短大を卒業したAさんは生花店での採用を得たが、同じ社長が経営する全く別の会社で、全く別の仕事をするよう命じられた。3ヶ月ほどして「生花店での仕事はいつからできるか」と聞いてみた。すると、「生花店での仕事は実は無いので、あなたの希望に答えることはできない。今回の話はなかったことにしましょう。明日から来なくていいです」と言われてしまった。
Bさんの会社では、みんな始業30分前には出社して無給で働いている。Cさんは職場のためを思って社長と交渉し、パート・アルバイトにはその分の手当が支給されることになった。理由は「正社員は辞めないからいいが、パートやバイトに辞められると困るから」だという。そして当のCさんは、会社に「たてついた」ことを理由に、退職を勧奨されるようになってしまった。
Cさんは、きらびやかなイメージのある大手人材総合会社に入った正社員。しかし、4月になっていきなり子会社への出向が決まる。1000人いた同期は、約半数が2つの子会社へ振り分けられた。子会社での仕事はPC周辺機器の訪問販売。会社から渡されたマニュアルは、消費者を騙して売るような内容だった。Dさんがそんな仕事に辟易していた矢先、もう1つの子会社が倒産。数百人の同期は親会社に戻すなどの措置を取られることもなく、そのまま解雇となった。Dさんも職務内容に疲れ果て、退職を決意する。POSSEに来たのは、「こういう実態が大手で平然と行われていることを伝えたい」という気持ちからだった。
◆「新卒切り」はどうして起こるの? ~「切られる」企業の見極め方~
こうした「新卒切り」が起こる背景の一つには、「早期の選別」が挙げられる。
企業は、今や長期雇用を前提に正社員を採用していない場合がほとんどだ。数年で辞めさせることを前提に働かせる以上、研修などに使う育成の時間は「無駄」なコストとみなされる。だから、すぐに使えない社員や、少しでも文句を言う社員は、すぐにクビにしてしまう方が効率的だと企業が考えるようになっている。
こういう企業は、内定者を決定してから4月までの間に無給で(あるいは安い研修費を払って)研修を行い、4月からは入社数年目の社員と同じ結果を出すことを新入社員に求めていく。
そして、全く口答えせず、この要求を高度に達成できた労働者だけが数年後も会社にいることを許される。反対に、その少ない椅子を勝ち取れなかった大量の新入社員は、退社を余儀なくされるという構図が成立しているのだ。これが、「新卒切り」の背景である。
「新卒切り」を行う企業を入社前に見極めるには、いくつかのポイントがある。
①新卒採用人数が多い割に、職場の人数が少ない。
②勤続年数の長い人の割合が少ない。
③常に新入社員を募集している。
このポイントのどれかに該当する企業に入る際は、ある程度の「覚悟」をしておくことが必要になるだろう。こうした企業では、「定年退職までこの会社で働こう」なんていう考えは幻想にすぎない。
◆「新卒切り」への対処術① ~納得いかない、と思ったら~
まず大事な認識は、法律的には、実際に行われているほど簡単に解雇はできない、ということだ。適切な手段をとりさえすれば、合理的な理由の無い解雇は違法となる。
解雇に関するルールにはまず、解雇は「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当」でない場合には無効となるというものがある。
こうしたルールがあるので、「営業成績が悪い」とか、「暗い」とか、「生意気だ」とか、「休みが多い」とか、そんな理由だけですぐに人を辞めさせることはできない。よほどの落ち度が自分に無い限り、合理的な解雇はありえない。
ただし、一つだけ例外がある。それが、業績悪化のための人員整理(いわゆる「整理解雇」)だ。この「整理解雇」だけはそれほどの落ち度が無くても労働者を辞めさせることができるため、「整理解雇」でクビにしようとする会社が少なくない。しかし、「整理解雇」にも条件はある。
①経営上の高度な必要性がある
②解雇を回避する努力を会社が十分行った
③人員選定に合理性がある
④説明・協議を十分行った
この4つの条件を満たさない「整理解雇」は違法なものとなる。
しかし、「整理解雇」にしろ普通の解雇にしろ、合法になるかどうかは究極的にはケースバイケースだ。だから、「納得いかない」、「自分には解雇になるほど落ち度はない」と思ったときは、まずNPO法人POSSE(ポッセ)などの相談窓口に連絡してほしい。
不当な解雇に遭った場合は、企業に対して働き続けられるように求めたり(=地位確認)、損害賠償を求めたりすることができる。
この交渉は、主に3つのやり方がある。
①弁護士に依頼して労働審判制度を利用する方法
②労働組合に加入して団体交渉を行う方法
③行政の「あっせん」という制度を利用する方法
