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相談事例紹介~辞めたいのに辞めさせてもらえない


NHKクローズアップ現代の「やめさせてくれない」でも取り上げられたように、会社を“辞めたいのに辞めさせてもらえない”といった相談がPOSSEにも多く寄せられています。この数ヶ月間の「辞めたい」という相談は、ざっと計算して2倍に増えています。(NHKクローズアップ現代「やめさせてくれない」については以前に本ブログでも紹介・解説しています。「4.26 NHKクローズアップ現代「やめさせてくれない ~急増する退職トラブル~」解説」をどうぞ。)

今回は、実際の相談事案をいくつか紹介していきたいと思います。(※個人情報保護のために、相談内容の一部を加工しています。)

まず、「辞めたい」と相談にこられた方の事例です。

 ○サービス分野、アルバイト、男性
 ・入社2ヶ月後から上司の暴力が始まった
 ・動きが遅いと殴られたり、「死ね」などの暴言をはかれたりする
 ・仕事中にけがをしたが、上司が怖くて病院に行きたいと言えない
 ・1日11時間の長時間労働
 ・2ヶ月間、賃金が払われていない
 ・辞めたいが、これも怖くて言い出せない

 ○金融・保険分野、正社員、女性
 ・最長で、1日14時間労働
 ・過労のために、もともとの持病が悪化してしまった
 ・辞めたいと言ったが、上司に「それは困る」と止められ、辞められない

 ○医療・福祉分野、正社員、女性
 ・入社直後からパワハラを受け、上司に辞めたいと伝えた
 ・研修を受ければ辞めさせてあげると言われたが、研修後も「もう少し」と言われる
 ・もう一度辞めたいと伝えたところ、「研修に行かせてやっただろ」と罵られた

 ○情報サービス分野、派遣社員、男性
 ・入社当初から、上司の脅迫まがいのパワハラを受けている
 ・辞めたいと言ったところ、1時間近く拘束され、説教された
 ・「契約期間中に辞めることは認めない」「転職したら、その会社に乗り込んでやる!」

こうした事案からは、「辞めたいけど、辞めたいと言えない」、あるいは「辞めたいと言ったのに、受け入れてもらえない」といった状態が垣間見られます。さらに、ここに挙げた事案は、いずれも勤続1年未満であるという特徴があります。ではなぜ、入社してから1年も経たずして、「辞めたい」となってしまうのでしょうか。結論から言えば、その背景に違法状態があるからです。多くの事案が、長時間労働やパワハラ、賃金未払いなどの問題を抱えています。「長時間労働で体調を崩してしまった」「上司のパワハラに耐えられない」「賃金が払われず生活できない」ために、働き続けることができず、「辞める」という選択をするのです。さらに、辞めたいと言って、すんなりそれが受け入れられたとしても、形式的には「自己都合」で辞めたことになってしまいます。これは、たしかに表面上、「自分から辞めた」ということになりますが、上に挙げた事例で辞めた場合、本当にこれを「自分の責任において辞めた」といえるのでしょうか。(より詳細については、川村遼平「退職を『偽装』される若者たち―2010年度POSSEアンケート調査報告」『POSSE』vol.9をご覧ください。)

以上のような事案の延長線上に、次のような問題があります。

 ○不動産分野、正社員、男性
 ・1日15時間の長時間労働
 ・賃金未払いもあり、辞めたい
 ・退職を申し出たところ、「辞めたら損害賠償を請求する」などと脅されている

これまで見てきたように、労働者が違法状態から脱出するには、現状として「辞める」ことがその唯一の手段となってしまっています。しかし、会社は違法行為を行っているにもかかわらず、損害賠償請求という文言を武器に、それすらも認めないのです。もちろん損害賠償を請求される根拠はありませんが、労働者にとっては「訴えられてしまった」ということ自体、大変なショックを受けることは想像に難くないと思います。こうしたことができてしまう背景に、会社と労働者の間にある圧倒的な力関係の差があります。もともと日本企業には、かなり広範囲にわたる人事権や業務命令権というものが認められてきました。しかし、上で紹介した事案は、会社が何でもできてしまうという「命令」が、正社員に対してだけではなく、アルバイトや派遣社員などの非正社員に対しても向けられているという点に、大きな特徴があるといえます。また、その「命令」自体も、もはや業務命令の一環とはいえないレベルにまで達してきているのです。

さらに、最近では、企業の脱法行為を助長・指導する、企業側の弁護士や社会保険労務士(社労士)の存在が問題です。

 ○医療・福祉分野、正社員、男性
 ・退職勧奨を受けたため、「会社都合」で辞められるよう申し出た
 ・「一身上の都合により」との退職届を書かされたが、会社は会社都合に合意
 ・しかし、会社が社労士に相談したところ、「自己都合」とのアドバイスを受けたそう
 ・会社いわく、社労士が「特別の事情がなければ会社都合にはできない」と言っていた

会社に離職に関する知識がないのはもちろんのこと、この社労士も間違ったことを言っています。こうした「ブラック士業」は、法律を無視したような助言を会社にすることでお金儲けをしていますが、労働者が不利益を被るばかりか、会社にとってもマイナスの影響を与えるといえます。なぜなら、後々労働者側が争ってきたときに、会社は行為の正当性を主張することができないからです。しかし、一方で、会社の脱法・違法行為に対して声を挙げることのできる労働者がほとんどいないのが現実です。こうした状況が「ブラック士業」を存続させているといえるかもしれません。

労働者が一人で会社に対峙することはもちろん容易いことではありません。POSSEでは、相談活動を通した解決までのサポートをすることで、こうした企業・「ブラック士業」の問題に取り組んでいきたいと思います。

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NPO法人POSSE(ポッセ)は、社会人や学生のボランティアが集まり、年間400件以上の労働相談を受け、解決のアドバイスをしているNPO法人です。また、そうした相談から見えてきた問題について、例年500人・3000人規模の調査を実施しています。こうした活動を通じて、若者自身が社会のあり方にコミットすることを 目指します。

なお、NPO法人POSSE(ポッセ)では、調査活動や労働相談、セミナーの企画・運営など、キャンペーンを共に推進していくボランティアスタッフを募集しています。自分の興味に合わせて能力を発揮できます。また、東日本大震災における被災地支援・復興支援ボランティアも募集致します。今回の震災復興に関心を持ち、取り組んで くださる方のご応募をお待ちしています。少しでも興味のある方は、下記の連絡先までご一報下さい。
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