ある日のコンベンションホールのアトリウム。市内に在る高校書道部の作品展に出くわした。
揮毫(きごう)してあるのは、自作の短歌。50点ほどあったろうか。気に入った歌を、4点書き写す。
今入れた麦茶のグラス結露する速さで高二の夏を占う
色褪せた剣道防具しまう時夢の後先自分に問うた
僕の名を祖父が忘れてしまうほど時の流れは人を待たない
ブーケトス任されたって結婚の幸せの意味まだわからない
最後の歌が一番好きだ。完成度では一首目だろうし、二首目の上の句の静謐な感じも捨てがたい。
だが、四首目の一切の理屈が無くて苛性に読み下した若さの勢い。口語の軽みがそれを引き立てている。
「わからない」ことの潔さとともに、(いずれ?)「わかる」ことへのとまどいを感じる。
、、、三首目を本歌取りして私の一首。
「逆縁(ぎゃくえん)の後に呆けし祖母「母に似てゐますね」と問はれし病室(新作)」
子(私の母)に先ただれて10余年後に、祖母が(お見舞いに行った)孫の私に発した言葉。(もちろん「母」とはいわずに母の名前を言ったのだが。)
私は我慢できずに、病院のトイレに籠もって涙をポロポロと零した。
不尽