未来を拾いに

aikoのことしか頭にないひとのブログ

「ONODA 一万夜を越えて」

2021-10-09 22:26:09 | 映画

昨日より公開。TOHOシネマズ西新井に見にいってきました。
感想を書いておきたいと思います。ネタバレがあるので注意だぞ!

でははじまりはじまりー

 

とてつもなくヒマな週末なので、なにか映画やってないかな?
というくらいな感じで映画館に足を運んだのですが、いい映画でした。
重厚で硬派で、いろいろ考えさせられる映画でした。
ひさしぶりに、アニメじゃない、映画らしい映画をみたなあという感じ。

「ONODA」っていうのは、小野田寛郎陸軍少尉のことです。知ってますね?
知らないひとはGoogleかなんかで検索してください。
戦争でフィリピンの島に送られそこで終戦を迎えたが、戦争は終わったとはきいてません、
やめていいという命令も受けてません、というのでその後も30年間ゲリラ戦を展開しつづけ、
1974年に日本に帰国するという、あの小野田さんの話です。

「実話をもとにした映画」なので、大まかなストーリーは織り込み済み前提で見る映画ですね。

3時間という長さで、そのほとんどは密林ジャングルのシーンっていう、地味で単調かと思いきや。
全くそんなことなく、中だるみも「長い映画だな」と感じさせられることもない、濃密な3時間でした。


そうですね、まず役者さんがみんなよかった。

特によかったのが、陸軍中野学校の上官の少佐を演じたイッセー尾形さんですかねぇやっぱり。
このひとは独特のクセがあるんですが、それがいつもいい味を出していますよねぇ。
このひとが小野田少尉に帝国陸軍の、秘密の特殊部隊としてのすべてを叩き込み、そして、
最後の戦闘停止命令を下命して小野田の戦争を終わらせる重要キーマンなわけです。
すごくよかった。

「重厚で硬派」って書きましたが、約30年間の戦いのその理由やら背景やらにも無理がなく。
次々に仲間が減っていくわけですが、濃すぎる味付けというか悲壮感というかおセンチすぎる演出とかもなく。
なんていうんですかね、丁寧だけどやりすぎないちょうどよい塩梅みたいなところも素晴らしかったと思います。

「死亡フラグ」とはよくいったもので、この手の映画はここに臭みがあったら途端に萎えるじゃないですか。
それを感じさせなかったのもよかったと思います。

ゲリラ戦を初めて20年目くらい?ですかね、いろいろあって仲間が減って2名になってしまい。
それでも作戦を続けているわけですが、その作戦目的は結局なんだったんだっけ?というところで、妄想の世界情勢で盛り上がるシーン。

映画館の中の現代日本人たちから見たら滑稽なのですが、どことなく切なさもありました。


・・とはいえまぁほとんどはジャングルの中での孤独な終わりなき戦いのシーンだったので、
特筆できるようなところはあまりないですかね。なので「詰め込みすぎ」感もぜんぜんなかったですね。


いちばんはやっぱり終盤のシーン。

戦闘中止の命令を下命する谷口少佐、直立不動の小野田少尉。

この映画は、やはりこのシーンがクライマックスですよ。

映画館の中の現代人にとっては、ある意味で滑稽なシーンのはずだ。
戦争はとっくの昔に終わっていて、東京オリンピックがあって、新幹線や首都高速ができて、
カラーテレビもできて、アポロ11号で人類が月に降り立っている模様が衛星中継されて・・・っていう。
この、小野田さんが帰国した1974年といえば実は私が生まれた年でもあります。

しかし彼の中では、1945年では戦争は終わっていない。
が、今、それをその「儀式」をもって終わらせようとしている、っていうシーンだ。

ここまでの時間を小野田少尉とともに過ごしてきた私も含む映画館の中のひとたち、
しかもみんな日本人なわけですよ戦後世代であっても。やはり彼に感情移入してしまいます。


作戦中止、戦闘停止、武装解除の命令が下命されたのち、玉音放送のテープレコーダーのスイッチを押す鈴木青年。

よく聞くあれですね、「堪え難きを耐え、忍び難きをしのび・・」ってやつだ。

多くの日本人はこの玉音放送をもって戦争を終わらせたんだとおもうのです。
これがこのシーンで流されるわけだ。

・・この一連のシーンはグッときました。

セリフは少ない。ただ、ただ、「儀式」的にこのシーンが続く。

「ご苦労様でした。ゆっくり休んでください」深々と礼をする谷口少佐。
ヘリに乗り込んでルバング島を飛び立つ小野田少尉。
その目には30年の月日を過ごした島の光景が眼下に広がる・・


というところでエンドロールへ。

そう、ここから先、小野田少尉を待ちうけているのは「最後の日本兵」が帰国した!
彼はどんな思いで30年を戦い続けたのか!
どうです、小野田さん。日本の戦後復興ぶりは!すごいでしょう!びっくりでしょう!
っていうね。日本列島の狂騒曲であることは有名な話です。

現代の浦島太郎、といいますか。
タイムマシンで戦国時代のサムライが現代に来た!みたいなもんだったでしょうね。
そういう映画よくあるじゃないですか。武士がエスカレーターとかみてびっくりするやつ。

映画としてはそこも含めての「小野田」の物語のはずであり、ある意味おもしろおかしいおいしいネタではあるはずなのですが。

監督は日本人ではなくアルチュール・アラリ監督っていうフランス人の監督。
このフランス人監督はここまで(小野田がルバング島をあとにするまで)でこの映画を終わらせます。

そこで終わらせたのは、その先も見てみたかったような気はするものの、やっぱりそこで終わらせたことがよかったとおもう。

戦争の映画はいままで数々みてきましたが、
どうも日本人の描く日本の戦争の映画はやっぱりどうしても反戦か美化のどっちかに必ず偏るんですよ。
そういう臭みを感じなかった映画を私は今までひとつも見たことがありません。

その意味ではこの映画はそういう臭みが全くなかったのがすばらしかったと思います。
戦争がどうこうではない、日本がどうこうではない。「ONODA」を描いた映画でした。

アラリ監督のインタビュー記事を何本か読みましたが、日本人がどうこうではなく小野田を普遍的なドラマとして描きたかったと。「小野田は日本人だからこうした」とは描いてないっていうんですね。
私が偏りとか戦争モノ独特の臭みを全くといっていいほど感じなかったのは、「日本人だからどうこう」の感情を入れてないから、そこがよいのかも知れません。

この映画は「ONODA 一万夜を越えて」という題名になっていますが、「一万夜を越えて」は余計ですね。
「ONODA」でいいじゃん。とはすごく思います。そこが少し残念。


見るひとを選ぶ映画と思います。★は4つくらいにしときますが、繰り返しますがいい映画です。

★★★★☆



では、また。