日本は先進諸国の中でも突出して女性の社会進出が遅れている。しかし、少子化が進むこの国で、男性ばかりに才能を求めていては、いずれ人材は枯渇してしまうだろう。女性が能力を十分に発揮できる素地が整っておらず、人材として重視しない日本を、著者は批判的に捉える。
女性の活躍の機会が限定的である理由はなぜか。そうした現状を克服するためには何が必要か。こうした問いかけから出発し、著者は豊富な統計資料と国際比較を用いて分析を試みている。
例えば、日本の政治の場では、女性議員の少なさが際立つ。そのため、女性の意思を生活分野や福祉分野の政策に反映することにハードルが存在している。
また、国内の企業の取締役における女性の比率は1.4%である。女性の登用施策や処遇を大きく左右する取締役会に女性が参加している数が少ないため、女性が働きやすい職場づくりが達成されていない。
こうした女性の発言権の低さが影響して、職場における待遇に男女格差が生じている。例えば、昇進や昇格がある総合職と、昇格が途中で止まってしまう一般職とのコース区分で採用し、女性の多くを一般職に配置する会社は珍しくない。また、パートタイマーや派遣などの非正規労働者の多くは女性であり、不安定な雇用と低賃金に直面している。
では、問題にどう対処するべきか。著者は海外のさまざまな取り組みから示唆を得ている。
例えば、国際的には選挙で女性に一定の議席を確保するために「クォータ(割り当て)制度」を導入することが一般的となっている。また、アメリカでは社外取締役というものが企業に定着しているため、日本のように管理職からの抜擢で取締役になるという固定的な人事にはならない。
こうした事例から、筆者は産業の構造的な変化が重要であると述べる。つまり、従来型の性別役割分業を越えて、女性の能力発揮の機会を保障するべきなのである。日本の歴史を振り替えると、高度経済成長は性別役割分業の上に成り立っていたと言える。企業は男性を長時間働かせて、時間単位の賃金を抑え込んだ。同時に、女性をパートタイマーとして働かせることでさらに賃金のコストを抑えた。そして、国家は福祉を女性を中心とした家族福祉に担わせて、福祉予算を抑えた分を企業に分配する。こうした筋道で、日本は国際競争で優位に立った。
しかし、日本の競争力は女性の能力を都合よく利用することで成り立っていた点を筆者は批判する。政府や企業は女性の貢献度の拡大を求めがちであるが、女性の諸活動を支える保育や介護に対する公的な支援は不十分であり、依然として「女性たちからは悲鳴のような声が上がって」(P.62)いる。
女性の社会進出が促され、男女ともに負担から開放されるためには、性別にとらわれず正当に能力が認められる社会でなければならない。そのためには、ゆとりある働き方や暮らし方を実現するために必要なことなど、女性自身の生の声をあげられる発言の機会を広げる施策が欠かせない。これは政治の場だけでなく、職場でも同じである。著者は男女間の所得格差、総合職と一般職という採用区分、雇用機会均等法による女性の長時間労働の増加、といった問題に対応するため、雇用形態や性別ではなく仕事の内容で賃金を決める「同一労働同一賃金」の必要性にも触れている。正当な評価のもとで、女性が能力を発揮できるためには、まずは男女分業を乗り越え、男女平等に声をあげられるような産業の構造的な変化が必要である。
【本の概要】
著者名:竹信三恵子
書 名:『女性を活用する国、しない国』
出版社:岩波書店
出版年:2010年
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