少しだけ One for All

公的病院の勤務医です。新型コロナウイルスをテーマの中心として、医療現場から率直に綴りたいと思います。

対岸の火事じゃないこと (上)  ーー大きな龍を目覚めさせるためにーー

2021-05-01 01:08:17 | 日記
 よく考えてみると、病院に勤務している医療者は、それこそ日常的に患者さんに触れています。そこから怖さも学びます。
 ところが、一般社会では、日常的に感染者が周囲にいたり、そのことで亡くなった人がすぐそばにいるということはまだ稀でしょうか。身の回りに具体的な悲劇がないため、現実感が遠のいたままで、対岸の火事を見ている気分をまだ保持し続けていられるのかもしれません。考えてみれば、ある意味、それは幸せな環境です。これまでの感染対策が成功していたからこそ得られている環境です。
 
 でも、ひたひたと差し迫って近づいている音が、そろそろ大勢の人に聞こえてきているのではないでしょうか。近畿地方では、すでに自宅待機者から死者が出ており、悲劇的な状況です。高齢者はクラスターが発生した施設にとどめ置かれ、まさに「70歳以上には気管挿管処置(人工呼吸器で治療すること、いわゆる重症治療)はしない。」という対応が現実になされているように見受けられてしまいます。
 
 ちょうど私のいる地域が、まさに今、感染者数が急速に増えています。感染者のほとんどが変異株です。その勢いは凄まじさをも感じるものです。
 この変異株は凄まじいです。この先どうなってしまうんだ?と先行きへの強い不安を感じさせます。レベルの全く異なる強いウイルスが来た、という印象です。この印象は、コロナ患者に関わっている医師すべてに共通する印象だと思います。
 
 私の地域では、この変異株の感染者増が始まった2週間前に何かしていたかというと、聖火リレーでした。もちろん原因を聖火リレーに特定する根拠はありませんが、聖火リレーの行程を辿るように、それぞれの市町村に感染者が出だしました。仮に聖火リレーが関係しているとなると、屋外でも感染が広がる、そうした強い感染力を持っているということになります。そう考えれば、現在の感染者数の急増も納得がいきます。
 
 そして、マスコミ等でも報じられているように、若年者に広がっています。私の勤務する病院の入院患者も、年齢層が以前よりぐっと若くなっています。
 そして、若年者に広がっているだけでなく、肺炎にもしっかりとなっている人が多くいます。入院となるのは、肺炎像がある人に限られています。入院患者の年齢層が若くなるということは、これまでなかった高い割合で、若年者にもしっかりと肺炎像が出ている、ということです。
 
 そして重症化です。
 これまでも、一旦重症化のスイッチが入った時の凶暴さは信じられないものがありました。それでも、従来株のスイッチはまだ気まぐれだったな、と思わせるくらい、この変異株は、無秩序に、粗暴に、あらゆる年代にスイッチを入れまくり、全方位で牙を剥いて暴れまくる凶悪さの印象があります。感染力が強いだけでなく、凶悪さも一級です。
 
 今、かつてない危機が迫ってきています。行政や国家機関には、どうか近畿で起きていることを、きちんと直視してもらいたいと思います。もはやこれまでのような、場当たり的な医療の対応では限界であることを、目をそらさずに認識しないといけないのです。現状ですでに「70歳以上には気管挿管処置(人工呼吸器で治療すること、いわゆる重症治療)はしない。」という、年齢で患者をトリアージするという医療崩壊がおきているのですから。きちんと現実を直視して、変えなきゃいけないと強く認識して欲しいです。今から始めないといけません。
 
 そのためには、今は眠っている大きな龍に目を覚ましてもらわなければなりません。私の考えるところ、それ以外に、この変異株の爆発に対応できる方法はないです。今は高齢者を犠牲にしています。百歩譲って、それでベッド確保ができているかもしれません。でも、それが姑息的な手段と思えるくらい、この先ベッド数が圧倒的に足りなくなります。このままでは、その高齢者の犠牲ですら何の役に立たなくなってしまうのです。
 
 どうか次の(下)にも目を通していただきたく思います。なんでこんなにしつこく大学病院にこだわるのか、わかっていただきたいと思っています。お時間のある方だけでも、どうかよろしくお願いします。
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