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NPO法人POSSE(ポッセ) blog

映画『フツーの仕事がしたい』評

 4月29日、死者7名・重体3名を出す凄惨な事故が起きました。事故を起こして逮捕されたドライバーは金沢から東京まで1人で夜行バスを運転しており、疲れていて居眠りをしてしまったと証言しているそうです。

 この事故がたいへん注目されていますが、ドライバーの長時間労働は様々な業界に波及しています。そこで、今回は、日本の労働問題を描いたドキュメンタリーとして屈指の作品だと思う映画を紹介します。

 土屋トカチ監督『フツーの仕事がしたい』(2009年・70分)。今年になって、ついに全国の書店やアマゾンで手に入れることができるようになりました。これを機に、働き方に興味や疑問を持っている全ての方にこの映画を観てもらいたいと思いますし、まだ働き方に興味を持っていない人にも紹介してほしいと思います。

 まずは、あらすじを。

 ――皆倉信和さん(36歳)は根っからの車好き。高校卒業後、運送関連の仕事を転々とし、現在はセメント輸送運転手として働いている。しかし月552 時間にも及ぶ労働時間ゆえ、家に帰れない日々が続き、心身ともにボロボロな状態。「会社が赤字だから」と賃金も一方的に下がった。生活に限界を感じた皆倉さんは、“誰でも一人でもどんな職業でも加入できる”という文句を頼りにユニオン(労働組合)の扉を叩く。しかし、彼を待っていたのは、会社ぐるみのユニオン脱退工作だった。・・・生き残るための闘いが、否が応でも始まった。

 2分ほどの予告編も監督のブログで観ることができます(http://nomalabor.exblog.jp/)。ここで取り上げられているのは、皆倉信和さんのお母さんの葬儀を会社が妨害に来るシーン。作中のハイライトのひとつです。

 皆倉さんの行く末が気になった方、続きはぜひDVDでどうぞ。まだ決心のつかない方は、映画の見どころを3つ紹介しますので、いましばしお付き合いください。

 一つ目は、労働者の視点でしっかり描ききった映画だということです。土屋監督はプロダクションノート「だれのために撮るのか だれの目線で撮るのか」で、中立な観察者ではいられなかった、自分も当事者にさせられてしまったと告白しています。僕は中立でないことは映画の内容を損なうものではなく、むしろ非常に大事なことだと思っています。実際に、皆倉さんと一緒に会社の雇った連中に蹴られた土屋監督でなければ、その位置に土屋監督がいなければ、決して撮れなかったシーンがたくさんあります。

 二つ目は、産業全体の問題を描いていることです。皆倉さんに暴力をふるっている会社は、住友大阪セメントを頂点とする下請けピラミッドの3段目に位置していることが作品を通して明らかになります。住友大阪セメントのような背景資本の登場や過積載による死亡事故などの話によって、皆倉さんの痛みが決して彼一人の痛みではないこと、例外的に悪い企業がもたらした痛みではないことを学べるはずです。

 三つ目は、事件が解決すること、しかもそれが労働組合の力によるものであることです。僕の知る範囲でも、労働者の苦境を描いた素晴らしい作品はたくさん生み出されています。しかし、「こういう風に解決できるんですよ」と伝えたくなるような解決を描いたものは、実に稀有です。この解決の方法や中身は、労働基準監督署などの行政の窓口に頼っても、裁判を起こしても、恐らく達成不可能なものです。その解決を描いたところに、この映画の一番のすごさがあります。

 おかしな働き方は、皆の力が集まりさえすれば、いくらでも私たちの予想を超えて解決することができます。この映画が観客を惹きつけるのは、皆倉さんと彼を支えたユニオンの人たちが実際に示したその展望が魅力的だからなのかもしれません。

NPO法人POSSE(ポッセ)事務局長・川村遼平

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書籍名:『DVD BOOKフツーの仕事がしたい』
監 督:土屋トカチ
内 容:本編(70分)+特典映像(43分)+ガイドブック
出版社:旬報社
出版日:2012年1月11日
言 語:日本語
http://www.amazon.co.jp/gp/product/toc/484511254X/

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NPO法人POSSE(ポッセ)は、社会人や学生のボランティアが集まり、年間400件以上の労働相談を受け、解決のアドバイスをしているNPO法人です。また、そうした相談 から見えてきた問題について、例年500人・3000人規模の調査を実施しています。こうした活動を通じて、若者自身が社会のあり方にコミットすることを 目指します。

なお、NPO法人POSSE(ポッセ)では、調査活動や労働相談、セミナーの企画・運営など、キャンペーンを共に推進していくボランティアスタッフを募集しています。自分の興 味に合わせて能力を発揮できます。また、東日本大震災における被災地支援・復興支援ボランティアも募集致します。今回の震災復興に関心を持ち、取り組んで くださる方のご応募をお待ちしています。少しでも興味のある方は、下記の連絡先までご一報下さい。
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事務局長:川村 遼平(かわむら りょうへい)
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