●地蔵と老婆
慌てて車内に戻ってきた私に、妻は怪訝そうな顔をしたが、すぐに事情を察したようだった。私は車を発進させると逃げるようにその場を離れた。右手に宇曾利山湖を見ながら、むつ市に向かう道路をしばらく走った。陽は沈みきり、辺りは闇に包まれ始めた。さらに小雨もふり始めた。やがて前方に今夜の宿泊先に向かう林道の分岐が見えてきた。
温泉宿へはこの分岐点を左折し、未舗装の林道に入っていく。初めての林道なので様子が全く分からない。「長雨で道路の状態は大丈夫なのか」「無事に旅館にたどり着くことが出来るのか」様々な不安がよぎる。おまけにいやな胸騒ぎが始まった。
フロントガラス越しの視界の中に、涎掛けを掛けた石地蔵の群れと風車が見えた。ヘッドライトの灯りに浮かぶ地蔵の顔が不気味であった。三叉路の一角に地元の人がお参りでもするのか、石地蔵が数十体ほど置かれていた。
その時、石地蔵の群れの中に白い人影が見えた。「まさか!」背筋が凍りつく。私は車を減速すると左にハンドルを切った。ハンドルを切りながら地蔵のほうを見ると、何とそこには正座をした一人の老婆が・・・。白い着物に首から数珠を掛け、白髪を振り乱し、恨みに満ちた眼をした凄い形相で私達を睨み付けているのだ。そして悪いことにその老婆とまともに眼が合ってしまった。人間の眼光にはない、妖しい光が私には感じられた。
当時の私は視力が左右2.0で動体視力にも自信があった。見間違いではなかった。私は助手席の妻に「見たか?」と声をかけたが返事がない。妻は恐怖のあまり声を失い、無言で顔を上下に振っていたのだ。私達は凍りつくような恐怖で、後を振り返る余裕も無く一目散に林道へと走りぬけた。
降りしきる雨と真っ暗闇の林道は手ごわかった。しかし車が四輪駆動車だったので、なんとか走りぬけることが出来た。温泉旅館に到着した時は、何処をどうやって運転したのか記憶がないほどに疲労困憊していた。
●老婆の正体
一夜明けても、昨日の恐怖はまだ覚めなかった。おまけに昨夜は老婆の顔がちらついてほとんど眠れなかった。そして様々な疑問が沸いてきた。昨夜見た老婆は一体何だったのだろうか・・・。霊か、それとも人だったのか・・・。イタコか行者が路傍で修行でもしていたのか・・。
老婆の眼光は明らかに生身の人間のものでは無い様に見えたし、悪霊の感覚が体中に伝わってきた。しかし、白い着物の白髪の老婆というのがあまりにもはまりすぎであり。またその姿が非常にリアルで、霊とは思えない程であったからである。
私はこの疑問を解消すべく、意を決して宿の番頭さんに一部始終を話してみることにした。番頭さんは話を聞き終わると「やっぱり、昨日何かあったのだなと思いましたよ。お二人とも顔面蒼白で、予定時間よりも随分と遅れてこられましたからね」と言った、そしてつぎのように話を続けた。
「イタコは夏の大祭と秋の大祭にしか恐山にいません。夏の大祭はとっくに終わりましたし、もし居残っていたとしても、恐山のお寺にいるはずですよ。あの三叉路といえば周囲には人家も一軒も無い辺鄙なところだし、ましてやあの雨の中、そんな時間に人が座っているなんて考えられませんね。お客さんが見たものは、やはりアレですよ・・・」
身震いと共に、髪を振り乱した老婆の顔が再び私の脳裏に甦った。
●結界
老婆の恨みに満ちた眼を見た時、私は完全に憑つかれたと思った。全身の血液が逆流するかのような恐怖というのは生まれて初めての体験であった。そしてあの雨の中事故もなく、寸断された林道を無事に走りぬけたのも不思議であった。幸いなことにその後の障りもなかった。
よくよく考えてみると、私の乗っていた車は一ヶ月ほど前に買い換えたばかりの新車で、友人の勧めもあって、某神社で念入りにお祓いを受けていた。その神社は皇族の方々も良くお払いを受けられるという、霊験あらたかな神社であった。また母が送ってくれた魔除けの護符がダッシュボードの中に収まっていた。どうやら、それらのおかげで車内には結界が張られており、霊障を受けずに済んだようであった。
その一年後、妻とは離婚することになった。この離婚騒動が恐山の霊障であったかどうかは定かではない。
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