【Ⅲ】 欠陥の隠蔽と原子炉の破損
(6月に東京電力が撮影した、事故後の第一原発4号機の建屋内)
――原子炉の破損は津波以前?
そう。地震の直後、津波が来る前に第一原発から避難した作業員が、その後も第一原発には入っていないのに、ホールボディーカウンターで何千カウントとか、何万カウントという値が出た。そういうことを考えると、地震のときに、相当量の放射性物質が漏れていたんだろうなと、推測ができる。
――あの事故は想定外か、想定内か?
想定内だと思う。
ただ、いきなり4発も爆発するとは思っていなかったけど。
ある程度、原子炉が壊れて、ちょっとした放射能漏れがあるとか、そういうことは当たり前にあると思っていたから。
検査業務をやっているときにも、だいぶん改竄した書類をだしているんで。
――どうして改竄を?
東京電力からの命令。
欠陥があった部分について、東京電力は全部知っている。全部報告しているし、正確な書類も提出している。でも、通産省(当時)に提出する書類は、欠陥がなかったことになっている。
――欠陥とは?
溶接面のクラック。ヒビだね。溶接した場所というのは、応力がかかる。捻れとか、揺れとかの力。溶接面は、熱も加わっているから材質も変わっている。真っ平らになるわけではない。配管の内側の溶接リードが盛り上がる。そうするとそこの水流が乱れて、溶接面の付近が掘られたりする。その水流の乱れでガタガタ揺れる。そうすると揺れの力というのは、応力に変わって、溶接したリードに一番かかる。そうするとそこにヒビ割れが出てくる。
定期検査でそういうのを探している。で、すぐに直せるものは、すぐにやる。ちょこっと切断して、新しい配管をぽんとつけられば終わりというのはすぐやる。
でも、その回の定期検査中に間に合わないもの、例えばその配管を切るためには、原子炉の中の燃料をどかさないとならないとか、水をぬかなければならないという作業が関わってくると、その工事だけで何億円、何十億円とかかってしまう。原子炉が止っている期間も延びる。であれば、隠した方が安くあがる。
ものすごい重要な部分でもある。冷却水を通す配管なんかでも。そういうところの方が多い。直せないから。それをやるとなったら、大規模な工事になってしまうから。
いつでもパイプをスポッと切って直せるような所はすぐにやってしまう。メーカー(東芝や日立)もやっぱりお金になった方がいいから。だから、「これは直した方がいいです」という。で、工事に入れば、メーカーの収入になるから。メーカーは進んで直すようにする。
ただ、東京電力側のコストが問題になって、「そこまで予算がないから、これは今回はやらない」となれば、メーカーはもうなにも言えない。
メーカーと東京電力との関係はそういうもの。そこから金をもらっているわけだから。
俺ら(メーカーの下請けの作業員)は、東電さんといわずに「お客さん」といっていた。雇い主と社員の関係ではない。発注者とメーカー。だから余計、強いよね、向こうは。
――改竄とは具体的には?
修復した物に関しても、「欠陥があって、こういう風な修復をしました」と報告するよりも、最初から「欠陥がありませんでした」と報告した方が楽。修復した物についてもね。
通産省に一々「こういう欠陥がありました」 「なぜこういう欠陥が起きたか」という報告書まで添えて出さないいけない。それをやるんであれば、修復した後に、「何もありませんでした」という書類を出した方が楽なんだ。東京電力にとっては。
まったく欠陥がなかったというのもあんまりにもウソ過ぎるので、ある程度、あまり重要ではないところを出しておく。で重要な部分は出さない。
報告といったら自治体にも報告しないといけないわけだから、「原発は危ないよね」となったら困るんでね。
それから、なぜこういう欠陥が出たのかという原因究明の書類を出すのも面倒臭いので、東京電力には、「欠陥がありましたよ」という書類は出すけれども、それ以上(通産省)には「欠陥がなかったよ」という書類になる。
そういう書類もずいぶん書いた。2つの書類をつくらされるということ。俺の方は仕事量が増えるだけ。
――もし遠藤さんがバラしたりしたら大変では?
でも証拠がないからね。手元に書類があるわけではないから。2つの書類を書いているという証言をしても、俺はそれを証明しようがない。そこでビデオを撮っていたわけでもないし、その書類をコピーして取っているわけでもないから。
いざバレたとなれば、メーカー側がやったことになる。東京電力は「私たちにはこういう書類しかあがってきていません」。
その書類を書いているのは、メーカーだから。「東京電力の指示でやりました」と言わない限り、「メーカーがやったことです」で終わり。
その代わり、罪を被ってもらう代わりに、来年は東京電力からメーカーに「もう少し多く発注を出すから」「単価をあげていいから」。その程度だと思う。
――書類の改竄は誰から?
会社の上司から。「この前、検査したヤツあっぺ。そいつ、こうこう、こういう風に書いてなあ」って。「はい、はーい」って普通に。
そのときは、俺もまだ若かったんで、「おかしいよな。これこの間、書いた書類だよな」って思いながら、従うしかなかったし、そのときは、そこまで深くは考えなかった。
ちゃんと図面まで書いてね。最初に出すときは、「こういう配管があって、ここに欠陥があって」と書くんだけど、それを全部「欠陥はなかった」という図面にしてしまう。
そういう書類は山ほど書いた。だから、そんなもの何千件、何万件もあると思う。全国の原発で、山ほどある。
――地震の衝撃で配管が破断したということか?
そう。何年か前に震度5強の揺れがあったときも、結構のダメージがあった。新潟の地震でも、あっちこっちがやられた。
配管を支えているサポートは、アンカーを打ってネジで留めている。地震の揺れで、アンカーごとぬけちゃったとか、配管が揺れて、サポートごと持って行かれちゃったとか。そういうのはたくさんあった。震度5強ぐらいで。
そのあと、結構、修理に入ったから。壁にヒビが入っていたとか、ヒビはそこら中にたくさんあった。
だから、今回の震度6強だったら、相当、やられちゃうだろうなと思った。揺れている時間も長かったし。
「揺れで原子炉のどっかがやられたんだぞ」という話を聞いて、「あー、それは、おかしくはないな」と。データ的なことがどうのこうではなくて、現場の状況としてね。
だって、地震のときに、津波が来る前に逃げちゃった人だって、みんな体内に放射性物質が大量に入っているということは、どっかしらが壊れて、漏れ出さないと、そんなことはありえない。
自分に与えられた仕事を責任を持ってきっちりとやるというやっぱり責任感もあって、誇りもあって、やっていたから、自分の仕事が直接、事故に結びついたかというのは、俺はそうは思わないけど、ただ、全体で考えると、事故に結びつくような状態だったんだろうなと思う。
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