、大人たちからの抑圧に抵抗する若者の自我を歌った楽曲は、当時のアイドルシーンを大きく揺るがせた。「サイレントマジョリティー」のMVが撮影されたのは、旧東急東横線渋谷駅ホームの線路跡地。現在で言うところの渋谷ストリームがある場所である。当初は安全面の問題などから撮影許可が降りなかったというが、東急電鉄から許可を受け、工事休止期間に撮影が行われた。線路の跡地のみならず、渋谷駅のホームで踊るメンバーの姿や、渋谷川に架かる稲荷橋(2018年の再開発により当時とは変わっている)が登場し、移り変わる渋谷の変化が記録されている。

欅坂46『サイレントマジョリティー』

 同年にリリースされた欅坂46の2ndシングル収録の平手友梨奈のソロ曲「渋谷からPARCOが消えた日」は、一時閉館が予定されていた渋谷PARCOが舞台。再オープンとなる2019年に18歳を迎える平手が抱くであろう決意が歌われており、歌詞と映像がリンクしている。渋谷PARCOは20世紀渋谷カルチャーの代名詞的存在であり、渋谷を語る上で欠かせない聖地だ。2019年11月22日に「渋谷 パルコ・ヒューリックビル」としてリニューアルし、現在は印象的な赤・青・緑のロゴを見ることができない。欅坂46の初期を彩った「サイレントマジョリティー」、「渋谷からPARCOが消えた日」は2016年の渋谷の移り変わりを記録した貴重な資料ともなっている。

欅坂46 『渋谷からPARCOが消えた日』Short Ver.

 欅坂46が櫻坂46と改名してからも、グループはMVで渋谷の変化を敏感に捉えてきた。櫻坂46の1stシングル『Nobody's fault』に収録されている山﨑天のセンター曲「Buddies」のMVには、2020年に複合商業施設として生まれ変わったMIYASHITA PARK(ミヤシタパーク)が登場している。誰もいない早朝のMIYASHITA PARKで円を組んでダンスをするメンバーたちを、ドローンを駆使したカメラが捉えた映像は迫力満点。MIYASHITA PARKのオープンと時を同じくして、再スタートした櫻坂46の決意を感じるエモーショナルな映像だ。

 2ndシングル『BAN』に収録されている藤吉夏鈴のセンター曲「偶然の答え」で描かれている渋谷の風景は少し特殊だ。東急プラザ渋谷の屋上テラスに佇む藤吉が「あの頃の私は、自分ではない誰かになりたいと思っていた」という独白をするところからMVはスタート。ここでは渋谷は“自分はない誰か”を模索する場所として象徴的に描かれる。

櫻坂46 『Buddies』

櫻坂46『偶然の答え』

 乃木坂46でも、スクランブル交差点で撮影された「Wilderness world」や2022年に閉店したBershka 渋谷店でのダンスシーンが印象的な「夏のFree&Easy」など、渋谷の街並みがたびたび登場してきた。中でも齋藤飛鳥のラストシングルとなった「ここにはないもの」のMVでは、リニューアルされた東京メトロ銀座線の渋谷駅のホームが象徴的に描かれている。これまで乃木坂46では1stアルバム『透明な色』のジャケット写真に東京メトロ千代田線・乃木坂駅のホーム及び改札口が使われたことはあったが、駅構内のホームでダンスシーンが撮影されるのは同曲が初めて。時代とともに変わりゆく渋谷とリンクするように、乃木坂46もこの10年間で変化してきた。そうした時代の変化を楽しめるのもMVの魅力だろう。

乃木坂46 『Wilderness world』

乃木坂46『ここにはないもの』

 MVがその時代を映し出しているのと同じように、秋元康が手掛ける楽曲も、その時代の今を反映してきた。例えば、ドラマ『ポケベルが鳴らなくて』(日本テレビ系)の主題歌となった国武万里の「ポケベルが鳴らなくて」(1993年)では、当時流行していたポケベルが2人を繋ぐツールとして用いられ、櫻坂46の「BAN」(2021年)のタイトルは、ネット界隈でスラングとして用いられる“垢BAN”からきている。乃木坂46の「チートデイ」(2024年)では、ダイエット中に好きなだけ食べてもいいという日のことで、特に若い世代の間で使われる“チートデイ”をそのままタイトルにしている。どれも時代を代表する言葉ばかりだ。秋元康の楽曲には、そして坂道グループのMVには、その時代の流行を楽曲に落とし込む“秋元康イズム”が色濃く反映されていると言えるだろう。

 渋谷の再開発は現在も刻一刻と進んでいる。坂道グループはこれからも渋谷の変化を鮮明に刻んでいくことだろう。10年後、その映像を見返した時に、きっとそれは当時の空気を濃密に捉えた貴重な映像となるのだ。

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