とはいえ、昨今の情勢を反映してか、労働法の入門書は少なくない。今年に入ってからも、POSSEもお世話になっている笹山弁護士が書かれた『労働法はぼくらの味方!』(岩波ジュニア新書)など、優れた入門書が出版されている。そんななか、本書の意義はどこにあるのか。
第一に、読みやすく、わかりやすい。入門書だから当然かもしれないが、これは大事な点だ。いくら労働法が詳細に説明されていても、熱心に精読しないと理解できないようでは「使える」入門書とはいえない。「マジで使える」ことを目指すなら、長時間労働によって疲れ果てた労働者、仕事で気力を使い果たした労働者が帰りの電車で読む気になるような本でなければダメだろう。そういう労働者こそが、もっとも本書のような入門書を必要としている層であるからだ。
その点、本書は非常に読みやすく、わかりやすい。著者だけでなく、編集担当者の力も与ってのことだろうが、ぱっと読んですぐに理解できる。くだけた文体ながら、文章が練られているからだろう。レイアウトもみやすい。本書のような入門書が「マジで使える」かどうかは、こういう形式面が大事になってくるが、まずはその点はクリアしている。
第二に、内容が実践的であること。たしかに、読みやすさと簡潔さを重視しているためか、労働法じたいの説明は他の入門書よりも少ない。しかし、働き手の側からみれば、具体的なケースに即して、過不足なく有益な情報が提供されている(もちろん、労働法そのものを勉強するときには本書は不十分だが)。
また、「労働法」と銘打ってはあるが、労働法にとどまらず、職業訓練制度などにも言及されている点もよい。日本の場合、ヨーロッパに比べて、職業訓練制度がきっちりと整備されてことなかったので、「使える」というイメージはあまりない。しかし、既存の日本型雇用システムが機能不全に陥っている現在、職業訓練の重要性は高まっていくと考えられる。こうした視点は類書にはあまりなかったものであろう。
第三に、労働法が市民社会を変えていく武器として位置づけられていること。本のタイトルだけをみれば、ありがちなハウツー本のようにみえるが、本書の「あとがき」では、市民社会のルールを変えていくことの必要性が力説される。たしかに、昨今の日本社会において労働環境も社会保障もボロボロになっている理由のひとつは市民社会で獲得した権利が脆弱であったことだ。この点をなんとかしなければ、生存がきっちりと保証される社会を実現していくことができない。
本書においては、労働法がそのためのツールとして位置づけられている。つまり、労働法の意義とはたんに労働条件や労働組合ついて法律に定められているということではない。むしろ、それらの法を武器にして、裁判なり、組合運動なりをつうじて実践し、そのことをつうじて市民社会のルールや規範を塗り替えていくことにこそ意味があると強調されている。
そういえばフランツ・ファノンが、ただ与えられただけの権利は本当の権利ではなく、闘って認めさせた権利こそが本当の権利なんだ、ということを書いていた。まさにそのような権利として労働法を鍛え直していく営みこそが、労働法を「マジで使える」ものにしていくのであろう。
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