交渉するかどうかはっきり決めていない段階でも、再就職の難しい時勢でもある。まずは専門家に話を聞いて、自分にどういう選択肢があるのかを考えてほしい。
◆「新卒切り」への対処術② ~辞表を書くのは絶対避けよう~
しかし、こうした賠償請求は、あくまで「労働者は働き続けたいと思っているのに、使用者が一方的に契約を解除した」場合にのみ行うことができる。労使双方が互いに納得して雇用契約を解除するなら、それは「不当な解雇」ではなく「正当な退職」だからだ。
だから、ブラックな会社は労働者に辞表を書かせて、労働者から辞めたがった体裁をとろうとする。
この会社の申し出に応じて辞表を書いてしまうと、解雇について争うことができないばかりか、今度は逆に自分が勝手に辞めたことになってしまい、雇用保険を受給することも困難になってしまう。
辞表を書くように求められたときの対処法は、「その場では絶対に応じない」ことだ。はっきりと拒否することが難しかったら、「考えさせて下さい」と言ってその場では判断を保留してもいい。そして、帰ってからすぐに専門家に相談しよう。
◆実は「新卒切り」よりも多い! 「3年使い切り」型のブラック企業に悩む若者
実は、NPO法人POSSE(ポッセ)に寄せられる新卒者からの相談事例としては、「新卒切り」の割合はそれほど多くない。
先ほども述べたように、使用者は短期間で労働者を効率良く使おうとする。1年~3年でいなくなることを前提に、労働者を使い切ろうとするのだ。こうした企業からは、「働き続けることが辛い」という相談が後を絶たない。具体的には以下のようなものだ。
・募集のときに聞いていた内容と実際の働き方が全然違う
・週に1日も休みがとれない
・労働時間が長すぎる上に、残業代が出ない
・詐欺まがいの経営をしていて、働くことが辛い
・暴行や暴言を受けている
こうした「3年使い切り型」とでも呼ぶべきブラック企業で働いている人は、「せっかく正社員で就職先を見つけたのに、こんな会社で働いていて将来どうなるのだろうか?」という悩みを共通して抱えている。
そして、「3年使い切り型」のブラック企業に特徴的なのは、「辞めさせてもらえない」ことだ。「もうこんな会社では働きたくない」と思っても、辞めることすら許されない。こうした会社では、病気になって働けなくなって初めて「クビにしてもらえる」のだ。
逆に、「会社の状況は悪いけど、せっかく見つかった正社員だし、がんばって働こう」と思っても、報われることは少ない。我慢してがんばった結果、体を壊したりうつ病になったりして休職し、そのまま何の補償も無く解雇されるなんていうことも珍しくない。体調を崩して辞めさせられると、再就職も非常に難しくなってしまう。
「辞めようかと思う」くらいに会社の働き方が辛ければ、まずは違法な働き方を自分がしていないか考えてみよう。残業代が出ていなければ、それは違法だ。週に1日も休みが取れていなければ、それも違法だ。毎日4時間残業していれば、週休2日でも完全に生理的に限界を超えている。
「3年使い切り型」のブラック企業に悩んでいる場合も、法律をきちんと使えば、新たな職場で再スタートを切る準備をしたり、今の職場で働き方を変えたり、様々なことができる。「きついな」、「おかしいな」と思ったら、専門家に相談してみよう。
****************************
NPO法人POSSE(ポッセ)は、社会人や学生のボランティアが集まり、年間400件以上の労働相談を受け、解決のアドバイスをしているNPO法人です。また、そうした相談 から見えてきた問題について、例年500人・3000人規模の調査を実施しています。こうした活動を通じて、若者自身が社会のあり方にコミットすることを 目指します。
なお、NPO法人POSSE(ポッセ)では、調査活動や労働相談、セミナーの企画・運営など、キャンペーンを共に推進していくボランティアスタッフを募集しています。自分の興 味に合わせて能力を発揮できます。また、東日本大震災における被災地支援・復興支援ボランティアも募集致します。今回の震災復興に関心を持ち、取り組んで くださる方のご応募をお待ちしています。少しでも興味のある方は、下記の連絡先までご一報下さい。
____________________________________________________
NPO法人POSSE(ポッセ)
代表:今野 晴貴(こんの はるき)
事務局長:川村 遼平(かわむら りょうへい)
所在地:東京都世田谷区北沢4-17-15ローゼンハイム下北沢201号
TEL:03-6699-9359
FAX:03-6699-9374
E-mail:info@npoposse.jp
HP:http://www.npoposse.jp/
最新の画像もっと見る
最近の「労働相談」カテゴリーもっと見る
最近の記事
カテゴリー
バックナンバー
人気記事