■義理人情は世界に類なき美徳
次に我々ユダヤ人が是非学びたいと思うことに、日本の戦前にあった義理人情という美徳がある。武士の国日本では、他民族では絶対にもちえない繊細な心の機微というものがあった。本能的な西洋人には想像もつかない深遠な人間性の発露である。私は、この義理人情が究極点として天皇制に到達するものと考えている。
私の大好きなものの一つに大相撲があるが、ときどき「こんちわ相撲」ということを聞かされる。これを八百長相撲と表現する人もある。しかし私は、この表現は正しくないと思う。「貸し借り相撲」ともいわれる。この言葉はどちらともとれる言葉だが、「八百長」よりはましだと思う。つまるところ、日本の大相撲のそれは根本において義理人情から発しているものだという点を理解するまでに、私は相当の日月を要したのである。
武士道的義理人情から発したものであったため、戦前ではこの「こんちわ相撲」のことは角界以外には決して知られていなかったものである。つまり、マスコミの好餌となる材料ではなかったわけである。義理人情から出た結果なら、戦前の日本人なら決してそれを追及せず、そっとしておいてやる雅量をもっていたと思われる。しかるに戦後、特に義理人情がほとんど失われた今日では、単純に汚い八百長と同次元に考えられることのほうが多いようである。
ユダヤ人の社会には、日本ほどの義理人情というものは存在しない。しかし、同胞相助け合うという精神では日本の義理人情には及ばないものの、ある程度のものはもっている。少なくとも、欧米人よりは優れたものをもっていると思う。ユダヤ人はよく「感動の民族」だといわれる。これはビジネスにおいてもそうである。ふだんがめついと思われているユダヤ人でも、ちょっとした「感動」により時には利害を忘却したのではないかと思われるようなことがある。
決して恩に着せるわけではないが、この点に関する格好の例として我々ユダヤ人が自慢できるものがある。それは日露戦争の時、クーン・ローブ商会のヤコブ・シフが高橋是清と会って外債を引き受けたことである。
日本の勝利を予想した者がだれ一人いなかった日露戦争で、日本へ戦費の調達を考慮する者があろうはずもなかった。英国など日英同盟の関係から知らん顔はしにくいと思われるが、例によって全く打算的な態度であった。
ヤコブ・シフは、高橋是清と会っているうちに、いうにいわれぬ感動に陥ったのである。勿論シフには、ユダヤ人を迫害しているツァーを倒したいという考えも強く作用していたことは事実である。しかしそれにしても、必敗と予想されていた日本へ計算高いといわれるユダヤ人が何故に金を貸すのか。常識ではあり得ないことである。そこには、日本の義理人情に匹敵するユダヤ人の「涙」があったことを是非ご理解頂きたいと思うのである。
現在でも日本人とユダヤ人との商取引においてこのような「感動」の商法が行なわれている実例は、しばしば見受ける。ユダヤ人はこの「感動」をさらに高めて、日本の戦前の義理人情にまで高めたいと思っている。よろしくご指導願えれば幸甚の極みである。
次にユダヤ人がすばらしいと思うものに、戦前の武士道精神がある。
ラビのトケイヤー君も『日本人は死んだ』の中で「軍国主義のすべてが悪いとは思わない」という意味のことを書いているが、戦前の軍人精神というものは人間性の発露として至高のものであったと思う。個人の利害を忘却して全体のために奉仕するということに対するあれほどの完全さは、他民族には決して見られないものである。特攻隊員がその最たるものであることは、いうまでもない。
また、日露戦争以来、日本の陸海軍はいたるところで武士道精神を発揮してきたことは世界中から尊敬されている。
■「男は度胸、女は愛嬌」は男女の天分を表わすもの
その他では、戦前の日本人には「男は度胸」「女は愛嬌」という言葉があった。これは皆様も欧文に翻訳する時困った経験をお持ちであろうと思う。この「度胸」「愛嬌」に相当する欧米語が見当たらないからである。しかしこれは当然のことである。何故なら、この両者は欧米人の男女とももち合わせていないのであるから。
これは全くすばらしいものであると思う。男女の天分の顕著な発露であり、人間を最も個性的に飾るものとして、例のないパーソナリティである。男の「度胸」という点で、戦争中、「アメリカ兵は白兵戦になると赤ん坊のように声を上げて泣きだすのだ」と聞かされた銃後の日本人は、キョトンとして信じられないといった表情だったのだ。まさかいくらなんでも、兵隊たるもの、戦地で泣き出すなんて大げさな話だろうと考えたのである。これは、当時の日本人なら無理からぬ話である。然るにである、これは全くの事実なのである。つまり、アメリカ兵には「男の度胸」というものが備わっていない。「女の愛嬌」の問題にしても、戦前外遊した人々は欧米の女性に愛嬌がないという点を指摘していたものである。これは無論、今日でも変わらない。戦後の若い世代の日本人には、もはやこんなことを感ずる余地はないようである。この両者を戦後完全に失ってしまったからである。
