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掌の小説0044 MAXMARA

2021-03-06 13:21:57 | 小説

掌の小説0044 MAXMARA

 

「マックスマラ(MAXMARA)がオッケーならマックスマンコ(MAXMANCO)だって当然オッケーだろ」

 

「オッケーだろ」

 

「あんたの店の、商標かなんか知らんが、丸に『レ』ね、どっかの高級車の印しみたいで、まずいんじゃねぇ」

 

「どこが。丸ん中に《煉瓦屋》の『レ』、当然オッケーだろ。まずい。気分悪いね。うちは食堂だぜ」

 

(オッサン二人の遣り取りを思わず立ち聞きしてしまった若者のひそかな呟き)

 

…………『マックスマーラ』だし、あれは『レ』じゃねえっつうの。それに『マラ』ってなんだよ。知らねぇよ、そんな日本語。…………

 

(了)


掌の小説0057 女と男(六)「もう会えない」

2021-03-04 12:51:21 | 小説

掌の小説0057 女と男(六)「もう会えない」

 

「もう会えない」

 

女の気持ちは分かる気がした。分からないような気もした。分かりたかったのかも知れず、分かりたくなかったのかもしれない。

 

ぼくには君に会うより靴の中心線を決める方が重要なんだ、だから君とはもう会えない、そんな風に女に別れを告げた職人人生まっしぐらの青年を想い起こしていた。

 

週に一度くらいだろうか、ふと、会いたい、という思いに駆られることはあった。女との結びつきはそれ以上でも以下でもなかった。

 

(了)


掌の小説0046 懐かしいサバトラ

2021-03-01 12:06:22 | 小説

掌の小説0046 懐かしいサバトラ

 

「おい、ネコすけ、元気でやってるか」

 

道端で毛づくろいに忙しい馴染みのネコすけに声をかけてみた。名前は知らない。

 

 動きを止め、瞬時、横目で私を見上げた。

 

 と、もう毛づくろいに精出していた。すぐ傍らを歩きすぎる私など一向お構いなしだった。

 

(了)

 


掌の小説0056 「視力」

2021-02-17 15:43:57 | 小説

   掌の小説0056 「視力」

 

……健康診断の視力測定では2.0だが、視力の《よさ》はそんな在り来たりの手段で把握できるものではない。

例えば、ごく近距離、目の前三十センチのところに微小な文字を特殊印刷した紙を広げる。よい視力でもせいぜい黒い点にしか見えないはずの針の穴の数分の一ほどの画数の多い漢字さえ読み取れる。つまり、三十センチの距離で相対したとき、相手の顔の産毛の太さも長さも向きも毛穴の大きさやそこに溜まった汚れも未だ兆しに過ぎない吹き出物も、日々鏡で確認することを怠らない本人さえ気付かぬ皮膚の恐るべき状況が、顕わになる以前の窪みもしわも染みや黒ずみも、華やかに過ぎる化粧という仮面の普通の視力でも見落としようのない色むら、塗りむら、塗り残しはもちろん、化粧面のあるかなきかのひび、ゆがみ、凹凸、浮き上がりなど、美しさとは別次元の微細な物理的状況がすべて見えてしまう。こんな視力、というより眼力の主にとって女の化粧はできの悪い無様な極薄の仮面でしかない……。

隣のスツールに坐っていた女が私の方にもたれかかり。さきほどから私が鉛筆で書きなぐっているペーパーナプキンを覗き込むと、

「そんなに目がよかったんだ。高校生だものね。幸せにはなれないかもね、きみ」

昼は美人銀行員、夜はスナックの雇われママをしている、何となく付き合っていた年上の女に言われた。

 

(了)


あの世

2020-10-14 20:54:33 | 随想

あの世

 

 

 《聖なる戦いに倒れた私》を待つはずのあの世の様を想う。

  

ラァ、トゥ ネ コルドル エ ボォテェ
の地、なべては調和と秀麗)
リュックス、カルム エ ヴォリュプテェ
(豪奢に静寂、また悦楽)

 

( L'invitation au voyage 朗読(82秒)を聴く(MP3) )(litteratureaudio.com)

 

   しかし、一抹の不安。

  

   この世は苦痛に過ぎるが、あの世はきっと退屈に過ぎやせぬか。

  

   美味と官能の永遠、美しき乙女らにかしずかるるこの世のものならぬ佳肴かこうの数々を満喫し、たおやかなる乙女らが舞い奏づる甘美きわまる歌舞音曲を堪能せねばならぬ永劫。ほどなく倦怠と止めどなき肥満に見舞わるるに違いなき日々。

 

   それとも、朝、目覚むると、過ぎし日の記憶はすべて失われており、あらゆる悦楽は日々新たに感ぜらるる永劫こそあの世なのか。

  

   あの世にちょっと注文。

  

   美しき乙女、大いに結構だが、私の好みはどちらかというとうら若き人妻、それも細身がいい。無論、美形でなくてはならぬ。「一盗二婢三妾」の王道を歩む私なのである。

  

   食卓には是非うまい刺身が欲しい。むろん魚だ。それと魚の煮付け、大の好みは「ブリかま」だ。飲みものは極上の吟醸酒。

  

   《聖なる戦い》に身を捧げるのだ。この程度の注文をつけても罰は当たるまいさ。 

 

 

(了)