美男子俱楽部

※単行本はBOOTHにて発売中。

神である

2022-08-28 | エッセイ

 最近、と云うか、随分前からのことなんだけれども、神、という言葉をよく耳にする様になった。不思議なのは、神といえばと云った処で、イスラム・キリスト教などと云った、所謂宗教が俺周辺で俄に流行り出したのかと思えばそうでは無く、何となれば、甚だ良い事・ラッキイな事、凡ゆる僥倖に自身が遭遇した際に、その歓びを極めて軽い調子で、神っ、と発音し表現・表白を済ますと云うのである。たとえば「昨日、スーパーマーケットへ行ったらウインナーが半額で神だった」などと云った感じで濫用するのであるのであるのである。

 なめておられるのであろうか。なにが神だ。おまえごときの卑小な歓びを神様で形容するなこの恥知らず。神様を真剣に拝んで居られる世界の人民各位に謝れこのだほ。謝ってから馬車に轢かれて地獄へ堕ちろこの成金豚野郎。と、考えるまえに考えて見ると、この神の尊厳を犠牲にした表現・表白の方法は、使用者が幾許か阿房に見え多少の尊厳・風格が失われる他は、意外にも利点があるのであって、それは何かと云えば、正に神をも圧倒するその便利さである。コンビニエンス。素晴らしいね。便利は最高。神。

 この簡便さにかまけて、逆に、宜しく無い事・不幸な様を、邪神、あたりと決め今日は随筆を書いてこましたろ、と愚考するのである。

 

 8月14日。

 今日は仕事が午前中に終了し神だった。神だったので、同僚の銀次君に「おいっ、今日は仕事が早く済んだ。折角だから、此れから他出し楽しまぬか」と声を掛けた処、「何の因果で貴様の様な山葵を尻に塗った後の様な低俗な人間と出掛けなければならぬのだ」と一蹴され邪神な気持になったがしつこく懇願した処「依然、お前と二人で出掛けるのは猛烈に厭であり耻じるべき事とさえ思うが、もし勝股も此処に来るのなら行ってやってもよいぞ」と云うので、大先輩である勝股を電話で勧誘、休日の処結果来れると云うので、神だなぁと思いつつ我が車で三人、鎌倉へ行く事と為った。

 道中、車の中は大変に暑かった。と云うのは、冷房が故障しているのであって、本来冷風が出るべき処から温風しか出ぬ有様で、まったく以て邪神としか云い様が無い。そのうえ、やっとこさ到着した鎌倉周辺は何処もかしこも駐車場が混雑しておりこれも邪神かと思い掛けたが、偶さか見付けられた比較的安価な駐車場に車を停められたので、結果としてはここは神と云っても遜色が無いと思われるのである、実際は。

 慈悲深き神たる駐車場で下車、途中神たる甘味処へよりつつ神たる鎌倉駅に到達した処で、俺達は迷うた。此処から大仏を拝見しにゆくか、それとも海へ出るかと云う問題に直面した為である。俺としては、是非とも大仏を拝見したかったのだけれども、銀次君の調べたところに依ると、大仏は16時以降は閉業するのであり現在すでに17時を回っておるので拝見する事は出来ぬと云うのである、大仏のくせに何たるけちな性分かっ。慈悲無いんか。この邪大仏が。と、邪神の気分で。

 仕方が無いので海へ出向き、しかし矢張り海というのは何時来ても神だなあ。夕日が奇麗だなあ。神だなあ、と思いつつ砂浜を散策して居たら地元のヤンキーと覚しき連中が散発した花火で服が焦げ、穴があいて一気に神から邪神へと化した俺は自分が神に為るために他人を平気で邪神にする邪悪窮まり無いこの悪党共に復讐を誓いながら食べた晩飯の羊肉と鎌倉野菜のあまりの美味しさに加え勝股の奢りといった処で復讐などと云った無益な事は二度と考えない事にしたその慈悲深さのあまり再び神として狂い咲いた帰路で警察に不審尋問を受けて邪神だったなぁ。

 

 と云った随筆のあまりの詰まらなきに泣きて三歩あゆまず。


新刊発売のお知らせ

2022-08-08 | お知らせ

詩・随筆集「芸術狂」を刊行しました。

作品の取り扱い・販売はBOOTH上のみで行います。

觜川昷、初の詩&エッセイ集。

何故俺はこのように美男であり風雅であり「芸術狂」であるのか。それに比して、君たちと来たら、なんという体たらくたるや、へっ、あっ俺チキンカレー。

(「BOOTH」より)

 

【第一章】0.5故郷

【第二章】塵も積もれば山となるまえに散る

【第三章】〈再録〉地獄を見たくば汝、人間に献身できぬとせよ

【第四章】超現実的履歴書 1999年〜2022年

 

美男子俱楽部Ⅰ~おめぇ、猿みてえな人間だな~

「独り、恐慌」

「路上ライヴ(表現の極意・体現者)」

「君、変わってるね」

「トイレットの地獄」

「申し上げれば自滅」

「農業に勤しむ訳は」

「おめぇ、猿みてえな人間だな」

「モノホンのシャヤク」

「やけになる度胸」

 

「芸術狂」(私家版)

觜川昷 著

二〇二二年七月三十一日刊行

一〇〇部発行

A6判/文庫本版(105mm×148mm)

 

 

芸術狂 - 觜川 昷 - BOOTH

觜川昷、初の詩&エッセイ集。 何故俺はこのように美男であり風雅であり「芸術狂」であるのか。それに比して、君たちと来たら、なんという体たらくたるや、へっ、あっ俺チキ...