これら多くの戦前の日本人がもっていた世界に類い稀な美点、長所は、我々ユダヤ人の理想を具現化したものであったのだ。しかるに第二次大戦の終結を機として、これらが完全に失われてしまったのである。真に残念というほかない。
今回私がどうしても本稿の筆をとろうと決意したのは、これら類い稀な人類の財産ともいうべき長所を喪失せしめた責任が実は我々ユダヤ人にあるということを率直に認め、深くお詫びすると同時に、我々の犯した過ちがいかなる思考、動機から惹起されたものかという点を詳しくご説明させて頂いて、一日も早くこれら美点を復活させて頂きたいと思ったからである。何度も繰り返す如く、これらは我々ユダヤ人の理想でもある。これらを積極的に自己の理想といえるのは日本人の他にはユダヤ人しかありえない、とはっきりいえると思う。
どうか、尊敬する日本のみなさま、これから私が解き明かすことをじっくりと検討され、戦後の病巣、社会的混乱、経済と精神衛生面の跛行性の原因をよくお考えいただきたいのである。
■西欧追随は文化の退化をもたらす
ただここでちょっとと申し述べておかなければならないのは、これら戦前の日本にあった類い稀な美点が戦後100%失われたということではない、ということである。
それはどういうことかというと、日本の社会の内部では、つまり日本人の間ではこれら美点が失われているのを認めなければならないが、日本人が外人に対するときはまた別の話だということである。つまり、国際的には日本人の美点は存分に生かされているということである。
比較文化論的に考察するに、日本人は西洋人一般よりも理性的にはるかに優れているといえよう。今まで述べた戦前の美点もつまるところ、日本人が理性的に西洋人をはるかに凌駕しているということに他ならない。この点で西洋人が日本人に追いつくには数世紀、いや数十世紀、あるいは永遠に追いつくことができないのかも知れない。
こういう相手とつき合う場合、否応なしにこの地球上で生存するためには付き合わなければならないが、このことがどういう結果になるかということである。
日本人は「国際性」という場合、100%西洋のペースに日本人が適応することというふうに考えているようであるが、これは人類の文化の退歩を招くことであり、断じてそうあってはならない。これは全く逆立ちしている。西洋人こそ日本人に適応させなければならない。何故なら日本人の理性の方がはるかに西洋人のそれより進んでいるのであるから。
ところが、西洋人は未だそんなことなど全く理解していない。はばかりながら、我々ユダヤ人はそのへんをおぼろげながら理解できると自負している。この点でも、ユダヤ人が一般西洋人より進歩した民族であると認めていただければ無上の光栄なのである。
この点が逆になったため、大東亜戦争は起こったのである。日本はなんとか戦争を避けようと、全くの善意から必要以上の譲歩をした。ところが相手は、その譲歩を全く単純に弱さの現われとしか取ることができなかった。
この理性的なものの差は、数世紀やそこらで埋まるものではないと私は考える。
残念ながら、現在の人類の理性の水準では、西洋人側の単純極まりない思考法が表通りを大手を振って歩いているのである。これでは人類の進歩はあり得ない。
(中略)
■ユダヤ人は日本人を理解できる唯一の外国人
我々ユダヤ人は、この逆説をひっくり返すために最大限の努力をする覚悟である。例えば、東西のかけ橋になるとか……。
その他、個人的交際においても日本人は対外人となると古来の伝統的美徳を完全に発揮している。しかしそれに対して一般外人は、これを全く理解する能力がないといわねばならない。このため、日本人はどれだけ損をしていることか。私は、このようなことがいつまでも続くことを耐え忍ぶことはできない。
手前勝手なようだが、ユダヤ人はこの日本人の特性をある程度理解でき、したがってそれなりのお返しを日本人にできる唯一の外人であると自負している。
私は結論として、当分の間日本人は外人に対して美徳を与えることは差し控えて、外人以上の低次元の感情的、非理性的、本能的な態度でもって外人に接するべきではないかと考える。そのような美徳は何もわからない外人にタダで与えるより、日本人のコミュニティの中で一日も早く復活させるべきではなかろうか。私はそう考えるのだが、しかし現実には日本人はなかなかそういうふうに割り切れないということも十分知っている。割り切れないということが、またしても日本人の理性的高尚さの証左であろう。
どこをどうつついても、西洋人は日本人には頭が上がらないのである。
(後略)
次回は
■日本人の知らない東京裁判の本質
●「日本人に謝りたい」あるユダヤ長老の懺悔
1979年 日新報道(刊)
モルデカイ・モーゼ (著), 久保田 政男 (翻訳) より
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